「マットの告白」-4P

「苦しいよ、マット」

マットは困惑するメロを頑として放さず、押し黙っていた

「……くならないでくれ」
「え、何?」
「こんな感情は初めてなんだ。失いたくない。俺の前からいなくならないでくれ」

長引く二人の抱擁に複数の通行人が視線を取られ始める

「なぁ…本気なのは分かったから、もう放せって」

怒りが消え諭すようなメロの言葉に応えて、ようやくマットは腕を緩めた

これまでにない至近距離で向かい合って見るマットの目があまりに悲しげで、見つめ合うメロは黙って溜息を吐いた

「……Lのことを考えていた」

うつむいたメロの言葉に、マットは同調して視線を落とした

「僕にとってあいつが何なのか、わからない。全てなのかも。…。あいつは自分に深入りするなと言うくせに、僕が全てみたいな顔をする。あいつにとって僕が何なのかは、わからない。どう思っているのか怖くて聞けない。…何だろうな、これって」

「Lのことが好きなのか?」

メロは首を振るった

「じゃあLに求められたら?俺が今、お前に対してしたように真剣に求められたら?」
「わからない……何だよ、その質問」

メロは吐き捨てるようにして小さく呟き、逃げるようにうつむきを深くした

「だけど今の僕にはL以上に大事なものはない。朝目が覚めた時も夜眠りにつく時も、真っ先に考えるのはLのことだ。好きだと言われたら、溺れてしまうのかもな」

メロが場の空気に強いられて打ち明けた本音は、マットの心に強烈な打撃を与えた

本人いわく正体不明の感情とはいえマットからしてみればそれは恋と大差なく、メロの発言はLへの告白に等しかった

Lを語る時の物憂(モノウレ)い気なメロが一際美しさを増すようにすら見えてきて、マットはそれ以上の追求を断念した

「……行こうか」

しばらくの沈黙のあと、メロがケリをつけるように一言告げて、先にマットに背を向けた

促されてマットは鉛のように重い足を踏み出した

行き交う買い物客が奏でる賑わいが、心に残った後味の悪い孤独感をさらに増大させた

しかしマットの恋はこれで終わらず、のちに彼はメロと奇妙な関係を築いていく

それは残酷でこそあったが、ひたむきにメロを慕い続けた彼が選んだ、果ての想いを昇華させる最良の末路だったに違いない






「マットの告白」−完−
2017.1.11




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