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03 君と僕の絶対領域


「お前、頭いいと思ってたけどアホアルな。なんでわざと赤点なんてとるアルか」

プリントとにらめっこしながら彼女が話し始めた。

「テメエが毎回毎回補習受けてるから、どんだけ楽しいもんかと思って」
「好きで受けてるわけじゃねーヨ、銀ちゃんも酷いアル」

また出た。

「先生って呼ばないと怒られるんじゃねーのかよ」
「別にどうなってもいいアル、あんな天パ教師なんて」
「そーかい、そしたらてめえは中国に強制送還だなァ」
「マジでか」
「そりゃそうだろィ。下宿先から追い出されたらテメエはどこに寝泊まりするんでィ」

中国から留学してきたチャイナは兄の知り合いだという銀八のもとで下宿していた。仮にも教師と生徒という立場の彼らなので他の生徒には隠しとおさなくてはいけない。
しかし、俺だけは知っている。世の中知らないほうが良い事があるっていうけども、これはまさにそうだ。彼女は何かと「銀ちゃん」の話をしたがる。憎まれ口を叩きながらも彼女は「銀ちゃん」を慕っていた。

「そしたらおまえんちに転がり込んでやるネ。そのための共犯アル」

共犯という響きにドキリを胸が鳴る。

「誰が共犯でぃ。てめえが一方的に俺にんな大事な事バラしたんだろ」

俺は知りたくなかった。

「いいじゃねーかヨ。銀ちゃん家よりお前んちのほうが冷暖房完備で快適アル」
「ふーん、じゃそん時は奴隷のようにコキつかってやりまさァ」
「小公女セーラみたいアルな、悲劇のヒロインネ」
「瓶底メガネのヒロインがどこにいるんだよ」

プリントを必死に追っていた瓶底メガネがこちらを睨みつけた。 夕日をバックにオレンジ色の髪が更にキラキラ輝いているようにみえる。

「メガネとったら美少女だったってのは少女マンガの王道ヨ」
「いつの時代の少女漫画だよそれ。つかどこに美少女がいるんでぃ」

沖田が神楽のメガネに手をかけ、ひょいとそれを外してしまうと大きな青い瞳が露わになる。レンズに触れないようにメガネをいろんな角度から眺めているとある事に気付いた。

「ここにいるアル」
「見えねえなァ、つかコレ度入ってないだろ?」
「…兄貴がネ、日本は危ないからってくれたヨ」
「はぁ?てめえの兄貴はシスコンかよ、どう危ないってんだこんな怪力女」
「怪力女は余計アル。タダのバカ兄貴ネ」
「んでてめえはそれを律儀に守ってるわけか。おまえもブラコンじゃねーか」
「そんなんじゃねーヨ、少しは黙れ全然進まないアル」
「…なァ」

再びプリントに目を向けそうになる彼女を引きとめるように声をかける。もうちょっとその青い瞳を見ていたいから。

「知ってるか?俺ら付き合ってるらしいぜ」
「…はァァァ?!んな訳ねーだロ。ふざけんな」
「すっげー噂広まってんの知らねえの?」
「…知らない」
「…」

目の前の青い瞳はしっかり沖田を捕えていた。いつもはメガネ越しにしか見えなかった瞳はいま、沖田だけを映している。
その瞳に吸い込まれるように神楽の手首を掴んで彼女との距離を縮めていく。
必然的に鼻が触れ合い、前髪が絡んだ。顔の角度を変え震える瞳を閉じるとそっと触れるように唇が重なり合った。
全身を熱が駆け巡る。
触れるだけでは物足りなく感じ少し強めに押し当ててみると柔らかさがダイレクトに伝わってきた。
どのくらい経ったのだろう。チャイナが少し身を引くと唇の間に隙間ができる。

「このキス魔が。お前がいつもこんな事するから変な噂が広まるネ」
「人前ではしてないけどなァ」

言葉が紡がれる度に数センチしか離れていない唇には熱い息が吹きかかる。

「私はお前の性欲処理機じゃないネ」

そうチャイナが言うと触れあっていた全てが離れてしまいいつもの距離に戻る。さっきまで熱かった唇もいつもの少し冷たいそれに戻ってしまった。

「キスだけで性欲が処理できる訳ねえだろ。アホチャイナ」
「じゃぁ、セクハラか?セクシャルハラスメントか?オヤジアルな。毎回毎回される私の立場にもなってもらいたいアル」
「その割にはいつも抵抗しねーじゃねーか。俺としては抵抗された方が燃えるんだけど。分かってねえなぁ男心」
「この変態。死ね。男心じゃなくてただのドエスだろうが」
「分かってるんなら少しでも期待に添える様な反応してくれてもいいじゃねーか」 「しねクソサド」

パサリと神楽の前に沖田のプリントが差し出された。

「ほら、特別に見せてやっから。あぁ、礼は明日アイスでも奢ってくれればいいぜ」

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