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ハロウィンとの会話はいつも面白く、少女もまた、エンヴィーと過ごす時間を楽しんでいるようでした。
食べ物は町の人が貢物として捧げる果物やミルクがたっぷりとあるし、何より少女が喜んだのは、走り回れるような広い部屋なのでした。
「楽しいかい?」
「ええ、とっても!」
少女は何度も転けましたが、走り回ったり転がったりすることがどれほど彼女の気持ちを晴れさせるのかと云うことは、エンヴィーにはわからないのでした。
「毎日ベッドでおとなしくするなんて、たえられないわ」
少女はそう言って笑いました。
「ねぇ、エンヴィー」
「どうしたの?」
ハロウィンは秘密ごとを言うように、こっそりとエンヴィーに言いました。
「私、あなたに触れてみたい」
エンヴィーはため息を吐きました。もし触れられたら、この醜い姿がばれてしまうのではないかと思ったのです。
「それは駄目だよ」
「どうして!」
少女が突然大きな声を出したので、エンヴィーは驚きました。
「どうしてって……」
「それは、私が……」
少女は何かを言い掛けましたが、すぐに口を噤むと、「いいえ、なんでもないの」と、微笑みました。
「そういえば、ハロウィン」
「なぁに?」
話題を変えるように、エンヴィーが言いました。
「ハロウィンはどうして目が見えなくなったの?」
少女は直ぐに答えました。
「お熱が出ちゃったの。とても高いお熱。それでずっと寝てたの。それでね、ある日起きたら、目が見えなくなっていたの」
盲目なのは、生まれつきでも、事故でもなく、病気の所為だったのだ。
エンヴィーは申し訳なさそうに言いました。
「……辛かったね。でも、よかった。病気が治って、こうして元気になってくれて」
少女は少し引き攣ったような笑みを浮かべて、「そうね」と呟きました。
ハロウィンと暮らし初めて、幾日が経っただろうか。
エンヴィーは次第に人間らしい心を取り戻し初めていました。
自分と対等に話してくれる人間ーーハロウィンのおかげで。
少女と過ごす楽しい毎日が、これから先もずっと続いていく。
そう思うと、エンヴィーはたまらなく嬉しいのでした。