君一路

白という字も墨で書く


目の前に広がる光景に、既視感を覚えた

なんだっけ、これ、


そうだ、

二十年前の、あの




「おい、下がれ!そこはまだヤツの範囲内、グッ!」

「芦矢十七席!」

「俺のことは気にすんないいから走れ!!」


全部同じだ。

予定外の巨大虚の出現も、逃げ惑う仲間達の姿も、既に地に臥して息も絶え絶えの隊員も。敵の手に捕まる、仲間……芦矢も。

あの時はどうしたんだっけ。そうだ、私はここで鬼道を撃ったんだ。そうしたら皆無事だったけど、私は決して短くない時間を一人で過ごしたんだ。なんだろう、私はそういう星の下にでも生まれたのかな?

今ここで、また鬼道を撃ったらどうなるんだろう。もう制御はできる。芦矢に当てないように高位鬼道を放つことだって、私はあの五年間の修業でできるようになった。

でも、手の震えが止まらない。情けなさすぎる。こんなんじゃ、芦矢が気に入らないのも当然だ。喜助さんにも夜一さんにも、そして何より、修業をつけてくれたうえに私を引き取ってくれた大鬼道長に申し訳が立たない。


その時、



<逃げるのか>



心の中に響くように、低くおどろおどろしい男の声が聞こえた。これは最近毎日聞いている私の刀の声だった。



<貴様は何に怯えている。己の巨大な力にか、それともまさか、また孤独になることをか。全く、くだらぬ>


昨日と変わらないその物言いに、こんな状況にもかかわらずカチンとくる。くだらないって…。アンタに何が分かるの。孤独を恐れて何が悪いの。


<制御できぬ力は畏れを生む。しかし小娘、今の貴様は違うだろう。圧倒的な力は正しく行使すれば生まれるのは羨望、尊敬。孤独を嫌うならば、示して周りを惹き付けろ>


簡単に言ってくれる。そもそもアンタ、散々私をこき下ろしてた癖に励ましてくれてんの?どんな風の吹き回しよ。


<いい加減、持ち主の情けない姿に我慢ならなくなった。我を扱う死神がこんな心意気の者であってはならぬ。誓え小娘。二度と鬼から逃げぬと。鬼を従え生きることを>


刀の言っていることがいまいち的を得なくて首を傾げる。鬼?鬼を従えるって、どういう…。しかし、そんなことを考える時間なんてなかった。

虚の腕が振り上げられるのが見えた。あれは芦矢に当たる。あんなのくらったらあいつは一堪りも無い。助けなきゃ。


私が、動かなきゃいけないんだ




「…誓う、まだ名を知らぬ私の刀。私は恐れない、孤独を振り払う。だから、」



ニヤリ。頭の中に、初めて見下す以外の笑みを浮かべたヤツの顔が、満足げに浮かび上がった。



<…よかろう。ならば貴様に与えよう。まだその片鱗に過ぎぬ小娘よ。……我は鬼を支配下に置く王。我の真名は、>





「<映せ>、絵鏡!!!」