トリップ続編 | ナノ
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……無言だ……。

着替えて来ると伝え最初の部屋に向かったら、銀さんは当然のようについて来て部屋の中まで入って来た。

ゆっくりウィッグを外してもずっと後ろから視線を感じる、流石にじっと見られてる中で着替えるのは恥ずかしいし、怒ってるんだと思うと余計気まずい。


「……行くの遅くなって悪かったな。」

「へ? え、いや、そんな事無いよ、来てくれた時凄く嬉しかったから。助けてくれてありがとう。」

「いや、けど怖かったろ」


あれ、怒ってるんじゃ無いの?
確かに怖かったけど、それは銀さんが来てくれた瞬間に大丈夫になった。

ゆっくり傍まで来た銀さんは、労るように優しく頭を撫でてくれて、全然怒ってない気がするんだけど安心しても良いのだろうか。それとも最初に優しくしておくか的な流れなの。


「……怒ってるんじゃ無いの?」

「んー、まぁ、それもあったけど、やっぱやめとくわ。あん時呼ばれたの結構嬉しかったし。」

「……ほんと? 後から怒ったり、しない?」

「しないよ、だからおいで。」


目の前で腕を広げられて身体の左右に手が伸びた、一歩近付くだけでその胸に飛び込める。だけど、何だろう行くに行けない、頭の中がぐるぐる回ってるみたいに軽く目眩までしてくる。


「大丈夫、もう終わったよ、皆無事だし俺もほら、な? だから安心しろ、ほら来い。」


銀さんは私より私の事分かるのかな、胸元から目線を上げても銀さんの顔は霞んで良く見えないけど、緩く笑ってるのは分かる。一歩前に出ると伸びてた腕がしっかり首の後ろと背中に回りきつく抱き締めてくれた、その背中にしがみつくように手を回して耳を当てればトクントクンと心臓の音。


「怖かったか。」

「……うん、私まんまと囮になっちゃうし、せめて自衛しなきゃって思うのに、真っ白で何も見えないし、抵抗も満足に出来ないし、舐められるし……」

「囮では無ェよ、お前があそこに居てくれたから真っ白の中でも方向が分かったんだ、それにちゃんと自分で起き上がってたろ、アイツも流石って誉めてたぞ。」

「……沖田くん?」

「うん、あん時既に攻められててよ、アイツも俺も行こうとしてたけどお前が自力で切り抜けてくれたから安心したわ。」

「っ、ほ、ほんと? 私、ちょっとは頑張れたっ?」

「すげェ頑張ってたって、大丈夫だよ心配し過ぎ。」

「嬉しい……、ありがとう」


本当に足手まといにならなかった? もしそうなら良かった。

冷えた身体が銀さんの体温でどんどん温まって行く、声が聞こえただけでもホッとした、触れてくれた頬にどれ程安心した事か。
それでも、まだ終わってない油断するなと自分に言い聞かせてたけど、それももう良いんだ。


「落ち着いた?」

「うん、ありがと」


暫くぎゅっと抱き締めながら緩く頭を撫でてくれた銀さんの手が、何故か突然うなじを掴み、安心感と温かさでいっぱいだった空間に何か違うモノが……


「じゃ、反省会しながら消毒するけどいい?」

「……え? えっ、銀さん怒らないって言ったよね? 嘘付いたの? 銀さん嘘言ったの?」

「嘘じゃねーよ説教止めたろ、反省会だって。」

「やだ、こわいやつなら同じだもん。嘘付いた、銀さん嘘付いた。」

「消毒する事は理解出来んな? 俺これでも抑えてんの、総一朗くんに痕付けられた時の事忘れたか? 言っとっけどあん時よりキてるかんな、何で呑気にフルーツ食わしてんの? 最初の一回はまぁ良いとしてもよ、その後も食わしてたろ。 引き止めるっつっても出来なきゃそれで良かったのに、何で呑気に話ながら酒飲んでんの? そして押し倒された、なぁ、油断したろお前」


反省会じゃ、無いじゃん。それ怒ってるよ、お説教だよ。
言ってる事は分かる、けどちゃんと警戒はしてたもん。あの時無線から凄い音聞こえて、その隙にテーブルに倒された。確かに油断してた気もするけど、でもその後頑張ったもん。


「けど、お前は自分で起き上がった。あんな真っ白じゃ何も出来ねぇの当然だわ、だからその後のも仕方無ェし俺の名前呼んでくれたから状況も何となく分かったし、だから説教ナシ。」


掴まれてたうなじから後頭部に手が移動して優しい声色に戻った。そろっと見上げたらこわい目でも無い、嘘じゃ無かった、怒らないの嘘じゃない?


「消毒はさせて、噛んだりしねーから。」

「……うん」


頷けば緩く笑って前髪の上から唇が触れる。そして突然の浮遊感に目の前の肩に手を置くと直ぐに何処かに座らせられた。
銀さんの顔が真っ正面に来て、自分が簡易テーブルに乗せられた事が分かり足が浮いてる、私の身体を挟むように両サイドに手を付いてじっと首を見てくるのは、きっと痕でも残ってるんだろうな。


「……何でこんな付いてんの。」

「…痕付けないでって言ったら余計吸われた。」


ため息。 お願いなんて全く聞いてくれなかったし寧ろ楽しそうに笑いながら付けたよ。


「ったく、マジで腹立つなアイツ」

「……何となく思ったんだけど、高杉さんって銀さんの事好きだよね。」

「はぁ?」

「楽しそうなんだもん。これ付けてた時もそうだけど、ピアスの光に銀さんが来るって確信持ってたし、それも楽しそうだった。」

「コケにしてるだけだろ。アイツ押し倒しながら俺見やがったんだよ、邪魔されなきゃぶん殴ってやったのに。」

「万斉さんに足止めされてたんだってね、元気そうだった?」

「あぁ、お前に宜しくっつってた。何でテロリストに宜しく言われてんのお前は。」

「ふふ、元気で良かった。」


呑気なヤツだな、と呆れた顔しながら首に寄せられた唇。軽く触れたと思ったら、ぬるっとした生暖かいものが肌を這う。
全然違う、同じ事されてるのに怖いとは思わないし嫌だとも思わない。
怪しげな空気の時はドクドクし過ぎてどうして良いか分からなくなるから、それにこわくなるけど、それでもやっぱり他の人とは全然違う。


「んっ、」


リンパなんて舐められたっけ、下からゆっくりなぞるように上がる舌に自分の身体が揺れて背中が壁に付いた。壁沿いにあったテーブルだから無意識に逃げようと下がっても無駄だった上に、銀さんが体重を乗せたり私が動く度にギシッとした軋む音が静かな部屋に大きく響いて、だんだんと羞恥が襲ってくる。

落ち着かなきゃ、これは変な感じのアレじゃないから、上書きして消毒してるだけだから。照れる事じゃない、変な声を出すな。


「ん、ぁ、……っ、ちょ、た、タイムっ」

「なに? すげェ耳舐められてたよな、消毒してェだけだから。」

「分かってる、分かってるからっ、ちょっと待ってね、」


何でこんな熱くなるの!? 耳やだ、耳朶軽く舐められただけなのに一気に熱上った、これどうやったら下がるかな、深呼吸したら良いの?


「……頑張ると思ったわ」

「ふぅ、……へ?」

「いんや、落ち着いた?」

「はい、ありがと、」


再び寄せられ熱い息が耳朶に触れた後、温かい口腔内に覆われてねっとりと動く舌に思わず銀さんの肩の着物を掴んでしまう。

耳の裏を指でなぞりつつ唇で挟まれ、舐めては吸われを片耳全体に施すものだから、揺れる銀色の髪が頬を擽る。ふんわり香る銀さんの匂いはとても癒されけど、耳から聞こえる水音が癒されないから脳がパニック起こしてるのかクラクラして来た。


「っ、ん、……んんっ、」

「すげェ熱くなってんね。」

「んっ、は、息、あっつい……っ」

「惜しいわー、家ならもうちょい楽しみたかったけど、そろそろアイツら戻って来そうだし着替えねぇと。足りなかったら夜もやろっか? だから今は勿体無ぇけど離してな。」


聞こえた台詞を理解する前に反射的に視線を向けたら、満足そうに笑って頬に唇を当ててる銀さんと目が合った。


離して?
……あれ、私何で銀さんの頭掴んでるの、掴んでるって言うか抱き寄せてる? ふと我に返ると気付く、下ろしてた筈の自分の足は膝を曲げて銀さんの身体を挟むようにテーブルに上げてるし、当然ながら捲れ上がった裾から脚が丸出しで、銀さんの片手は太股の裏を撫でてる。もう片方は腰にあったんだね、抱き寄せられてたんだ。

恥ずかし過ぎて目が霞む、あっついし、兎に角熱い。もう本当に、熱いったら無い。


「んな顔すんなよ、俺もうなーんも怒って無ェよ、満足した。だからお前も良かったんじゃね?」

「……っ、う、」

「泣くな泣くな、どっか掴む所が欲しかったんだろ? 抱き癖マジ最高だな。」

「そんな癖無いっ!!!!」

「あれま、頑張りタイム終わったか。けどんな格好して言われたってなぁ?」

「んえ!? 何でほどけて……!」


帯ほどけてる!? 銀さんの身体が離れてようやく気付いた。脱がされかけてるじゃん、いつの間に?


「着替えるから丁度良いじゃん? 」

「そうゆう問題じゃないよ、全くもう。」

「そんなプンスカすんなって、元気出た?」

「……うん」


着物を胸元で押さえたら抱き上げてテーブルから下ろしてくれた。確かに気分はスッキリだ、頭ポンポンされて上がった熱も徐々に落ち着いてくる。


「んじゃ、着替えとけよ。」

「あっ、」

「んー? なに?」


え、引き止めちゃった。本当になに? なに、……なに、


「どした?」

「えっ!? え、あ! へ、部屋には居て、欲しいっ、」

「そ? じゃあそーする。」

「う、うん、」


何を引き止めてるんだ私は、びっくり、いや驚いたのは銀さんだよね。
自分の行動に驚きながら、壁に向かおうとしてるのか離れて行く背中を眺めていると不意に顔だけ振り返って来て目が合う。振り向くと思わなかったから一気に顔に熱がぶり返し、進んでた銀さんの足が止まった。


「……」

「あっ、いや、ち、違っ、違うっ、」


自分でも何言ってるのか分からない、素直に言えないなら大人しく着替えるべきなのはちゃんと分かってるのに。


「きがえるっ、何でも……っ、」


こっちに戻って来てる銀さんに慌てて着替えると告げたのに、黙ったまま目の前で止まり、私の頬に垂れる髪を避けるように指先で頬を撫でそのままゆっくり顔が下りて来て唇に温もりが重なる。軽く触れただけの温もりが顔を傾けて唇を緩く覆い、沿わせるように動いて離れる瞬間小さくリップ音が聞こえる、そんな優しいキス。


「、何で、分かったの、?」

「……」

「……ありがと、着替えるねっ!」

「……」

「あっち向いてて? 」


呆れちゃったかな、じっと見下ろされたまま動かないから身体を押して反転させて背中も押したら前に進んでくれた。


何で分かったんだろう、銀さん凄いね。
最初は息出来なくて苦しいし恥ずかしいしで何も考えられなかったけど、今では優しいやつだったらほっこり幸せ感じる。熱くはなるけども、恥ずかしいのも変わらないけども、だけど幸せ感じるからして欲しくなるし何かちょっとフワフワする。でも長いとそれ処じゃないしそれ以上だと頭真っ白になるからまだ上手く出来ないな、銀さんゆっくりしてくれてるのに私の成長もゆっくりだからきっと物足りないよね。


「ぅわ!? え!? なに今の音!?」


凄い音鳴ったよ今!! 壁に何か激突した!?


「……えっ、銀さん? 」

「……気にするな」

「え、」


壁に頭ぶつけたの? 前見ないで歩いてた?

立ったまま壁に頭を付けて止まってる。

でも取り敢えず早く着替えないと。



・・・



夢では無かった、 まさか途中から白昼夢かと思ったわ。
上書きしてる時から随分イイ反応だと気分が上がり腹立たしさも取り敢えずは解消されたが、今完全にこの展開を作った全ての事に感謝すらしてる。

別にハッキリ分かったワケでは無い、少しだが物欲しそうな顔してたから戻って頬に触れてみれば、微かに息を飲んで見上げて来る顔に身体が勝手に動いた。
潤んだ目ェして頬も染まっちゃって、なのに礼言ってくる。吐息を漏らすように吐く息に、引き寄せられるかの如く再び前に傾きそうになったのを何とか踏み留まるのに徹したら無言貫いてたけど、額からの流血でようやく目が覚めた。


「えぇ!? すごい血出てるよ!?!? どうしたの!? 」


着替え終わったらしく俺の隣に来た名前は心底驚いた顔して叫び声を上げている。何て事はない、これで現実感が得られた。さっきのは現実、こいつはだいぶ慣れて来ただけではなく俺とキスしてぇと思ってるつー事だろ? そんな所まで成長を遂げていたなんざ知らなかったわ。多分あのくらいの軽いやつなんだろうが、そんな事ァどうだって良い。注目すべきポイントは、こいつ自身が俺としたいと思ったと言う所、即ち、多少なりとも欲を求めて来ているという事……ッ、


「血ぃ!何か興奮してるの!? 落ち着いて!」

「は、ゆっくりやってるせいか、成長への喜びがデカイ。」

「顔血だらけなのに何でちょっと笑ってるの!? 怖い! 駄目だこれ止まんない、人呼んで来る!」



余韻に浸ってたら一瞬で戻って来た、こっちに向かって来てたんであろう大串クンを引き連れて、借りて来たらしいタオルで心配そうに止血してくれてる。


「何やってんだよテメーは」

「どうやったらこんな血出るまでぶつけられるの!? 何してるの! 」

「もうそのままで良いから移動するぞ、あっちで手当てでも何でもして貰え」

「わっ、スカーフ? 何で私の首に巻くんですか、銀さんの頭に巻かないと」

「あっち男ばっかなんだぞ、目の毒なんだよ。取り敢えずソレで隠しとけ」

「……あっ、あー、すみません、ありがとうございます。銀さん凄い吸い付いてたから。」

「帰ってからやれっつーの」

「じゃれてたんじゃないんです、消毒してくれてただけなんです」

「消毒なんてレベルじゃねぇだろ、さっきの三倍くれェ付いてんぞ。」

「え、」

「うーわ、何こいつの首舐めるように見てんだよ止めてくんない?」

「誰も舐めるようになんざ見て無ェだろうが!! 会話中視界に入んだよ!」

「視界に入っただけで3倍とか分かるワケ? どうせ話す振りして胸元からじっくり見てたんだろテメーふざけんな。」

「テメェがふざけんじゃねェよ!!!! 」

「もうそんなのどうだって良いから早く手当するよ、どっちですか土方さん、右? 左?」

「良くねーよ、お前コイツに舐め回されても良いの? 」

「舐め回すワケ無ェだろうが!テメェと一緒にすんじゃ、オイ待て待て左だ左。」

「左か。」

「何でいっつも二択で間違えるの? 間違った方に引き寄せられる装置でも埋め込まれてんの? 俺はお前の方向感覚が不思議でならねぇんだけど。」

「違うよ、土方さんが早く教えてくれないから間違えたんだよ」

「馬鹿なのか、左から来たんだから左に戻るに決まってんだろうが。どうやったら間違えんだよ。」

「右に走って土方さんに会ったから右に行こうとしただけです。」

「……は? いやおかしいだろ、何で右に走って俺に会った?」

「知らないですよそんなの、私はさっきこの扉を出て右に走りましたもん。そしたら土方さんが歩いてたんです。」

「それは知ってる、お前は後ろから来た。そうじゃなくて通り抜け出来ねェだろ、瞬間移動したのか?」

「してないです、ただ走ってただけです。」

「いやだから無理なんだよ、この階の真ん中にあの部屋あったんだぞ? そもそもどうやって俺の後ろから来たんだ、おかしいだろ。」

「失礼ですねさっきから、おかしくないです、本当に走ってただけですもん!」

「そんな責めてやるなよ可哀想だろ、行き止まりだったから階段使ったんだよな? 」

「上るなって言われたから、ちゃんと下りたよ。」

「な? 普通の方向感覚を求めちゃいけねんだよ、何で上んなって言われたら下りて良いと思うのかが全く分から無ェ。」

「同感だな」

「何なの貴方達は、馬鹿にしてるの?」


してねぇよ心底心配してんだよ。



・・・



必要無ェつーのに、手当して貰えと背中を押してくるモンだから包帯巻かれて戻れば名前は居なかった。


「あいつ何処行った?」

「突然走って行っちまいやした。」

「またフラフラと迷うんじゃ無ェだろうな、ちゃんと見とけよ。」

「大丈夫でさァ、隊服見える距離には居るように言いやしたから。」


なら大丈夫か、……大丈夫か? 予測不可能な動きしやがるから大丈夫だと思っても大丈夫じゃない事が度々ある。おまけに要らんモン引き連れて来るから厄介だ。


「あいつ狙いだったワケでは無ェよな?」

「違いやすね、取り引きに何かしら関わってたらしい事は分かってやすが詳しくは調査中でさァ、でもこの会場に名前さんが来る事は知ってやしたでしょうね。」


だろうな、あのピアスは初めから名前に付ける為に用意されていたとしか思えない、つまり接触するつもりだったと言う事になる。なのに連れて行くには容易いであろうあの状態でそれをしなかった。アイツが何を考えてんのか知らねェが、やっぱり警戒は必要って事か。


「心配に輪を掛けて囲っても、あの人は自分でぶち破って行っちまいやすよ。」

「わーってるよ、別に何でもかんでも関わらせ無ェようになんざ思ってねェわ。こっちの気も知らねぇで好き勝手走って行きやがって、その癖フラッと近寄って来んの。何なんだあいつは。」

「転がされてやすね。」

「オメーもだろ。」

「俺は違いやすよ、旦那ほど囲って無ェんで。一緒に転がりやすから。」


何だ一緒に転がるって、俺と同様に心配もして過保護な割には平然と巻き込むよなコイツ。


「……お前、怖くねェの? アイツに何かあったら、とか考えて無ェの?」

「多少の怪我なら治りやすよ、だけど見え無ェ所に壁でも溝でも作られちゃ敵わねんでさァ。だったら危なかろうが何だろうがあの人がそれを望むのなら俺は遠慮しやせん。」


……別に俺だって遠慮してるワケでは無ェ、けど、コイツ程巻き込んでも無ェな。


巻き込むと、名前に伝えた時あいつは泣いた、つまりまだ不安なんだ。総一朗クンを偉く信頼してる理由の1つがこれなんだろう。俺は口で言ってるだけだもんな、まぁ最近そこまでの依頼も無ェけどよ。


取り敢えずは、俺に手離されるなんざ思わ無ェように教え込んでるつもりだけど、いまいち手応えは無い。

つか俺とやってる特訓に少しは安心したりしてくれてんのかな、楽しそうだけど安心感に繋がってんのかは分からねェな。


「銀さんっ! あったよー!」


満面笑みで走って戻って来た。さっきまで戦場に居たのに、お前怖がってたろ、いや俺が元気付けたんだけどね。だとしても何でそんな切り替え早いの?


「これ見て! 白い苺!銀さん食べれなかったでしょ? すっごく甘かったの、会場見に行って来たら残ってるのくれたのー!」

「……そうか」

「これね、ブドウも皮ごと食べれるやつだよ、凄く美味しかった! はいっ!」


何でこの子こんな呑気なの。会場行ってたの?危ないよね? まだ良くねぇモンあるかもしんねぇじゃん? そんな満面の笑みで皿差し出して来んな、嬉しいけどよ、俺の為に探して来てくれたんか。けどお前、


「はい、あーんは?」


お前まさかこれ癖になってんじゃねぇだろうな。俺の唇に苺を ちょこんと押し当ててくるんだが、これ高杉にもやってたよな?
ちょっと待てそういやアイツ清算は持ち越してやるとか言ってなかったか、清算って賭けの事だよな。アイツやっぱり狙ってんじゃ無ェか油断も隙もねぇなクソが。


「おいし?」

「すげェ甘い。」

「甘いよねー! ブドウも美味しいよ、はい。」


俺が手を出さないからか、もう皿は差し出されず真っ直ぐ口元に来たブドウを食えば、マジで旨ェわ。流石お偉いさんのパーティーに出されるモンは違ェな。


「うま、」

「ね! これシャンパンにも凄く良く合ってね、美味しかったぁ。はい、沖田くんもお食べー。」

「写真はザキが現像してくれるそうですぜ。」

「本当!? 嬉しい! 」


名前が口元に持って行く前に既に口開いてたんだが日常茶飯事か? そして名前も食わされてる、ラブラブなの?

いやそんな事はどうでも良い


「お前高杉に、」

「名前ちゃーん、余ったお酒も持って帰って良いってー。」

「えぇ!? 良いんですか!? 嬉しいっ!銀さんこれ食べて待っててね!」


無理矢理皿を持たされ、また走って俺の元から去って行く後ろ姿はウキウキとしている。


「あいつ、旨いモン与えりゃホイホイついて行くんじゃ無ェだろうな。」

「少なくとも笑顔は向けるでしょうね。」


……流石に知らねぇ奴には付いて行かねぇよな?







不安でしか無ェわ



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