それは杠のように


真上で照らされる蛍光灯でまぶしくて頻繁に瞬きをする菫に気づいたカカシは一度スケブを置き慣れた手つきで女の上体を起こす。
こちらが驚愕に口を鯉のように動かしていただけなのに言葉にせずともスムーズに意思疎通ができていることで本当にこの人が世話…とアレをしていたのだと確信した。確信してしまった。残念なことに。
頭を抱えたくても四肢までまだ手は回っていないのか神経に信号が送れず動かないので仕方なしに俯くだけにする。10年目にしてようやくご対面できたキャラ二人は私が本誌を読んで知ってる姿よりもいささか若い……、気がする。
現在データブックを持ってないのでプロフィールの情報が豊富なナルト以外を逆算できる程の記憶もないし気がするって程度なのだけれども。
だいたいカカシ先生とその同僚たちっていつから上忍だったんだ?真アカデミー卒業試験で何回落としたんだっけ?でも中忍試験は半年に一度とか書いてた気がしなくもないようなそうでもないような気もするし、アカデミー卒業が年一度とは限らないよな…?
顔ほぼ見えないけど目元の皺やらを見てそれなりに若そう……っていうかいのちゃん8歳とか言ってなかった!?やべーこれもしかしたら年下なんじゃないのカカシ先生!年下とか!!うそやん!つら!
くぐもった母音だけの唸り声をあげる菫をスケブの端から見やる…目元を真っ赤に腫らしたカカシはマスクの下でずびびと静かに鼻を啜った。
あの色がこちらを向いていた。半年以上前に、一度だけ見たあの澄んだ菫青が。
実質初めて会話をすることになるからと丹念に誤字脱字、そのほか文章の違和感を確認し、一度目元をこすった後一瞬たりともズレることなく見つめ続けている菫青へと、スケブをひっくりかえしそれを映しやった。

“オレの事見えていますか?”

たった一文だけだった。男は震える腕でそれを書いたらしい。ところどころ制御が効かなかったらしき歪みを必至に抑え込んでいるような字だった。
スケブいっぱいにその12文字を書いた男は菫の反応を待っているらしく、こちらを伺い動かない。
悲しいかな。何か裏の意図があるのかと、幸か不幸かこちらに飛んで過ごしてきた10年間で猜疑心のパラメーターをカンストさせていた菫は考え込むがどれだけ頭を悩ませようがカケラも判らず。
ならばそのスケブの文字自体に隠された暗号でもあるのかと眼力で火が点きそうなほど観察したが、それもない。
よもやスケブの小口や別のページに描かれたのではと、目線でカカシを呼んだ。
やはり完璧に通じているらしい。警戒もなく――そもそも一人で動けないやつに警戒する必要もないのだが――歩み寄ってくるカカシからスケブへと目線を移す。
いじりやすい位置までスケブをおろした己の手足のような男の持つスケブを、腹筋に力を入れ上体を維持しながら唇と舌でめくりだした。
紙を食べだしたと考えたのか、一瞬引いた周りの人間の中、微動だにしないカカシはやはりおかしく感じる。
念入りに調べ上げ、やはりどこにも隠された暗号がないことに首を傾げ、カカシを見やった。
「はい、菫さん」
声は聞こえないのだが、確かに男は名前を読んだ。読唇術など持っていないはずなのだが理解できたし音すら聞こえたような気がする。
そうして自分がさっきまで握っていたペンのキャップをはずして渡してきたカカシから受け取ると、動かないように歯で抑えながら紙へとインクを落としていく。

“あんごう わからない ごめん”

カタコト、ひらがな。大の大人が描いてると思うと羞恥で穴に入りたくなるような返答だったが、身体全体で一文字を書いている状態の菫には大変重労働で。
またそのカカシが投げかけた質問と何ら繋がりのない突飛すぎる応答にまわりがえぇ…という顔を見せたがカカシはやはり動じなかった。
それどころか先ほどまで抑えていたスケブを足元に放り投げると菫へと抱き着いたのだった。
「ありがとう、成功です」
彼女は見えていると、カカシが菫の首元に顔を埋め涙声で答えると、ああそういえばそうだとちょっと引いていたいのは頷いたのだった。


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