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君一路

意見するのは親身の人と


解号と共に姿を変えた「絵鏡」を、芦矢が捕まっている腕の根本めがけて振り下ろす。不思議な感覚だ。初めて使う武器なのに、どんな風に扱えばいいか、どうやって戦えばいいか自然と身体が動く。

切り落とした腕から放り出された芦矢を保護するべく、私はかつて二番隊にも配属された瞬歩で近寄り彼を抱えて距離をとる。茫然としている芦矢は声もなくただただ私を見上げていた。後ろからは「鏑木十七席…!」と私を案じる平隊士の声が聞こえる。




「お、お前、いつの間に始解なんて…!」

「ついさっき」

「はぁ!?」



訳が分からないとでも言いたげに顔を歪めた芦矢だったが、私の様子が先程とはあまりに違うことを察すると、今度は戸惑ったような声をあげた。



「お前、一体何が…」

「詳しいことは後で説明するから」



右手を突き出し指を立て、左手を腕に添える。それは霊術院を卒業していれば誰もが一度は目にする構え。芦矢は異論を唱えるように声を張り上げた。



「馬鹿かお前!あんなでかい巨大虚相手にそんな鬼道が通じるかよ!!」

「芦矢十七席、」

「っ」


芦矢は思わずといったように口を閉じた。私が入隊してから喧嘩や言い合いばかりで、まともな会話なんて最低限の業務の伝達だけ。そんな先輩としても後輩としてもなっていない態度ばかりとっていた私達が、今お互いの目を見つめあって意志を図ろうとしている。



「今までごめん。私、誓ったんだ。私のこの力は、例え他から遠ざけられたとしても、鬼道衆の為に使う。もう逃げないから」

「は、何言って、」



右手に一気に霊圧を送り込む。腕を落とされて動きが止まっている虚は恰好の的だった。




「破道の三十三、蒼火墜!!」




ドォォオオォォンという凄まじい破壊音と地鳴りに、周りにいた平隊士は勿論、しゃがみこんでいた芦矢でさえもその衝撃波に腕で顔をかばった。濃すぎる土煙のせいで視認できないが、巨大な霊圧は消えていた。当たり前だ。私は霊術院を卒業したての身で、破道の一で巨大虚を一撃で葬った。大鬼道長から手ほどきを受けた五年のことを考えれば、倒せることは分かり切っていたのだ。

けれど、私は怖気づいた。二十年の孤独を繰り返したくなかった。そんな私の弱さが行動を縛り、結果、生まなくていい怪我人がでてしまっている。私は情けなさから唇を噛んだ。


やがて土煙が晴れ、そこには予想通り虚の姿はなかった。そのことにまずは一つ、安心の息を零す。…問題は、こっちだ。


おそるおそる。仲間たちを振り返った。平隊士の顔、そして芦矢の顔を見る。




私は、拍子抜けした





「す、すげぇ…!!」
「じゅ、十七席!今の、今のって蒼火墜ですよね!?」
「私、あんな威力の蒼火墜初めて見ました!!」
「こ、今度稽古ご一緒してもいいですか…!?」

「、え?」




どんな顔を向けられるんだろう、と怖がっていた私が馬鹿みたいに思えた。皆、私の蒼火墜を凄いといって周りに集まってきた。怪我をしている隊士に回道を施せば、その治療の速さにまた驚かれた。正直、回道はマユリさんに仕込まれたこともあって四番隊に入隊できるくらいには習得している。けれど、これを誰かから評価されることなんて、…それこそ、本当に久しぶりのことで、凄くくすぐったかった。



「おい」

「!」


聞こえてきた低い声に、平隊士の皆と一緒に肩を跳ねさせた。振り向けばそこには予想通りというかなんというか、仏頂面の芦矢十七席がいた。なんと空気の読める仲間たちであろうか、隊士の皆は私が吹き飛ばして更地と化した土地の後始末のため四方に散らばって仕事を始めた(逃げたともいう)。



「…その斬魄刀は?」

「…え、あ…さっき、危険だって思ったら急に精神世界に引きずり込まれて…なんというか、仕方なく?教えられた」


もともと対話も同調もできてたんだけど、名前だけ教えてくれなくて、と正直に答えれば、芦矢は「仕方なくってなんだよ」と小さく噴き出した。芦矢の笑った顔を見るのは初めてのことで、いつも眉間にしわを寄せていたから気が付かなかったが意外と童顔なんだなと些細な発見があった。

自分の斬魄刀を改めて見る。それは精神世界で彼が、いや、絵鏡がいつも手にしていた等身大の金剛杵だった。両端に鋭く槍状の突起がついている。どうやらこの斬魄刀は私の持つ鬼道の力を融合できるらしい。その威力は先程、巨大虚の腕をいとも簡単に切り落としたことで示してくれた。なんだか夜一さんが「まだ修行中だ」と言いつつも見せてくれた“しゅんこう”?に似ているなと思った。



「俺はさ、自分が鬼道衆であることに誇りを持っている。後方支援だなんだ言われてるけど、俺たちがいなきゃ十三隊の死神は現世に行くこともできないし、戦闘だって負けるつもりはない」


突然始まった話に斬魄刀から芦矢に意識を戻すと、彼はこれ以上ないくらい口をへの字に曲げていた。



「俺はお前が気に食わなかった」

「知ってる」

「だろうな」


ふっ、と呆れたように息を漏らした芦矢だったが、気を取り直したようにつらつらと止まることなく私の気に入らない点を述べていき、思わずヒクッと自分の口がひきつるのが分かった。


「入隊してから数週間経つのに人前で鬼道を撃たねえ。虚討伐だって浅打で切り抜けようとする。鬼道衆のくせに、どうしてか鬼道に怯えてる。なのに大鬼道長からは目をかけられてる。アンタからは自分が鬼道衆だって自覚が微塵も感じられなくて、俺はそれが腹立たしかった」

「芦矢、」

「だからこそなんか、なんか、今の蒼火墜はなんか悔しかった!!あんなすげえの撃てるのにそれを隠してたとか!言いたくねえけど俺より出来るのにギャアギャア突っかかってた俺が馬鹿みてえじゃねえか!!」

「ちょ、」

「なに!?いきなり入隊して席官についてこんな鬼道撃ったら嫉まれるとか思ったのか!?ふざけんなここは鬼道衆だぞ鬼道ができるやつが上にいんのが当たり前だろちくしょう!!」

「え、芦矢ってそんな性格だったの?」

「うるせえ素直に八つ当たりさせろ!」

「んな理不尽な!」



いつもと変わらないトーンの言い合いだが、そこには感じていた敵意なんてものがなかった。なんだかんだ言いながらも、今の鬼道で私のことを少しは認めてくれたらしい。彼は本当に鬼道に懸けていて、自分が鬼道衆であることに誇りを持っているんだと感じた。

私もいつか、そんな風になれるだろうか。



「で、何で鬼道ができること隠してたんだ?」

「!え…っと、それは、…」

「……まあ、別に無理やり問い詰めるつもりはねえよ。そのかわりといっちゃなんだが、修行に付き合ってくれ」

「修行?」

「今俺は断空を習得中なんだよ。悔しいけど、お前の破道を防げたら術としては完璧だろ。…もちろんつきあってくれるよな?“天音”?」

「!」



急に態度が変わったのは、何も私だけじゃなかったみたいだ。彼は鬼道衆を何より大切にしているからこそ何時までたっても中途半端な私が気に食わなかっただけで、きっと身内や自分が認めた者にはとことん甘いのだろうことが窺えた。

喧嘩中の掛け合いも今思えばちょっと楽しかった気もする。もしかしたら私たちは、上手くいけば良い相棒になれるかもしれない。漠然とだがそう感じ、私は笑って右手を差し出した。



「仕方ないから付き合ってあげるよ、尚」

「いきなり先輩を呼び捨てか?」

「いきなり女性を呼び捨てするの?」

「なぁにが女性だ!俺の方が入隊歴も歳も上だろ、がきんちょ!」

「大鬼道長に聞いたけど、入隊歴はともかく私のほうが霊術院卒業年度は十年上だってさ」

「…まじ?」

「まあ鬼道衆においては先輩ってことに変わりないけどね。よし、じゃあここは先輩の奢りでご飯でもどうですか」

「おいなに手でお金マーク作ってんだよ良い笑顔止めろ」

「尚、これからよろしくね」

「結局呼び捨てかよ。…まあ席次一緒だしな、よろしくしてやるよ、天音」

「お腹すいたね」

「自由かよ」



「十七席!!お二方とも話してないで調査の確認してくださいよ!!」



「「あ」」