やれやれ、はじめましてかな


ふいに見慣れていた白い世界が不自然にぐにゃりと歪んだ。
いのちゃんという異物が入ってきたからか!?と好き勝手出来るこの世界の安定した状態を求め必死に戻そうと、菫は外で何が起こっているのかわからないがようやく手に入れた暇つぶしの為の平穏を壊されるわけにはいかないんだと、ゆがみを引っ張ったり押したり思考錯誤していた。
触感のわかる胴体を複数の手で触られているのに、それに気づかないのはいまだにカカシという爆弾を引きずっているからにすぎなかった。
何しろおぼろげな原作知識の中でも最初期からずっとでずっぱりで副主人公のような立ち位置にいる人物だ。忘れられるわけがなかった。ついでにネット的な知識で言うとやったかフラグ建築士の男で何かと話題に出されていた男でもある。
一番好きなタイプはと聞かれたら主人公のナルト君ですかねと答えはするが、彼を形作ってきた一因でもある。
敵だろうが全員物語に必要な人物だと思っているから自分はキャラアンチこそしないものの、やはり彼は格別なキャラの中の一人だった。
それがどうトチ狂ったのか無反応な人形を……代わりに使用する男になっているらしい。菫の動揺は消えることを知らないかのようにどんどんと膨らんでいき、ついにそれが目の前ではじけて視界を奪った。

人工的な光がいくつも自身の視界を奪っている。これはなんだ、山中一族がこぞって心象世界に侵入してきたのか?ライトをもって……?
ありえなくはない話だ。何せ敵対した国もどきに所属し木の葉に潜入してきたときから彼らの能力が未知数なのは身をもって知っている。とはいっても山中一族がどの程度まで他人の心の中で好き勝手出来るのかよくわかっていないがライトの持ち込み位できそうだ。
表がどれだけ明るいのか知らないが、おそらくいのちゃんから薄暗いと聞いて……そこまで思考を進め、覗き込まれたのかライトからの逆光で一段と黒い影にビビる。ん?影?

硬直した女の瞳孔が己の影によって開き、比較的動かしやすくなっただろう顔周りの筋肉を使って無意識的に口をはくはくと動かしている。
まだ声は出なかった。というよりおそらく声帯を傷つけてしまったのだろう、必死に嘆願している綱手姫の一時呼び戻しがかなわなければこのまま声が出ないで一生を終えるかもしれないが、彼女の人形のような状態から一歩脱出することが出来たのだ。素直に喜べる出来事だった。
そう、手術は成功したのだ。白内障を取り除くことに。影になった男の動きを注視しようと菫は視線をそちらへ動かしたのも確認した。
手術後は絶対安静で目を使わないようにするべきなのだがそのままチャクラを使って超再生まで施したから眼帯を付け安静にしておく期間という過程を吹っ飛ばすことができている。
まだ菫は聴覚を取り戻していない。局部麻酔だけだろうが異常があった時に患者が自ら訴えることが出来ない状態での手術は余計に神経を使ったらしい。ドッと壁に寄りかかるとそのまま手術着を着た彼らはずるずると座り込んでしまった。
光が強いのか目を細め、見つめてくる二つの目に右往左往始めた彼女の菫青に男の黒目がぶわりと滲んだ。
手術着を着て口元にはマスクをし、眼帯代わりに左目を隠すよう深く帽子まで被っているが、ぼたぼたと大粒の雨を降らす男に顔を注視し、その姿を判別した菫は飛びのくように体を跳ねさせた。


いのが一番最初にと進言したのは目だったのである。アカデミー生の彼女が懸命に、じっくり考えた結果であった。
声帯が難しいのなら聴覚を取り戻したところで意思疎通の効果は半減である。ならば口ほどに物をいうと良く揶揄されてる目ならどうだ。
瞳孔の開閉や、目の逸らし方で十分に話はできる。咀嚼が出来るなら文字を見て首も振れるだろう。そう、目なら意思の疎通が現状一番こなしやすいはずだといういのの提案だが、実はそれは後付けだった。
彼女は知っていた。それはどこか食事処での話を聞いたのか、はたまた風が運んできた噂だったのか。
“はたけカカシはアレの菫青色の瞳が好きだったらしい”という情報を。
さっきまでその綺麗だと言われた色は見る影もない乳白色だったが、少しはこの男が報われてもいいではないかと思ったのだ。
実は毎晩のように無体を働いていたのを知らないが故の優しさであった。
菫がそれを心象世界で話していればいくらでも意見は変わっていただろうが、残念ながらいのと菫はそれを話せるほど近い間柄ではないし、いくら忍が一般人より幾分も壊れた感性を持っていたにしろこの話題を出すのはきついものがある為カカシがぽろっとこぼさない限りいのはこのことを生涯知らないままでいるのだった。
外で待機していた――カカシに全面協力する態勢の――いのが一連の流れを見てもう大丈夫だろうと手術室へと突入し、カカシの背中を二度程叩くとスケブとマジックを手渡す。
きゅぽっといい音を鳴らしガリガリと文字を描きだしたカカシの横で、菫の瞳を見やった。
「うん、すごくきれいな色だわ」
微笑んだいのに対し、菫は隣に並んでスケブをガリガリしている男と交互に視線をやり、ようやく逆光でなくなり判別できるようになった顔を視界に入れ、カカシといのちゃんじゃねーーーか!!!と文字通り声にならない声で叫んだ。




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