「マットの告白」-3P

「ごめん、無理強いした」
「いいって言ってるだろ」
「嫌だったよな。忘れていいから、今の―」
「は!?ふざけるなよ!」

メロは途端に逆上し、振り返って叫んだ

「おまえって本当自分勝手だな!ニアが発作を起こした時にしてもそうだ!僕は看ていろと言ったはずだぞ!それなのにアイツを一人にさせた!エレナが騒いだのに、駆け付けすらしなかっ―!」

憤怒するメロの体をマットの腕が発言半ば、力づくで抱きとめた

「ごめん……俺にはないから…施設を出て行こうとするお前を、とめる力」
「!…」

マットの声はこれまでにないほど暗くて、必死だった

そう、ニアが喘息の発作を起こせばメロが戻ってくることはわかっていた

だから失踪を試みようとしたメロを引き留める為に、発作を起こしたニアをわざと放置した

それが命の危機を誘発するとはいえ、マットにとっては自分の世界からメロが消えてしまうことは、他のどんな深刻な事態よりも強い恐怖を誘因するはずだった

抱きしめるマットの腕の力強さに彼の本気の度合いを感じてメロはうろたえた

「ムダだって分かってるけど好きなんだ。本気で好きだ…メロ」

耳元にこもる苦しそうな声が震えた

ルームメイトに熱烈な告白をされながらメロは、普段周囲に関心のない言葉少ななマットの本当の心に触れた気がして、はっとした

彼は昔からいつも何事においても受動的で、何か言葉を投げかけられても生返事が多かった

マットとメロは、二カ月前から共に暮らす施設でルームメイトになった

ロジャーからメロと同じ部屋に組み入れられたことを聞いた時のマットの反応は鈍く浮かないもので、同じく隣でロジャーの話を聞いていたメロは、彼は他人に関心のない性格だから誰がルームメイトになろうとこういう反応をするものなのだと思っていた

マットはメロがやって来た時に既に施設にいたが、自分から交友の輪を育むタイプではないらしく、自由の効く時間はもっぱらパソコンに向かって画面の中の仮想空間に熱中したり、耳にイヤホーンを差し込んで音楽に耽(フケ)り、パーソナルスペースをしっかりと保持するような少年だった

そんな彼が、入所して以来度々短絡的な言葉ではあったが声をかけてきたり、気付くと自分の声の届く範囲内にいたりすることをメロは特に気にも留めなかった

一度も自分と目を合わさないマットが意識的にそうしているのだとは考えなかったし、その頃のメロはもっとずっと閉鎖的で、母親に捨てられたという現実がもたらす途方もない苦心から無気力状態に陥り、喜怒哀楽さえあきらめた陰鬱な少年だったのだ

肉親の裏切りの犠牲となった彼のまとう強烈な負のオーラは少女のような容姿と反り合ってより一層の違和感を醸したが、同時に彼の圧倒的な外見の形成を助長しているかのようでもあった

マットは施設にやって来た一つ年上の、極度にひねくれたこの金髪の少年を見て一瞬で恋に落ちてしまった

それから長く密かな恋が始まった

日々積み重ねた短くぎこちない会話と、時間の共有の末にこうして親しくなった現在まで、マットが何年も人知れず自分を想い続けていることなど、メロが知る由もなかった

メロと部屋を同じにされた旨を聞いた時の浮かない反応は、マットの内心の焦燥と戸惑いの裏返しであった

もちろん嬉しくはあったが、急速に縮まる距離に対する戸惑いの方が大きかった

そして案の定、思春期に部屋を共にしたことで淡い想いは更に具体的な段階―(性的な意味合いを持つもっと現実的な感情)―へと変化を遂げたのだった


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