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▼代償はスイーツと新刊

「では、レッスンを始めます。よろしくお願いします。早速ですが今日は……」
「ちょっと。転校生」
「はい、何か」
「あいつは何処ほっつき歩いてる訳ぇ?」
「瀬名先輩の言う通りです。名前お姉さまが本日のProducerのはずですが」

なぜか、名前がレッスンに来ていない。代わりに来たのは、彼女の愛すべき後輩、あんずだった。名前の幼馴染のほうがサボるのはよくあることだが、彼女がサボるなんて珍しい。

そう思って泉が質問すると、司も被せるように言ってきたので、まず泉の記憶違いではなさそうだ。今日は名前の担当だ。

「あらあら、名前ちゃんがボイコットとか珍しいわねぇ」
「ふぁ……じゃついでに俺も……」
「させないからねぇ? くまくん、寝床に逃げない」
「というか、Leaderはなぜ一緒に名前先輩と来なかったのです? 同じClassなのでしょう」

確かに。
そう思って全員がレオの方を見る。

「あ、あはは……」
「は? なに王様、その変な笑い」
「……月永先輩、さすがに自覚はしていますね」
「うぐ」
「自覚? あらまぁ、もしかして喧嘩でもしたの?」
「喧嘩ではないです。名前先輩は被害者ですよ、月永先輩の。変態、と言葉を送っておきますね」

珍しく鉄仮面のあんずが表情を浮かべていた。……蔑みに近いものを。それを見たメンバーは目が点になったが、レオはものすごくタジタジしているので事実らしい。

「へ、変態? やだぁ、なにしたの王様」
「Leader! いったい名前先輩に何を!?」
「べ、別に変なことしてないっ! おれは普通に、作曲してただけで」
「女の子の肌を好き勝手しといてそれはないです! いいですか月永先輩、いくら名前先輩と仲が良くても、やっていいことと悪いことが……!」
「ちょっと待って」

浮足立つ場を収束するように、泉が少し大きめの声をあげた。

「順序だてて説明してよねぇ。つまり、名前が来てないのは、王様に何かされて怒ってるから。あんずはその代理。でしょ?」
「は、はい」
「で、何をしたの、王様は?」
「だ、だから……作曲……」
「なるほど。月永先輩は他人の肢体にペンを走らせるのを作曲活動と仰るんですね?」
「はぁ!?」

今度は泉が叫んだ。あんずは素早く自分のスマホから画像フォルダを開くと、一枚の画像を開いて『Knights』の面々に突きつけた。

そこに映っているのは――

「女の子の脚に! しかも眠ってる間に! 紙が切れたからって、ペンを走らせますか!? 最低です変態ですっ! 名前先輩、今日タイツ履いてるからおかしいなーって思ったらこれですよ!」

バーン! と効果音がつきそうな具合なあんずのセリフ。相当お怒りのご様子だ。

「……Leader、申し訳ありませんが、ジャッジメントのご予定は?」
「えっ」

ニコニコ笑顔で、けれどものすごい剣幕で迫りくる一年生に、ビビりまくっている三年生。かなり面白い光景ではあった。

「これは審議もいらないと思うけど……? いくらなんでもこれはアウトだよねぇ……」
「うう、リッツまで!?」
「ああ、だから今日のお昼休みに生徒会長さんと仲良くランチしてたわけねぇ、名前ちゃん。地味に嫌がらせされて、王様も災難ねぇ」

まぁ、アンタが悪いんだけど。とは嵐の弁。

「今日は天祥院先輩の家で先輩の書いた楽譜を洗い流す予定だそうですから、邪魔しないでくださいね?」
「は!? 皇帝の家!? だめだめ、絶対におれが許さな……」
「月永先輩」
「ごめんなさい」
「だそうですが、どうですか? 名前先輩」

え?
と、男五人が間抜けな声を揃えた。スタジオの扉が、そっと半分ほど開かれて……そっと中を覗くのは、名前だった。確かに黒タイツを履いている。

「……あと十回言って」
「わ、分かったって! 何回でも言うから、もう許してくれよ!」
「あと、今日の帰りにコンビニでお菓子買って」
「買う! スイーツも買うから!」
「本屋で漫画も」
「わかった! おまえの欲しがってた新刊買う!」
「ふーん……?」
「だから、おれと仲直りして! おねがい!」

王様も形無しの貢ぎぶりである。
凛月辺りは吹き出しそうになるのを必死にこらえているせいか、肩がプルプルしていたが。もちろん、レオは気づいていない。

しんとした空気の中、ふいに鈴のなるような声が響いた。

「っふふ、あはは! レオったら情けなさすぎよ」

名前の笑い声だった。いつも通り、爽やかな彼女の雰囲気だ。なるほど、もう怒ってはいないようだった。

「だ、だっておれ、おまえに嫌われたらいやだもん……」
「そっかそっか」
「うん……ごめんなさい、名前……」
「うん。今度からちゃんと、紙を用意すること」

ぽん、とレオの頭を軽く撫でて、名前が笑った。

「仲直り終わった? まったく、喧嘩をレッスンに持ち込まないでよねぇ、チョ〜うざぁい」
「ごめんっていずみん。心配かけたね?」
「だから、それやめろって言ってるでしょ」
「よろしいのですかお姉さま? これ以上我らがLeaderの蛮行を許容してはマズいと思いますが」
「うん。だから、英智の家には行くよ」
「ええ!? な、なんでだよっ!」
「良い石鹸使って落とすの。これに懲りたら、もうしないことね〜♪」
「ううーっ、名前の馬鹿ぁ!」

レオの子供のような駄々に、皆ちょっと笑うのだった。

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