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▼些細な不幸を願う

ところで従兄に朔間零とかいうクソ野郎がいるんですけども、ホントにこいつどうにかなんないかな。具体的に言うと痔になって苦しむ程度の些細かつ地味に嫌な不幸を体験して頂きたいわけだが。

……とこの台詞を学校で言えば間違いなくスクールカースト底辺へと直送が約束されている訳だけども。とにかく、私がこう願うのもしょうがないことだと思うのだ。

「おい、あれ取ってこい」
「自分で取ってくればいいじゃん」
「俺が取れっつってんだろ〜が」
「あんな場所に自分の飲み物置いてく馬鹿が悪いのでは?」
「あの木陰が昼寝のべスポジなんだよ。名前とかいう従妹がいなかったら、こんな家畜小屋の前まで来てねぇよ」
「漫研の部室だよこのオラオラヤンキー」
「ああ?」

おじいちゃんキャラを早急に取り戻してから来てください。私に対してだけはこの超絶態度悪い口調のままなのおかしい。どんだけこの人に嫌われてるんだ?

ほんと、わざわざ漫研の部室まで来て言うことが嫌味か。なるほど死にたいようだな。と思うのも仕方ない気がする。部室が一階にあることを良いことに、どんどんと窓を叩いてパシリ要求をしてくるのだから控えめに言ってクズ。

「おい、早く出てこいよ」
「いーやーでーすー! クーラーの効いた部屋から出たくない!」
「俺が出てこいって言ったら出てくるもんだろ〜?」
「むり」

うだうだと窓を開けて会話をする。外の熱風が入ってくるから正直閉めたい。零は逆のようで、流れてくる冷風に気持ちよさそうに目を細めている。

「あの、朔間先輩」
「ん? おお、あんずの嬢ちゃんかえ?」

急に、零の後ろの方で声がした。皆のプロデューサー、あんずちゃんだ。

「あそこの日陰に、トマトジュースが置きっぱなしだったんですけど……朔間先輩のものですよね」
「うむ、いかにも我輩のものじゃよ。嬢ちゃんは相変わらず良い子じゃのう……♪」

この優しい口調である。まったくかわいい子にはデレデレしちゃって。ほんとムカつく従兄だ。転校生ちゃんといちゃつくなら他所でやれという意思を込めて、窓をぴしゃりと閉める。なぜだか驚いたような顔をして何か言おうとしていたけれど、無視してカーテンにも手をかける。

「零のバカ」

きっと聞こえないはずなので、存分に言い放ってカーテンを閉めた。



「おい、起きろって」
「ん……?」

おや。
うるさい零と会話をやめた後、漫画を読んでゆるりと過ごしていたはずが、いつの間にか眠っていたらしい。にしても、誰だろう……今日はみんな来ないって言うから、居眠りしようって思ったのになぁ……?

寝ぼけまなこでぼんやりと、目の前に広がる机の模様を眺めていると、

「ひぎゃっ!」
「よぉ。目ぇ覚めたか?」
「つ、冷たっ……何かと思ったわ!」

なんと部室に不法侵入していたのは、零だった。頬に当たったジュースのペットボトルが、彼の目論見通りに眠気を散らせてしまった。

「もう拗ねてねえみたいだな。良かった良かった」
「拗ねる?」
「転校生ちゃんを褒めたから、拗ねたんじゃね〜かと思って」
「いや……別に。落とし物拾ったわけだし、誉められてしかるべきでしょ」
「素直じゃねえ奴」

零が苦笑した。いっつもこうやって、人を見透かしたような態度で見てくるのだから、嫌いだ。ほんとに。ええい、撫でてくるな!

「凛月もお前も、もうちょっと俺に優しくしてくれよ」
「優しくされるだけのことをしてくれませんかねぇ? ていうか、まずその口調が既にダメでしょ」
「あ? どこがだよ、むしろ誉めてくれねぇの?」
「何を?」
「お前だけに、素の俺で喋ってること」

頭を無遠慮に撫でてきた手が、するりと頬に回ってきた。次に言うべき皮肉は、近づいてくる零の唇にせき止められるのだろうと観念することにした。

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