30万打リクエスト | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

▼パラレル・ワールド

ところで、豪邸の隣に立つ一軒家が、グーグル先生の地図で見ると「倉庫かな?」みたいに見えるってこと、みんな知ってるかな〜!?

と、体操のお姉さんみたいに聞いてみたが、特に私は体操がずば抜けて出来るわけではない。体操のお姉さん志望でもない。平々凡々たる、普通の女子高生だ。ただ一つ、人と違うことがあると言えば――

「やぁ、名前。今日はうちを『冒険』しなくてもいいのかい?」
「いや、ほんと良いデス……」
「そういわれると寂しいんだけどなぁ」

はぁ、とため息をつく、ただそれだけで絵画のような美しさを醸し出す、この美青年の幼馴染である、ということか。

金髪碧眼の王子様フェイスで実際に金持ち、病弱で、夢ノ咲アイドル科に所属する生徒会長――やだ、この人属性盛りすぎ? ってなったそこの君! いたって正常な感覚の持ち主だ!

「あの頃の名前は可愛かったのになぁ。いきなり僕の家の門をたたいて、使用人に『お庭を冒険させてください!』だもんね?」
「四歳児だからしょうがないネ! もうその記憶はそろそろ抹殺するべきだと思うんだ!」

いや本当に、昔の私、怖いモノを知らなすぎである。

財界のお金持ちのおじ様たちが震え上がる、名門・天祥院家に『お庭が面白そうだったから入ってみたかった』という理由で突撃取材である。本当、世が世なら首を刎ねられてたんじゃないかな?

ただ私は運が良かった。それは主に、この時代が平成であったことと、英智の親が優しかったことだ。ちょっと頭が残念な感じのお子様が、英智のような賢すぎる子供を持っていた大人には微笑ましかったのだろう。見事許可が下り、私は天祥院家のお庭に見事足を踏み入れることに成功したのだった。

そして、まぁいくら体が弱いと言ってもだ。同年代の見知らぬ子どもが自分の家で遊んでいて、無視できるほど英智も大人ではなかった訳で。私たちは無邪気にきゃっきゃと二人で遊んでいたのだ――十年前くらいまで。

「だいたい、英智は遊んでる暇ないでしょ〜? 生徒会のお仕事忙しいって聞いたけど?」
「そうでもないよ?」
「敬人くんがキレる前に自分の分はやっとけって……」
「おや。敬人め、さては名前に僕のことを愚痴ったね?」

楽しそうに英智が言った。
そりゃ、これほどの自由人の相手を毎日一手に引き受けてみろ。キレるだけならまだしも、胃痛になりそうだ。

「敬人くんが120%被害者でしょ。さも密告者のように言わない」
「さて、それはどうかな? どんな物事も別の角度から見れば善悪は入れ替わるものだからね」
「英智ってさぁ、詐欺師も向いてると思うんだよね……」

言い訳をここまで美しく見せれるのも、もはや一つの才能だ。敬人くんへの同情心も通り越し、英智の口先に感心してしまいそう。

「君も、セラピストに向いてるんじゃないかな? 毎回よく、僕のお喋りに付き合えるものだよね」
「あー……それはたぶん、英智の言い回しが難解過ぎて、他人がついていけてないだけだと思うんだけど?」
「ああでも、いちいち他人へ共感してたら、君の方がセラピストが入用になりそうだ」
「あはは……話聞けよ!」
「あいたっ」

流石に殴ったら死にそうだし、そもそもアイドルの顔に傷もヤバいし、ていうか天祥院家に消されそうだし、私にできる選択は一つ。手をつねることくらいだ。

「いてて……これが庶民のお仕置きかい」
「わざと嫌味な金持ちぶるのもやめなさい」
「バレてるなぁ。普通、これで大体の人は煽られてくれるのに」

なぜ普通の会話で煽ろうとするのか。
まったく……この男は。あの学校で、争いごとのし過ぎだ。悪いが、その雰囲気にのまれるほど、私は寛容ではない。

「英智」
「なんだい?」
「お庭、冒険させてくれる?」
「おや……」

きょとん、と英智が珍しい間抜け顔でこちらを見てきた。
そうだ。こういう自然な顔のほうが、私は好きなのだ。アイドルなんて元から微塵も興味がない。だから、この顔で十分なのだ。

――なんて言ったら、失礼かもしれないけど。

「紅茶とお茶請けを用意して、冒険しよう。その最中なら、――誰も聞きたがらない英智の小難しい話、聞いてもいいよ?」
「ふふ……そうだね。お茶請けはクッキーで構わないかな」
「ガムなら私もある」
「一枚くれないかな」

天下の天祥院英智が、ガムをおねだりするなんて光景は、きっと誰も見たことがないのだろう。最高に愉快だった。機嫌よく英智の口に、包装紙をはいだガムを突っ込むと、彼は少し可笑しそうに笑った。

そして、門は開くのだ。――二人の冒険者を迎え入れるために。

- 27 / 52 -
▼back | novel top | bkm | ▲next