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「#エロ」のBL小説を読む
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▼しらない顔

「あれ。名字じゃん」
「ああっ、堂島! 久しぶり!」

商店街の中の本屋で漫画本を物色していると、ふいに懐かしい声がかかった。普通科の頃の友達だった。サッカー部の男子で、オラオラ系で有名なサッカー部において貴重なオタク枠だ。

「それ、なんの雑誌?」
「ああ、今月のファッション雑誌だよ。最近気になってるアイドルグループがいてさ。あ、もちろん俺の48愛は不滅だけどな?」
「出た。推し、総選挙は何位だった?」
「それが過去最高でさぁ! もうテンション上がったわ!」

この通り、重度のアイドルオタなのだ。
彼のアイドルに関する情報量は凄まじく、もう一種の情報網と言っていい。私は逆に、実はレオがアイドル科に入るまでは全くアイドルに興味がなかったので、彼が色々語る情報は全部勉強になった。

「あれ。男の人が表紙のもあるじゃん」
「そっちは実用な。あ、そういえば夢ノ咲のモデルが出てたぜ」
「え? ちょっと見てみたい!」
「んじゃ、店の中じゃあれだし、ちょっと外出るか」

彼と連れ立って店を出る。
夢ノ咲のモデルと言われれば、ほぼうちの『Knights』のメンツ一択だ。鳴ちゃんはこの前撮影があるって言ってたし、彼かもしれない。

「ほら、結構最初の方に居るだろ。えっと……瀬名泉だっけ?」
「あ、泉なの? わ、すご……」

とても甘い微笑みを浮かべた泉が映っている。まったく……恋人の私にも、普段この三割程度で良いから優しくしてほしいものだ……なんて思いながら眺める。どうやら彼の特集が組んであるらしく、ページの下の方からはインタビュー形式の文章が並んでいた。

「えーっと、どういう特集?」
「どういうって、普通のだよ。こういうのはな、大体『どういうタイプが好き?』とかの恋愛談義の受け答えなんだよ。ほれ、やっぱ載ってる」

私が広げている雑誌の上を、彼の指がトントンとたたいた。

【Q. 好きなタイプは? 年上が好き、年下が好き?
瀬名:年下が好きですね。守ってあげたくなります】

などと簡潔に書かれてある文章だ。……ふぅん、年下が好きなんだ? へぇ、かなりイラっときた。どうせゆうくんのことですね分かります、と口頭でなら茶化すのに、文章だと一方的に突きつけられる感じがして、なんだかダメージがでかい。

私が苛立ちを抑えながらもじーっとそれを睨んでいると、夢中になっているのだと勘違いしたのか、彼は興味深そうに声をかけてきた。

「なんだお前、瀬名泉のファンだっけ?」
「いや、まぁ……知り合い?」

ほんとは恋人なんです、とはさすがに言えない。それでも彼は十分感心して「すげえな」と笑っていた。

「お前はどっちかって言うと、次元が一個下のキャラにファンやってたもんな」
「まったく刀は最高だぜ!」
「俺も船なら好き。あ、そうだ。良かったらこれ貸すぞ?」

彼は泉の載った雑誌をひらひらと振った。

「え。いいの?」

正直、この文面はもう読みたくないけど、この微笑んでいる泉の姿は見ていたかった。本人と会ってるのに、紙面の微笑みが欲しいなんていうのもおかしな話だが。

だって泉、こんなにデレてくれないしなぁ。

「借りていい?」
「おう、いいよ。今度学校で返してくれりゃいい」
「やった、ありがとー。何組だっけ」
「俺は3Eだよ」

おお……Eか。普通科は人数多かったな。なんだかこうして普通科の人と話していると、それはそれで楽しいことを思い出した。

「今度お船のアクキーあげるわ」
「うわマジか。金剛がいい」
「運次第だねー。ま、楽しみにしててね」
「おー。じゃあな、名字」
「ばいばい」

何気なく手を振り、彼は爽やかに去っていった。
手の中に残った雑誌を見て、少しニマニマしてしまう。泉のかっこいい顔が見れるのだ……心置きなく。雑誌とか買ったことなかったけど、まさしく「その手があったか」状態だ。

さて、私もさっさと家に帰ろうかな……と足取りも軽く一歩踏み出した、が。

「おわっ!?」

なぜか体が後ろに引き戻された。反射的に振り返ると、

「……奇遇だねぇ、名前?」
「いっ……泉!?」

そこに居たのは、雑誌の笑顔とは180度くらい違う表情の泉だった。というか、確実に怒っているときの顔だ。

「ど、どうしたの……」
「……さっきの、誰」
「え。……堂島」
「だから、誰なの。なんの話してたのか知らないけど、締まりない顔して笑ってさぁ……」

主に、お互いの推しの話です……と言っても泉に通じるとは思えない。あと、貴方の話をしてました。とも言いづらい。あれ、言えるところ何にもないネ?

なんて私が答えに窮していると、ますます泉は機嫌を悪くしたのか、強い力で私を引っ張っていく。

「お、怒ってるよね……?」
「はぁ? 当たり前でしょ、ほんとチョ〜うざぁい。……俺にはあんな顔で笑わない癖に」
「えっ」

今、泉が言った言葉。明らかに嫉妬めいたセリフで、思わず顔が緩んでしまう。にへら、と笑った私を見て、泉はかぁ、と頬を染めた。

「な、なにが可笑しいわけぇ!?」
「だって、泉がやきもち妬くなんて珍しいし……。やきもちとか妬くの私だけかと思ってた」
「え。あんたも妬いたりすんの?」

泉だって嬉しそうな顔してるし。
なんて言ったら拗ねるだろうから、言うのはやめておこう。

「うん。この雑誌で、年下好きって言ってるし……」
「はぁ? そんなの適当に決まってるでしょ〜」
「いや、年下好きはホントだと思うけど……?」
「……ま、嫌いじゃないけどさぁ。……でも、一生傍に居て欲しいって思う相手とは違うでしょ」
「……顔真っ赤」
「う、うるさい」
「えへへ。大好きだぞー、セナ!」
「……ちょっと、王様の真似とかチョ〜うざぁい」

照れくさそうに、無理矢理不機嫌そうな顔作ってる泉が可愛くて、思わずまた頬が緩んでしまいそうだった。


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