寒いのに熱いってどういうこと。
ぎゅっと腕の中に閉じ込められて、その肌の熱を遮断するには浴衣などというものでは薄すぎた。
売り言葉に買い言葉でなぜかこうやって抱きしめられてしまったワケだけど。
そしてそのまま抵抗もできなくてちゅーされてしまったワケだけど。
定春以外と初めてちゅーしてしまったワケだけど。
それがなぜコイツなのか。
ドキドキとさっきから煩くなる心臓の音は私のなのか沖田のなのか。どちらでもいい、さっさとこの状況をどうにかして切り抜けたい。
…そうじゃないと熱さでおかしくなってしまいそうだった。
「…チャイナ」
「な、なにアル?!」
「お前すげードキドキしてるだろィ」
「し、してない、してないネッッ!むしろドキドキしてんのはオマエの方アル!!」
「…してねェよ、アホチャイナ」
「じゃあ!どうしてさっさと離れないネッ!熱くて仕方ないアル」
うん、ごめんなさい、ドキドキしてます。だけど言えるわけない。たとえバレバレであっても恥ずかしくて言えるわけないし。
いやだけどこのドキドキ煩いのは私だけじゃないし。
自分ばっかり何事もなかったように振舞っていても、このドキドキで私は騙せないぞコノヤロー。
…だけど、ちゅーくらいでドキドキするなんてコイツ。
そういえば。
ちゅーには普通のちゅーと大人のちゅーがあるって銀ちゃんは言っていた。
さっきのは…多分普通のちゅー。
ふにっと唇が触れてそのままぎゅっと押し付けられて、離れていった。
それ以外にもあるらしい大人のちゅーとはどんなものなのか。
気になる。
なんて思っているコト自体がもうおかしい。
ぼーっとしてきたどころじゃなくて既に手遅れだったのだ。
「じゃぁテメーから離れろィ」
「…アルか?」
「は?」
「…い、今のは普通のちゅーアルか?」
「そう、だけど」
「ふ、ふーん。そう、アルか」
「…してみたい?」
少し身体を離して私の顔を覗き込むようにしていう沖田はまるで心を読んだかのようにニヤりと笑ってすごく意地悪な顔をしていた。
…なんて馬鹿なことを口走ってしまったんだろう。
でも。
「…ちょっと、だけ…」
「仕方ねェなー。どうなっても知らねぇよ」
「え…、どうなっちゃうアル?」
「…」
その答えは無くて沖田は再び私の背中に腕をまわしてきゅっと抱きしめられる。そして髪を撫でられながら手が耳に触れてそのまま頬に手が添えられた。そして少し顔を横に傾けた沖田が迫ってきて。
「後悔すんじゃねェぞ」
「だ、大丈夫アル、そんなヤワじゃ―」
私が全部言いきる前に沖田の唇が重なって、強く押し当てられて。沖田の唇が少し開いたと思ったらその舌で私の唇も押し開けられてしまった。戸惑う間もなくてそのまま抵抗などできない私の口内にぬるっと温かいものが押し込められて舌を絡みとられて歯をなぞられる。
息ができなくて苦しかった。だけどそれ以上にドキドキしていた心臓がきゅっと締め付けられて苦しかった。
結構長いあいだこうしていると思うのにそれでも沖田はまだ離れる気配は無くて。だけどけど私はもう限界で。手で沖田を押しのけるようにしても手首を掴まれて逃げる事ができなかった。
「…ふぅ」
くちゅ、という音を立ててやっと解放されたけども。
酸欠状態の頭ではうまく話せなくて。
「後悔したかィ?」
「…してない」
「へぇ。…もっとする?」
「…無理アル」
「どうしてさ、後悔してないんだろィ?」
後悔はしていなかった。
だけど今でもまだ頭はぼーっとしててドキドキは鳴りやまずにいるのにコイツは至って普通。さらにそんな事をいうのは余裕があるからなのかどうなのか。
だから、これ以上続けてしまったら本当に自分がどうなってしまうのか分からなくて、それが怖かった。
「…」
「チャイナ」
無意識に一歩引いてしまった私に、一歩近づく沖田。そしてまた強く抱き寄せられてきゅぅっと心臓が締め付けられた。
「お、沖田…ほんとにもう…」
「…何もしないから」
「え?」
「だから、このままで少し居させて?」
そういうと沖田は首元に顔を埋めて背中に回された腕に力が籠った。髪の毛が顔を掠めてくすぐったくて、やっぱりドキドキが止まらない。
でもさっきのように苦しい程のそれではなかった、むしろ心地よくて暫くこのままでもいいかもなんて思ったりしていた。
【終】