口実なんて、いらない 2/2




「たった1回で、ダメになるわけないだろ?」
 ───刻阪が、オレの頭を撫でてくれていた。

「神峰の言いたい事、みんなは分かろうとしたんだと思うよ。だって、それが出来たら音楽が良くなるってみんな知ってるから。
 …分かりたいのに、どうしても分からないからイラついちゃったんだって、僕はそう思う」
「…そう、なのかな?」
「そうだよ。ちょっと、その時を思い返してみて。…お前には、何が見えてた?」

 正直思い出すのは、ちょっと怖い。
 でも、刻阪の手が優しいから、勇気を出してみる。
 そうだ、パートリーダーに認められようって、全力で心と向かい合っていた頃みてェに。

 あの時、オレは何度も同じ事を言ってしまってた。どうしても、1ヶ所だけ納得がいかなくて。
 そん時のみんなの心は、どうだっただろう───


「…そういえば、みんな必死だった…」
 オレの言いたい事、分かろうと必死に食らいついてくれていた。その勢いに、こっちが圧倒されるくらい。
「だろ?…だから、大丈夫。どうやったら伝わるか、言い方を考えてみようよ。僕も一緒に考えるから」

 その時、オレは刻阪がいてくれて本当に良かった、って思った。
 刻阪がいなきゃ、オレはダメなんじゃないかって思う。ここまで頑張れたのは、そしてこれからも頑張ろうって思えるのは刻阪のおかげだ。

 この先も、こうしていられたらいいのに。
 そんで、オレが助けられたのと同じくらい、刻阪のこと助けてェな。

 そうやって、ずっと一緒にいられたらいいのに───



 そうこうするうちに、コンクールの日が近づいてきた。
 もうほとんど時間はなくなってきてたけど、やっぱりオレは刻阪に楽譜を持ってっていた。
 …だって、ちょっとでも多く、刻阪と一緒にいたいって思うから。

 もう分かっていた。オレ、きっと刻阪のこと。


「…ってとこかな」
「うん、いいと思うよ!みんなどんどん良くなってるし、最高の音になるよ、きっと」
 鳴苑高校吹奏楽部の“核”の音を奏でる刻阪の押した太鼓判だから、間違いねェ。
 このままいけば、きっとオレたちは最高の演奏ができるはずだ。

 ───ああ、でも。
 こんな時間はもう、終わりなんだ。

 そう思うと、なんだか寂しい。
 一緒にいたくて楽譜を持ってったのに、コンクールが終わったらそれも口実に出来なくなっちまう。
 …そしたら、オレはどうしたらいいんだろう。

「……なぁ、神峰」
「え、なんだ刻阪?」
 やばっ、心ここに在らずだったから慌てちまった。
 そんなオレに、刻阪は。


「コンクールが終わったら、打ち上げで甘いものでも食べに行こうよ、二人で」


「…へ?」
 ……我ながらマヌケな声が出たと思う。
「それに、ちょっと暇になるよな。そしたらいろんなトコ行こう、東京とかどう?神峰行ったことないだろ」
「え、えっ」
 矢継ぎ早にどこ行こうとか何しようとか、刻阪は次々に言ってくる。は、話が見えねェ。
「な、なんだよ、なんでそんなこと」
「なんでって?僕が神峰と行きたいからだよ」
 相変わらずのニュートラルな心で、刻阪はキラキラと目を輝かせる。
 ってゆーか、今…

“僕が神峰と行きたいからだよ”

 にわかに、顔が熱くなった。な、な、なんだこれ。何言ってんだこいつ。
 慌てるオレに、刻阪はにっこり笑って言った。
「僕はね、神峰とこうやって練習計画の話してる時、すごく楽しかった。でも、コンクール終わっちゃったら当分そういう事ないだろ? だから、今度は普通に遊びに行きたいなって思ってさ」


 ───信じられなかった。刻阪が、同じような事思ってたなんて。
 それに、スゲェと思った。真っ直ぐこういう事を言えてしまうなんて。


「神峰はどう?」
 小首を傾げて、確信したようにニッコリ笑って刻阪は訊いてくる。
 でも、そわそわと落ち着かない心が、胸のあたりに見えて。

 そんなとこまでオレと同じなんて、刻阪には悪いけど、ちょっと嬉しいな。

「ああ…オレも、遊びに行きてェ。お前と一緒に!」
 精一杯笑顔を作って、オレは頷いた。
 口実なんてもういらない。一緒にいたいから一緒にいる、話す。遊びに行く。それでイイんだよな。


「じゃ、コンクールが終わったら、とりあえず打ち上げ。約束な」
「ああ!」
 刻阪が小指を出してきたから、オレも自分のを絡めてみる。
 指きりげんまん、なんて何年振りだろう。結構照れくさいなコレ。
 でも、こういう事を普通にしてくる刻阪が、やっぱり好きだなぁって思うんだ。

 その気持ちが繋がる時なんて来るとはとても思えねェけど、一緒にいたいって気持ちが同じだって分かったから。
 それだけで、オレは十分幸せだった。






end.


+ + + + +

好きな子にお近づきになりたい神峰君が書きたかっただけなのに、ものすごい長さになってしまいました。
練習計画の話は素人の生兵法なので、生温かく流して頂けたら幸いです汗

Up Date→'14/6/12

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