▼騎士にひとたびの休息を
いつものように、レオが噴水の傍で作曲をし始めたので、何をするでもなく隣に座る。芝生独特のにおいと、日に照らされた土の温かみは最高だ。凛月がお昼寝の場所に中庭を選ぶ理由も理解できる。
さらさらとレオのペンが紙の上を走る音も心地よく、ううん、ねむ……。
「なぁ、名前ー」
「……はっ!」
突然肩を揺すられ、泥の中に沈んでいた意識を取り戻す。顔を上げると、レオがじっとこちらを覗き込んでいた。
「どしたの」
「このまえ、リッツに膝枕してたよな?」
「ああ、うん。中庭でね」
「おれもやってほしい!」
「え。作曲はどうするの」
「寝転びながらやる!」
甘えたが発動すると、レオは絶対に引かない。
Knightsの皆には結構リーダーらしくお兄さんぶるけれど、私と二人きりになると反動のように甘えたがりになるレオは、正直かわいい。司くんや凛月と張り合えるレベルの甘えん坊だ。けれど、この場面を見られたら本人はすっごく嫌がりそうだけど。これで結構プライドが高いのだ、彼は。
「なぁおねがい、名前っ。一生のおねがいだからー!」
ぎゅうぎゅうと抱き着いて一生のお願いを使っている様子からじゃ、一切プライドの高さなんて感じさせないけれども。
「こんなところで使わないで? ほら、どうぞ」
「ありがとう名前っ、愛してる! んー、インスピレーションが湧き上がるっ!」
ころんと私の腿に頭を預け、ノートを空へかざしてペンを滑らせていくレオ。確かに、筆の進みはさっきよりも早い。
オレンジ色の温かい色をした髪を、そっと撫でつける。ふわふわした障り心地で、猫を撫でているみたいだ。
……それにしても。
「ね、眠い……」
体全体を照らすあたたかな太陽、自然のにおい、腿には人肌のぬくもり、やるべきことは何一つなし。……これで眠くなるなというのが無理な話だ。
だんだんと視界がぼんやりしてくる。レオは作曲に夢中で、私が居眠りしたところで気づかないだろう。だったら、ちょっとだけ……。
そう思ったときには、視界の半分以上が暗くなっていた。
*
「これは……気持ちよさそうにおねんねしちゃってるわねぇ、二人とも」
「いいなぁ、俺も混ざろうかな……ふぁあ」
「ちょっとくまくん。サボりをこれ以上増やすわけにはいかないし、寝ちゃだめだからねぇ?」
「名前お姉さまがお疲れなのは分かりますが、Leaderは自分勝手に遊んでいただけでしょう! 起こしましょうっ」
「あらあら。司ちゃん、甘える相手がとられて悔しいのねぇ」
レオと名前がレッスンに来ない。
という困った問題を抱えた『Knights』の皆が、二人を手分けして探していたところ、嵐が発見したのだ。
……二人仲良く、中庭ですよすよとお昼寝している姿を。
もともとが幼げな顔立ちのレオは、眠るとますます無邪気な子供のようにしか見えない。他人に安眠を提供する側の名前が無防備に寝ている姿も、なんだか無性に庇護欲を誘われる。自分たちが騎士だからだろうか、なんて適当に誤魔化して、残る四人はこうして二人を見下ろすだけとなっている訳だ。
「ねぇ、アタシたちも三十分だけここでのんびりしない?」
「はぁ? 何する訳、こんなところで」
「何もしないのよ、馬鹿ねぇ。でもしいて言うなら、新譜をイヤホンつけて聞くくらいのことをしとけば、一応レッスンにはなるんじゃない?」
「ふぅん、俺は賛成……♪ おやすみなさぁい」
「あっ、凛月先輩! 駄目です、お姉さまの隣には私が座るのです〜!」
「ちょっとかさくんまで……はぁぁ、ったく、協調性ない奴らだよねぇ、ほんとに……」
次々と二人の近くに腰を下ろす他のメンバーに、泉はため息をついた。けれど、たまにはこういう日があっても悪くないかもしれない……なんて珍しく甘いことを思ってしまったらしく、その顔は少し微笑んでいた。
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