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▼綺麗な像は壊してしまおう

「王様って、結構強引よねぇ」
「結構? うーん、強引で括っていいとおもうけど。でも、基本的に女の子には優しいんじゃない? そこは自信を持ってお届けする」
「名前ちゃんはセールスマンか何かかしら?」
「ふっ、幼馴染の良いところを売り出すなら任せろ!」

相変わらず、今日も私の軽口は絶好調だ。鳴ちゃんの恋愛トークは、自分が標的にされると痛い目見るので、大体こうやっておどけて煙にまいている。だって恥ずかしいし。

煙に撒かれたのを察したのか、鳴ちゃんはむむ、と眉根を寄せている。

「も〜! 売りに出してどうするのよ、名前ちゃんは王様の恋人でしょ!?」
「……言われてみれば、確かに」
「ほんと、名前ちゃんはそうやって誤魔化すの良くないわぁ」
「えー? だって恥ずかしいもん」
「王様に聞いたら、いっつも名前ちゃんとの惚気話が返ってくるのに、つまんなーい」
「えっ、れ、レオにも聞くんだ」

変なことを教えてなければいいけど……。ちょっと動揺して、持っていた『fine』用のレッスンノートを取り落としてしまった。

「あらあらあら。ちょっと不用心じゃない、『Knights』のスタジオに『fine』の為のモノを持ち込むなんて」
「不用心って……もう敵対関係でもないんだし、問題ないんじゃないかなぁ」

革命も終わった。英智とも、また友達に戻れた。何もかも大団円、文句なしのハッピーエンドだった。
とはいえ、まだまだ三年生としての期間は残されているんだけどネ。その証拠として、私は今度『fine』の主催するイベントのプロデュースをまかされたりして、新しい取り組みも行っているのだ。

「だから、さっき言ったじゃない。王様って結構強引よね、って。あんまり生徒会長と仲良くしてると、怒られちゃうわよ?」
「怒られる? ……もしかして嫉妬とか、そういうの?」
「そうそう」
「まさかぁ。嫉妬とか無いでしょ、だってレオだよ?」

何せレオは、私の人生で出会った人間の中では一番の博愛主義者なのだ。幼稚園から高校まで、その姿をばっちり見ている。彼は基本的に、人の悪意に疎かったし、逆に悪意を持ちにくい人間だったと思う。

だからこそ、レオを補うように、私はこういう穿った性格になったのだ。たぶん。

「みんなに愛してる〜! ってあっさり言えちゃうレオが、嫉妬とかするのかなぁ。だって、『セナは本当に名前が大好きだな! おれも二人が大好きだ!』がテンプレになってるし。泉が私のこと大好きでも、全然問題ないってことじゃないかな?」

私もレオも、泉のことは大好きと憚らずに言うし。その時、レオが不快そうな顔をした覚えはない。

「うーん……それはそうだけどねぇ」

鳴ちゃんはなんだか煮え切らないような感じで言葉を濁した。うーん、恋愛話としては確かに三流以下かもしれなかった。申し訳ないなぁ……今度ほかの子の恋愛話とか探してきてあげよう。

と、女性比率の死んでいるアイドル科では無理難題に等しいことを考えていると、急にポケットの携帯が鳴り響いた。画面には、ちょうど話題の『天祥院英智』の文字が。

「ちょっとごめんね、鳴ちゃん」
「ええ、構わないわよ」

席を立ち、部屋の入口付近まで離れる。

『もしもし、名前かい』
「はいはーい。何かご用件かなワトソンくん」
『ふふ……緊急にプロデュースの依頼があるのだよホームズ君』
「ええ、英智が珍しくノってきた!?」

元を正せば英智と私は雑談仲間だった分、意外と長電話になりやすかったりする。プロデュースの話をさて置いて、そういえばシャーロック・ホームズと言えば僕は断然『バスカヴィルの猟犬』だな、いや私は『緋色の研究』みたいなニッチな話題に転がり込んでいた。彼が本好きなのがいけない。大概なんの話でも合わせてくるのだ。

談話に夢中になっていると、突然目の前に扉が迫ってきた。

「おっふ!?」
「わははははは☆ 妄想が広がっていくー! オペラが生まれるー!」

謎の奇声を発して避ける。飛び込んできたのは我らがリーダーだ。あふれんばかりの楽譜を両手に抱え、派手にご入室。

「あれれ? 名前だ、うっちゅ〜☆」

ニコニコ笑顔のレオに、今電話中だと携帯をさして苦笑する。携帯の向こうの英智にも、独特の挨拶は聞こえてきたらしい。

『あはは、君の王様のご登場かい』
「もー、英智までからかうのやめてよね」
『ふふ……。ああ、そろそろ真面目な話をしようか。今度のイベントの話なんだけど』
「あ、OK。ちょい待ち」

さすがに他のユニットに内容を聞かせるのはマズイだろう。スタジオから出て、扉の前で話すことにした。



ボキッ。
シャー芯が折れる音。五回目、なんてレオは心の中でひそかにカウントした。

「なぁ、ナル」
「んん、何かしら?」
「あいつ、皇帝となんの話してんの」
「え? あー……なんか、次のイベントの話らしいわよ」

嵐はかなり言いづらそうに、言葉を選んでレオにそう伝えた。ああ、『fine』のプロデュースか、とあっさり予測はついた。名前はレオが純粋だから自分はヒネた性格になったと主張しているらしいが、レオだって名前が肝心なところで鈍いから、意外と肝心なところは全部細やかに察知するようになった、とでも言っておこうか。

警戒心と猜疑心が薄いのは、彼女の美徳であり、難点だ。

「王様、ちょっとお話していいかしら?」
「いいぞー?」
「王様って嫉妬する? 名前ちゃん、全否定だったんだけど」

まったく、名前はなぜレオが嫉妬しないなんて言えるのか。ちょっと自分は彼女に美化され過ぎている気がした。

嫉妬しないなら、レオはこんなにシャープペンの芯を無駄にしなくても良かったはずだ。さっきから、名前の軽やかな笑い声がかすかに聞こえるたびに、自分がどんな顔をしているか見せてやりたいくらいだった。

「するぞ? 普通にな」
「普通にねぇ……」

嵐が苦笑交じりに言った。

「名前が部屋に戻ってきたら、証明してやろうか? おれがどれだけ嫉妬深いか」
「いやだ、その顔怖すぎよ王様」
「相当怒ってるからな」
「うふふ。……アタシお暇するわね?」
「賢いやつは嫌いじゃないぞ?」

まさに賢明な判断だった。アタシは忠告してあげたのに、ほんと名前ちゃんのおバカ……とかなんとか呟いているが、聞かなかったことにしよう。そこを含めて、レオは彼女が好きなのだ。たまにこうして、苛立つこともあるけれど、そこは相応の対価を貰うので、結局苛立ちは相殺だ。

ガチャ、と扉が開いた。名前は楽しそうな顔でスタジオに戻ってきた。それと入れ替わる様に、というか逃げ出すように嵐が彼女とすれ違ってスタジオから出ていく。

「え、鳴ちゃんどしたの? 用事?」
「分からないなぁ。それより名前、こっち来てくれ〜」
「んー?」

レオの言葉に、名前は何のためらいもなく近寄ってくる。近寄ってきた彼女の両腕をがっしりと掴むと、「!?」とようやく事の重大さを理解したらしい顔になる。

そう、彼女は決してバカではない。ちゃんと結論にたどり着くのだ――もっとも、後の祭りの時が多いけれど。

「おれが嫉妬するかどうか、妄想してみたらどうだ?」
「えっ、え? 嫉妬?」
「そう。……ま、妄想するまでもないか」

ニコリ、微笑んで彼女を壁に押し付ける。
そう、レオは彼女が想っている以上に、ずっと汚い人間なのだから。わかってもらわなければ。

「おれがちゃんと、教えてやるからさ」

ひきつった赤い唇に、牙を立ててやろうかと思うのだ。

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