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▼俺のリーダーがこんなにしつこいわけがない!

「よし、部活に入ろう」

って一言言う事がそんなに罪深いものなんでしょうか神様。

「名前や、入部届を持ってきたぞ〜♪」
「うっす」

今日も今日とてうるさいリーダーのお言葉を聞き流し、条件反射のように手元を鮮やかに滑らせる。ビリビリィ! という爽快な音がガーデンテラスに響いた。

「あああ、なぜ破くのじゃっ!?」
「いつ俺が軽音部に入ると言ったかな?」

あの日あの時あの場所で、まぁ具体的に言うと一週間前放課後防音練習室、という呪文のような文章になるのだが。とにかく、このなんちゃって吸血鬼パイセンの前で軽率に「部活入ろうかな?」と言ったらこのざまである。

つーか、『UNDEAD』に入ったときも結局この人のごり押しで入れられたようなものなのだ。二度も同じ手を食らってたまるか。

「なぜじゃ? 軽音部ならわんこもおるぞい? 人見知りな名前にも安心の、アットホームな部活じゃよ?」
「うん、良いと思いますよ。素敵な部活ですね」
「あと我輩もおるし」
「それは別にいらないです」
「くすん……ひどいのう、我輩はこんなにラブなのじゃがのう」

白々しいウソ泣きをする腐れ吸血鬼は早く棺桶にお帰りいただきたい。

第一、この人昔は泣く子も黙るオラオラ系生徒会長で、俺みたいなくっそ大人しくて善良な一般市民にいきなり絡んできたぐう畜だったのだ。

正直話しかけられた時点で超逃げたかったけど、すさまじい人気を誇る『朔間零』に対してそんなことをした時点でスクールカーストの最下層へ直送されてしまう。そんなわけで当時一年生の俺は決死の覚悟で生徒会長とのおはな死(誤字に非ず)に挑戦したのだが、こいついきなり「お前の存在がツボにはまった」とかいう適当な理由をつけて次の日以降も絡み始めたのだった。なぜ懐かれたのかさっぱり不明だがとりあえず死でしかない。

そしてなぜかオラオラ系からおじいちゃん系にジョブチェンジしたのち、この瀬名先輩ばりのクレイジーサイコストーカー化である。な? 死んでほしいだろ?

「とりあえず軽音部はないです」
「いや全然ありじゃよ! 我輩は何時でもウェルカムであるからして」
「あー、どうしよっかな。テニス部とかどうかな……」

同じクレイジーサイコストーカー被害に悩まされている真くんと一緒の部活なら、何かと相談もしやすそうだ。まぁクレイジー以下略が一人、瀬名先輩もいるけど。

「……名前は瀬名くんが好きなのかえ?」

めっちゃ低い声で突然喋りだす朔間先輩。軽くビビるので止めていただきたいし、俺はホモじゃないんですがそれは……。

「えっ。ないですないです」

そこは全力で否定しておく。
うっ……そうだ、瀬名先輩もクッソしつこいんだった……。ちょっと俺が善良な市民(別名・偉い人には従う弱者)対応で話しかけたら、何を気に入ったのか「俺の弟にしてあげてもいいけどぉ?」とか言ってきたんだった。ひぇぇ。クレイジー以下略は二人もいらねえ。いや一人だっていらねえ!

「やっぱテニス部はやめよ。んー、バスケ部とか陸上部とか? でもそんなにガチなスポーツ系やりたい訳でもねえし……。あ、海洋生物部……」
「……」
「も、やめとこう……」

羽風先輩が被害に遭いそうなので。

「うむ、それがよいぞ♪ というかおぬし、やっぱり文化部系に入りたいのであろう? さっきから我輩が誘っておる部活は」
「ないです。手芸部……は入りづらいし、忍者同好会……興味ないし、うーん」
「ふふ……紅茶部なんて如何かな?」
「! て、天祥院先輩……!」

俺の肩に優しく手を置いて、万人が聞きほれるような美声でささやいてきた人物。彼こそは現生徒会長・天祥院英智。
いつもなら偉い人には関わりませんの俺ですら軽率に握手を交わしたくなるほどの好青年顔である。うおお……金髪碧眼正統派美青年のオーラ眩しいっ!

「お手軽な部活をお探しのようだったからね。僕は名前くんなら大歓迎だよ」
「えっ、あっ、ま、マジですかっ?」
「うふふ。良かったら、今から紅茶部の集まりがあるのだけれど……一緒にお茶でもどうかな?」

えっ? え、ええ?
俺みたいな凡人に天祥院先輩自ら、部活へのお誘い? それマ? などというネットスラングを、この人の前ではさすがに使えまい。
というか普通に嬉しい。実は俺、『fine』のファンだったりするのだ。だからそのリーダーに声を掛けられたら、当然舞い上がっちゃう訳で。

ええ……どうしよう。正直紅茶よりコーヒー派だけど、行っちゃおうかな……?

「言葉を変えようか。僕は君が欲しい」
「はひっ!?」

いきなり手を取られ、真正面から微笑まれる。それどころか、心なしかだんだん距離が狭まっている!?
ど、どどどどういうことだ? まさか天祥院先輩に限ってそんなホモとかありえな……

「良ければ一緒に……」
「待たぬか、天祥院くん」

がっ、と俺の腕を掴んでいきなり自分の方へ引き寄せた朔間先輩。今だけはさすがに、彼に感謝した。どっどっどっとうるさい心臓の音は、どっちのせいかよく分からない。

「この子は既に吸血鬼の眷属。勝手に手を出されては、我輩も口を挟まざるをえまいよ」
「おや? その割には、名前くんは朔間さんには厳しい対応みたいだけれど」
「名前は素直でなくてなぁ。少し手を焼いておるのじゃ」

俺の頭のてっぺんに何か柔らかいモノが触れた。え、なに? こんにゃくとか置いた? などという気の利いたボケはかますこと能わず。無言で顔を赤くする無様を、天祥院先輩にさらしたくはなかったのに!

うわ、天祥院先輩もびっくりした顔してるよ。うわああ違うんです! 俺はホモじゃなくて! 引かないでくれぇぇええ!

「残念だけれど、今日のところは勧誘は控えておこう。……名前くん」
「は、はいっ!」
「僕はいつでも歓迎するからね。朔間さんからの束縛から離れられたら、ここに逃げ込んでおいで」

えっ、束縛?
なにやら不穏な爆弾発言を残し、天祥院先輩は爽やかに去っていった。

「あはは……束縛って。天祥院先輩もジョーク言うんですねぇ、朔間先輩」
「……」
「ちょっとなんで無視するんすか。ここは同意の言葉を挟む文脈ですから」
「おお、そうじゃな。我輩も同意しようぞ。己が嫉妬深く、束縛しがちである、ということを……じゃが」
「……うん?」
「……離す気はねぇから、覚悟しとけよ」

……という言葉を、超至近距離で、泣く子も黙る美青年にそう言われた時の対処方法、求む。

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