快斗の事が好きな女の子とキッドとしても落とそうとしてる快斗

2018.05.05.Saturday


初めて怪盗キッドを見たとき、私の瞳には天使としてその姿が映った。白い翼は夜の東京に良く映え、優雅に空を飛んでいく。こんなにも美しい光景を見たのは、生まれて初めてであった。

と言う事を友人の青子に伝えたら「馬鹿じゃないの!?キッドは犯罪者なの!天使なわけないでしょう!」と朝からお仕置きを受けてしまった。だって、そう見えたから仕方ないじゃん。そう返せば、青子から強烈なデコピンを食らわされた。


「#name2#は昔から趣味がおかしいと思ってたけど、キッドだけはぜーったい駄目!」
「駄目って…。恋人になる訳じゃないんだから。何というか、アイドルみたいな?」
「それこそ駄目!」


青子は目をギラギラさせてそう言った。青子は昔から正義感が強かったし、父親の職業柄、キッドを目の敵にするのも分かる。でもそうだとしても、青子のキッドに対する態度はまるで身内を殺されたかのように悍ましいものがある。と、私は思っている。


「#name2#は男の趣味悪くないだろ」
「おはよう、快斗」
「おはよ。#name2#の目にはキッドが天使に見えたって?」
「さっき来たかと思えば、ちゃっかり聞いてたんだ」


すると快斗は歯を見せて笑った。青子は快斗の言葉にまたプンプンと怒り始めた。全く、キッドの事になったら本当に見境がない。キッドに憧れる世の女性も少なくはないのに。


「なぁ。もし#name2#がキッドに盗まれるんなら、何がいい?」
「キッドが私のもの盗みに来る訳無いし」
「も、し、も、だろ」
「じゃあ…私の心とか?」


確か有名なアニメにそんな台詞があった気がする。人が恋に落ちるのは一瞬だから簡単に盗まれてしまうのだろう。実際私の心だっていとも簡単に快斗に盗まれてしまったのだから。


「お前の心が盗まれたら、それって#name2#はキッドに恋をするってことか?」
「うーん、そういう事になるね」
「…ふーん」
「何?そんな考え込むような事?」


快斗は顎に手を当て、考え込むような仕草をした。実際、キッドがわざわざ私みたいな一般市民の所に、利益もない私の心なんて盗みに来る事なんてミジンコレベルでありえない。変な快斗、と思っていたらホームルームを告げるベルが鳴った。





私の家は高層マンションの最上階にある。普通の3LDKで、両親と私、三人が住んでいる。本当は姉もいたけれど、今は大学進学と共に家を出て行った。姉がいなくなった事で、私は初めての一人部屋を手に入れた。

東京の夜は明るい。見える星の数は限られていて、お世辞にも綺麗な夜空、なんて言うことは出来ない。けれどお月様だけは、何時でもはっきり、大きくそこにいた。

一人部屋になり二年目。姉が引っ越しの際に大量の家具を捨てたから、私もその時に勉強机や古臭い家具は捨ててしまった。その代わりにバイト代で買った、お洒落なデスクを勉強机として使っている。

もう少しでテスト週間だ。成績は悪い方では無い。特別良い方でもない。大学進学を希望している私としては、あまり点数を落とす訳にはいかない。デジタル時計は二十二時と表示されている。さすがに二時間続けて参考書を見ていたら、集中力は切れてしまった。両手を天井へ伸ばせば、体が軋む音がした。

私のデスクは窓際に置いてある。向かい側に同じような高さの建物が無いから、カーテンは閉めていない。何となく窓から覗く月を見れば、大きな満月がいた。

気分転換に窓を開けると、夜特有の風が私の体を巡った。冷たい風は、少し火照った私の体に丁度良かった。ぼんやりと月を見ていると、その中心に突然黒い影が浮かび上がった。ジィ、とそれを見ていると段々こちらに近付いてくる。


「え、ちょっと、」


瞬きをする度に大きくなっていくその影は、気付いたら目の前にいた。シルクハットにマントにスーツ。真っ白な布に覆われたそれは、先日偶然見かけた怪盗キッド、そのものだった。驚いて声が出ない。キッドはベランダに華麗に着地すると「こんばんは、可憐なお嬢さん」と言って、どこからか薔薇の花を取り出した。


「お近づきの印にどうぞ」
「ありがとう、ございます」


真っ赤な薔薇を一輪受け取る。本物だ。あまりの驚きでただただキッドを見上げる事しか出来ない。するとキッドは「そんなに見つめられたら、私でも照れますよ」と言い、慌てて目線を反らす。


「今宵は月が綺麗ですね」
「は、い」
「夜の散歩を楽しんでいたら貴女を見つけ、思わず下りてきてしまいました」


今、目の前で起きている状況が理解出来ない。なすがまま状態の私を見て、キッドは綺麗に笑った。するとその時、私の部屋のドアがノックされた。キッドは「おや、時間ですか」そう言うと、私の手を取りゆっくりと唇を近付けた。


「またお会いしましょう」


キッドはそう言うと、また空へと飛び出した。月の光が彼を照らしている。そして私の心臓はまるで危険信号かのように、凄い勢いで動いていた。





学校へ着くと、青子が私の顔を見て「何、その隈?!」と驚いた。結局ベッドに入り込んでも一睡もする事が出来ず、あっという間に目の下は隈に覆われてしまった。理由を話す事が出来ず、とりあえず笑ってみせた。


「また遅くまで勉強してたの?」
「そ、そうなの」
「もう!#name2#はテスト前になるといっつもそうなんだから!」


青子は私の頬を思いっ切り引っ張る。痛い。けれどそれは「あんま虐めてやんなよ」と快斗の一声で、青子の指は離れていった。快斗は私を覗き込むと「すっげぇ顔」と言いながら笑い始めた。


「そんな顔になるまで寝れないって何があったんだよ」
「…何でもいいでしょ」
「教えれないような事?」


快斗の言葉は何かを探るような、でも何か確信を得ているような、そんな口調だった。例え快斗であろうと、昨日の出来事を言える訳が無い。


「私の秘密」


そう言うと快斗は唇を尖らせた。青子もブーブー文句を言っている。そんな二人を見ながら昨日の出来事を思い出してしまい、ニヤけそうになる口元を掌で隠した。


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