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ある朝目覚めると、いつもの部屋にハロウィンの姿がありませんでした。
名前を呼んでも、返事はありません。
エンヴィーは急に恐ろしくなって、屋敷中を探し回りました。

「ハロウィン!ハロウィン!」

大広間に出ると、階段の下、扉の隅にハロウィンが倒れていました。
うつ伏せになってピクリとも動かないハロウィンを見て、エンヴィーは驚きのあまり彼女に駆け寄りました。
大きな手で抱き起こすと、彼女の口から沢山の血液が垂れていることがわかりました。
カーペットには点々と赤い染みができていて、それが彼女のものだと理解すると、どうしようもなく悲しくなりました。
ハロウィンは微かに息をしていました。
エンヴィーは何度も、彼女の名前を呼びました。ハロウィンの小さな身体を揺さぶり、目を覚ますのを待ちました。
少女はげほげほと咳をして、それからまた血液を零しました。

「……エンヴィー?」

「ハロウィン!」

少女はうっすらと目を開けて、エンヴィーを見上げました。
ハロウィンの青い目は涙で濡れてキラキラと光っていました。

「ごめんなさい……エンヴィー……ごめんなさい……」

「大丈夫……?ねぇ、ハロウィン……!」

うわ言のように何度も謝るハロウィンの顔は真っ青で、エンヴィーはもう彼女の命が長くないことを悟りました。

「そうだ、お医者さんに……」

少女はエンヴィーの言葉を遮るように、首を振りました。

「本当は、知ってたの……」

ハロウィンは、血の混じった息を吐き出しながら、エンヴィーの腕の中でぽつりと呟きました。

「パパやママがお家から出してくれないのは、私の病気が治らないから……誰かに移しちゃう、怖い病気」

少女の声は、次第に小さく、弱くなって行きました。

「だけど……そんなこと言ったら、エンヴィーが私と喋ってくれなくなると思って……」

エンヴィーは次第に弱って行く彼女をただ見つめることしかできませんでした。

「……言えなかったの……嘘をついて、ごめんね……」

少女は涙を零しながら、エンヴィーに何度も謝りました。
エンヴィーは胸が締め付けられるような思いで、ハロウィンに語りかけました。

「言えなかったことがあるんだ」

ハロウィンを抱きかかえる腕が震えているのがわかりました。

「僕は……私は……本当は、人間の姿なんかじゃない…」

少女はじっと、エンヴィーの言葉に耳を傾けていました。

「……化物なんだ…大きくて鱗があって、手足が四本もある………だから本当は、ハロウィンが思ってるよりもずっと、醜い姿をしているんだよ……」

ハロウィンは抱きかかえているエンヴィーの温かい気配を確かに感じていました。
少女が手を伸ばすと、エンヴィーの頬に指先が触れました。

「エンヴィーは、醜くなんか、ないよ」

そう言うと、少女は優しく、エンヴィーの頬にキスをしました。
ハロウィンは最後に満面の笑みを浮かべて、……動かなくなりました。

エンヴィーは少女の名前を何度も何度も呼びました。しかし、少女の目が再び開くことはありませんでした。


ガラスが弾けたような、パリパリとした音が鳴ったかと思うと、エンヴィーの身体を覆っていた鱗が、みるみると剥がれ落ちて行きました。
エンヴィーは自らの身体の変化すらも厭わず、ただひたすらに少女の名前を呼んでいました。



やがて鱗の中から美しい少年が現れました。






無垢なるものへの愛で呪いが解けた少年は、既に冷たくなった少女の身体を抱き、声をあげて泣きました。











ーーtrick or treat ?



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