トリップ続編 | ナノ
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テーブルに背を向け会場を眺めながら優雅にシャンパンを飲んでいるテロリストの隣で新たなシャンパンを開ける。

無線からは何も聞こえないし、ボーイしてる銀さんも来ない。いつの間にか沖田くんの姿も見えないし、明らかに何かが起こり始めている。


「……着物、届きました?」

「あぁ、わざわざ律儀に礼状まで添えて呑気なもんだな。」

「あの後も、助けて頂いたと聞きました。本当に、ありがとうございました、とても感謝しています。可能ならお礼がしたいと思ってはいるのですが、立場上容易では無いので何でもしますとは言えませんが、何か出来る事はありますか?」

「いいや? 今は無ェ。 貸しにしておいてやるよ、いつか返せ。」

「いつか、ですか……」


それはいつだろう。でもお礼言えて私は満足だ、関わる事がそもそも稀な相手だし、いつかの事を考えたって仕方が無いからまぁ良いや。

それよりもどうしたら良いのかな、無線途切れてるから困った、今何が起きてるの?


「賭けは敗けたのか」

「え?……あ、銀さんのですか? 負けましたよ。」

「ククッ、随分博打弱ェんだな、俺への清算がまだだが?」

「私しないって言ったので無効です。」

「なんだ、俺に感謝してるんじゃなかったのか? 」

「それとこれとは別です。」


え、ちょっと待って、何で近付いて来るの?
人1人分は空けて立ってたのに距離を詰めてきた。と言うか今気付いた、どうしたら良いかじゃないのかも、関わっちゃ駄目な人なんだから逃げないとだよ、銀さんとの約束なんだった?
不味い、自意識過剰で考えないといけないんだった、誘拐される。……誘拐される? いや誘拐以前に近……っ!


「……こ、これ、とっても美味しいですよっ、」


いやもうギリギリ、不味いと思った時には首の後ろに手の平宛がわれてたし、ぐっと引き寄せられた瞬間に反射的に手の平で目の前に来た口を覆った、そして反対の手でブドウを唇に押し付けた。

至近距離だけど特に怒ってる感じも無く、無表情に近い顔のまま唇が軽く開いたから少し押し込むとすんなり口の中に落ちるブドウにホッとする。


離れてくれた、良かった。多分只の暇潰しの一貫なんだろうな、だけど少し油断してたかも、今の銀さんが見てたら怒りそう。


「高杉さん、借りがありますので今から1分待ちますが、これから貴方がここに居ることを報告します。」

「好きにしろよ、出来るモンならなァ? 」


クツクツ笑いながらまたお酒を飲み始めた、確かに無線からは何も聞こえない、だけど皆がやられちゃったとは考えられない。

着物の中から懐中時計を取り出し時間を確認する、1分待つ事自体怒られそうだけど、それは多めに見て貰いたい。


「それ、使ってんのか。」

「へ? あっ、」


そうだ、これ高杉さんのだ。くれたらしいと銀さんが言ってたから有り難く使ってた、時計持って無かったし。


「でも高そうだし、丁度良いのでお返ししますね。ありがとうございました、助かりました。」

「どっかの煩ェ馬鹿から買った安モンだ、いらねェなら捨てろ。」

「煩い馬鹿? 捨てろって……え……、じゃあ貰っちゃいますよ?」

「好きにしろ。」


なら貰います、時計無いと中々不便で、これ綺麗だし。


「ありがとうございます。そして1分たったので連絡します。」

「ククッ、いちいち許可が欲しいのか?」


別にそうゆう訳では無いけれど、一応恩人の方だから気が引ける、それでも何もしない訳にはいかない。


ブレスレットに付いているマイク、繋がるかは分からないけれど、


「聞こえますか、高杉さんが会場に居ます。」


これで応答が無かったら、成り行きを見て逃げようかな。


≪あぁ、見えてる。そのまま引き止めとけ。≫


無事だったんだ、良かった。しかも見えてるって言った? もう捕まえるべく動いてるって事?


「流石にあれくらいじゃ潰れなかったみてェだなァ」

「……やっぱり、何かしたんですね。」

「挨拶を少しな、俺を引き止めろとでも言われたか? 」

「私に貴方を引き止めるなんて無理ですよ、でも、高杉さんが動かないのなら、それは私が引き止めた事になるのかも。」

「ククッ、良いぜ、酒に付き合ってやるよ。」

「……ありがとうございます。」


きっと分かってる、ここに人が集まろうとしている事に。出来ればこのまま帰って欲しいと思ってしまう、だって真選組の皆が怪我するのも嫌だけど、高杉さんにもお世話になった、真選組とテロリストなんだから仕方が無い事だけれど、私に取ってはただの人と人。

だけどそんなの駄目だよね、私は銀さんの傍に居たい。ここに、皆の傍に居たい。いくら恩があっても庇えない、皆の邪魔なんて絶対したくない。


「私は、銀さんの傍に居たいので、恩は感じてますし返せる時があれば恩返ししたいとも思いますが、高杉さんを庇いません。」

「あぁ、必要無ェ、欲しけりゃその内拐って行くさ。」

「……ん? 」


今の何? 何て? 会話成り立ってなかった?


……まぁ良い、取り敢えず引き止められててくれるらしいからお酒注ごう。
土方さん達も、高杉さんが何か企んでそうだってくらい分かるよね。


「わ、果実酒もあります。高杉さん果実酒飲めます? 」

「甘ェのは好きじゃ無ェ。」

「あー、そんな感じしますね、でもこれ割りと度数高めだからそうでも無いかもですよ? 」


試しに少しだけグラスに注いで渡したら受け取ってくれた


「すっごい良い香り、っ、このテーブル最高ですね。美味し、」


そしてブドウも美味しい。


「……あれ、ここってもしかしなくても、これから戦場ですかね?」

「だろうなァ」

「このお酒達とフルーツはどうなるの?」

「クククッ」


笑い事じゃないよ、吹き飛ぶ? 勿体無い。


「……場所変えて貰えませんかね。」

「俺はそもそも殺りに来たんじゃ無ェ」

「土方さ、」

≪ふざけんな緊張感の無ェ会話してんじゃねぇよ!総悟も笑ってんじゃねぇェェ!!≫


駄目か、勿体無いな。食べ物粗末にしちゃいけないのに。


≪つーかお前はいつまで飲んでんだよ!! いい加減酒から手を離せ!≫

「食べ物粗末にしたら銀さん怒りますよ。」

≪時と場合を考え、っ!?≫

「きゃぁ!?」


何今の音!? 爆発!?


「大丈夫ですか!?」


……駄目だ、完全に壊れた、ノイズしか聞こえない。
何が起きたの、


「わっ、ちょっ、と、何すんですかっ!」


イヤホンを外した瞬間にテーブルに上半身を押し付けられて、真上から不敵な笑みを浮かべ見下ろして来る。


「うっ、……っ、」


何でこの人直ぐ首舐めてくるの!? てか、これ不味いよ、


「やだ止めてっ!痕付けないで!!」

「ほぉ、他は良いのか?」

「そうじゃないですけど!!」


だけど痕なんて付けられたら大変な事になるよ、こわい事になるから!!


「待って待って高杉さん、落ち着いっ、ひぃ!? 」


着物だから足捲られ放題だ、太股から直ぐ手が入る。
落ち着け、落ち着くのは私だ。何の為の特訓、太股触られようが耳舐められようが、先ずは落ち着いて冷静になれ。
幸い手は塞がってない、押してもピクリともしないけど、顔を横向きに押さえられて執拗に耳を舐めて来てる。その頭を片手で固定しもう片手で肩を掴み、触られてない片足使って渾身の力で身体を横に押し出来た隙間で何とか抜けて距離を取った。


「っはぁ、はぁ、」

「ククッ、少しは成長したらしいなァ?」


駄目だこの人、やっぱり危ない人だ。 身の危険を感じる。

もう逃げた方が良いかな、引き止めてる意味がまだあるのかも分からない。


「は、……え、……なに、」


視界が白くなってきた、目の前に居る高杉さんが曇っていく、何これ、もしかして何かされた?

会場を見渡せば向こう側も白くなってきてる、これは私に何か起きたんじゃなくて、この会場全体が白くなってきてるんだ。煙ではない、霧?

もう自分の手も見えない、どんどん白さが濃くなっていって音も無く真っ白い空間に身を置いているようだ。


「えっ、なに、高杉さんっ?」


急に腕を引っ張られて身体が動く、さっきまで側に居たのは高杉さんだけ。ならこれは高杉さんが引いてるの? だったら振り払った方が良いの?


「わっと、壁? 」

「ここから動くな 」


やっぱり高杉さんだった。背中に壁が当たったからここはカーテンの奥って事かな、動こうにも真っ白で何も分からないし、これはどっちの戦略なのかも分からないんですけど。


「っ、」


始まった、こんな真っ白い中で怒声がする。刀がぶつかる音と銃の音、皆戦ってるんだ。


高杉さんの気配も消えて1人取り残された、けど私こんな所に突っ立ってて大丈夫かな? 何も見えないんだけど皆は見えてるの? 視界不良での自衛は中々ハードルが高い、鞘奪う処か相手の位置すら分からない。……どうしよう、しかも銃の音も聞こえるけど見えないから避けるチャレンジも出来ない、……え、この状態で私何にも出来ないの?
不味いわ、物凄く近くに来てくれたら何とか出来るかも知れないけど銃は無理だ、流れ弾とか当たるかもな。 でも心臓か脳に当たらなきゃ良いか、これは仕方無いよ運次第。

せめて的を小さくしようと座ってる事にした、足音だけに集中しよう。




それにしても、皆遠いな、固まって戦ってるのかな。こっちに人全然来ないや。


「ゎっ、」


びっくりした、近くの壁に弾当たったよね今、いつ当たるか分から無いのって怖いな。


「何処狙ってるッスか! ちゃんと確認するッス!!」

「……え、また子ちゃん?」


目の前から声と銃声が聞こえた、誰か走って来てるのは分かったけどカーテンを少し捲ってもやっぱり白くて何も見えない。


「名前」

「っ、また子ちゃん!」

「元気そうッスね」

「うん、また子ちゃんも」


やっぱりまた子ちゃんだった、銃を使いながら背中向けて話し掛けてくれてるんだと思う。


「また子ちゃん、私の事心配してくれてたって銀さんに聞いたよ、ありがとう、優しくしてくれて、ありがとうね。」

「……晋助さまの指示に従っただけッス。」

「うん、それでも私は嬉しかったから。ありがとう。」


見えないけどカーテン越しに見上げて話し掛けてたら銃の音が止み、カーテンの捲れる音の直後隣に人の気配。
頬に温もりが触れ微かに手が見えて重ねると、顔を近付けてくれたらしくゴーグルのような眼鏡を掛けてる また子ちゃんが見えた。


「凄いの掛けてるね。」

「見えないッスからね」


頬の温もりも見えた顔も直ぐに消え、また真っ白い世界。


「……気を付けてね。」

「ずっとカーテンの方向いてるッスよ」


そう言葉を残し走って遠ざかって行く足音。会えて良かった、また子ちゃんと万斉さんにもお世話になったからお礼言いたかった。簡単に会える相手じゃないし言えて良かった。


でもカーテンの方を向いてろってどうゆう意味だろう。
もう右も左も分からないから壁だけが頼り、壁に背を付ければカーテンが正面に来る。


これいつ終わるのかな、皆大丈夫だろうか。
あの眼鏡ってこの白い中でも見える為の物だよね、ならこれは高杉さん側の攻撃なんだ。だとしたら不利な戦い、こんな何も見えない状態じゃ方向感覚も分からなくなる。
あれから一度も銀さんに会ってないし、声も聞いてない。今何処に居るんだろう、心配してるだろうな。

凄い耳舐められたけど銀さん見てなかったよね? もし見られてたら絶対怒る、怒ると言うか機嫌悪くなるよ、おっかない目して見てきそう、…………隠したい、って何だこれ。


え、ちょっと何これ、何か耳に付いてるんですけど。ピアス? 私こっち来てからピアス付けて無いのに何で突然ピアスあるの? しかも片耳だけ、……舐められた方だけ……まさか付けられた? 執拗に舐めてると思ってたらこれ付けてたの? 全然気付かなかった。
しかも取れない、普通のキャッチじゃない、どうなってるのこれ!? 全然取れない、こんなの付いてたら不自然でバレる!


「わっ!? びっくりした、だ、誰っ、」

「余計な動きすんな。」


え……、誰? 直ぐ居なくなったけど、誰だっけ聞いた事ある声だった、……あ、高杉さんの所で見張りしてた人? でも何だったの? ピアス外そうと両手で奮闘してたら突然手首掴まれて下ろされた。 余計な動きって何、失礼過ぎるわ。私生きてるんだから動くし。


「っ、誰、」


誰か居る、今度は誰、この視界はいつになったら回復するの。


「視界が奪われた状態で一つでも光があれば、それは己を動かす希望になるだろうよ。それを見失えば立ってる場所も進む方向も分からなくなるからなァ、この会場において最も安全な場所だ。」

「……どうゆう意味ですか?」


特に光なんて見えない、真っ白い中から声だけが聞こえる。安全な場所教えてくれてるの? その為に高杉さんは戻って来たの?


「分から無ェか? その光がテメェだ。そのピアスには特殊な塗料を塗ってある、濡らせば赤く光る仕組みだ。何も見えないアイツらは、お前に付いてるその光を軸に動いている。」


このピアス光ってるの? だから外すなってあの人言いに来たのか。でも良く分からないな、


「……それは、高杉さんに何か利点があるんですか? 」


真選組の人達の目印になる物をわざわざ作って何がしたいの?


「光に向かうもん何だよ、何も見えねェ奴等は唯一見えるその光に向かって来る。加えてその光はお前だ、引き付けるには簡単だと思わねェか? 」


……つまり、私が囮になっていると。
ピアス付けられたの皆見てるんだ、高杉さん達はこの光に向かって来る皆を待ち伏せてるという事。


「……そんな事しなくても、貴方達は特殊な眼鏡掛けて位置把握してるんじゃ無いんですか?」

「俺は今回殺り合う為に来たんじゃ無ェからなァ、目的はつまらねェ結果になっちまって退屈してた所だ。ククッ、面白ェだろ?」


悪趣味過ぎる。


「随分歪んだ趣向ですね、そんな事聞かされて大人しく待ってる訳無いじゃないですか。」


手で耳ごとピアスを覆えば光は見えなくなる。
こっちに向かってるなら止めさせないと、視界不良でも皆なら戦える、なのに向かって来るのは、これを付けてるのが私だから。


「折角用意してやったってのに、唯一の希望をアイツから奪うつもりか?」


アイツ? 銀さんかな、気配に敏感な銀さんが例え視界悪いからってやられるなんて思えない。
無線は壊れてるし連絡は出来ない。ならこうするしか手段は無いもの、足を引っ張るなんて御免だ。


「名前!!!!!! 」


戦いの音が鳴り響く中、遠くから聞こえた叫び声に慌てて耳から手を離した。


「ククッ、お前に辿り着くのが先か、俺に斬られんのが先か、どっちだろうなァ?」


何それ、銀さんで遊んでるの?

名前叫ばれただけでも分かった、光を隠すなって事だ。皆を待ち伏せしてるんじゃない、他の誰でも無い銀さんを待ってるんだ、この真っ白い中で私を目指して進む銀さんを。なら、私も信じて待とう、そう易々と高杉さんに斬られる筈無い。


「……万斉さんも元気ですか?」

「あぁ、アイツがまだ来ねぇのがその証拠だ」

「え? ……あー、万斉さんが銀さんと戦ってるんですか。」


ピアノ線みたいなの使ってたよね、こんな見えない中でそんな物使われたら厄介だろうな。


「わっ、ちょっと何ですか!?」

「光具合が弱って来た、舐めて濡らしてやるよ。」

「え!? いや良いです!」

「ならどうする? アイツがここに来れなくなっても良いのか?」

「っ、」


卑怯だ、何でこの人こうゆう事ばっかりして来るのかな。

ここまで近いと微かに見える、両手を顔の横で壁に押さえ付けられて直ぐ目の前には顔。
座った状態だし私が足出るって分かってるからか膝で押さえられてる。こんなに力入れて押さえられたら敵う筈は無い、何か方法を考えないと。


「ぅ、……っ、」


怖い。
銀さんは、こんな風に力任せに押さえ付けたりしない。温もりを与えようとしてくれる、怖がったら止めてくれるし、安心させるように抱き締めてくれる。

こんな、無理矢理触れて来たりなんかしない。


「っも、やだ、離してっ!……やだ、……ぎ、さっ、……っ、銀さんっ!」

「クククッ、良いタイミングだなァ。」

「るっせェよ、ふざけやがって。」

「……え、……銀さ、?」


見えないけど今の銀さんの声?

目の前で風が斬れたような風圧が顔にかかる直前に、掴まれてた手首は両手とも解放された。
さっきまで居た高杉さんは居ない、横から近付いて来る足音は誰? 銀さん?


「名前」

「銀さんっ!」


銀さんだ! 頬に触れながら名前を呼んでくれる温もりも声も銀さんだ、上から手を重て自分の頬にぐっと押し付けるように握ると指で肌を擦るように撫でてくれる。


「大丈夫? 怪我は無い?」

「ねーよ。高杉、お目当てはもう逃げたぜ、テメェもさっさと逃げた方が良いんじゃねぇの。」

「あぁ、十分楽しんだしな。 じゃあな、清算は持ち越してやるよ。」

「しないです!」


何か目的があったんだ。こんな騒ぎにしてテロリストって本当に危ない人なんだな。


「皆も無事かな? 私何にも見えないんだけど銀さんは見えるの?」

「いや見えねぇな。けどアイツらも多分無事なんじゃねぇか? それよりお前怪我とか無ェの? 大丈夫だったか?」

「うん、何処も怪我無いよ。」

「そうか、触られてた所は後でたっぷり説教しながら消毒してやるからな。先ずはここを何とかしねぇとなんねぇから良く聞け、お前は今から壁に触りながらゆっくり歩いて扉を開けて来い。ここの入口覚えてんだろ? 壁沿い歩けば着く、ゆっくり歩けよ、そうすればお前は光に守られる。俺はガスの出所探すから一緒には行けねぇ、頼んだぞ?」

「……」

「は? おい聞いてんのか? 名前?」

「っ、あ、……、とびら、開ける。……え、説教ってさっき、言った?」

「言った。道間違えんじゃ無ェぞ? 間違いようが無ェけどお前は何故か間違えるからな、頼むから壁から一瞬も手を離すなよ? 良いな?」

「言ったの? 聞き間違えじゃ無くて?」

「聞き間違えじゃなくて。道も間違えんなよ。」

「道は間違えないけど聞き間違えた。行って来ます。」

「逃げられると思うなよ。」

「行って来ますっ!!!!」

「走るんじゃねぇぞー。」


たっぷり説教しながらのくだり言った時の声が低かった、あれこわいやつだよ、目見えなかったけど、こわい目の時のやつ。

だって無理矢理押さえ付けられたんだよ、頑張って抵抗もしたのに説教なの? 癒されたい、怖かったのに、これからの説教もっとこわい。


壁に触れながらゆっくり進むと最初の入口に辿り着いた、扉を開け端に立っていると段々白色が薄くなって来て向こう側はまだ見えないけれど自分の周りは見えるようになって来る。


「名前さん! っ、良かった無事だったみてェで」

「うん! 沖田くんは大丈夫?」


白い空間をじっと見てたら中から走って近付いてきた黒いシルエットは沖田くんだった。


「大丈夫でさァ、逃がしちまいやしたけどね。」


着物を脱いだらしくいつもの制服に戻ってしまってるのが残念だと頭を過ってしまったけど、無事で良かった。
あっちからの攻撃で向こうは特殊な眼鏡してたし無事だっただけで凄いよ。

続々と隊士さん達も扉から出て行って、土方さんと銀さんも遅れて走って来た。


「多分もう誰も居ねぇと思うが念の為確認する」

「二階の四つ角からアレ出てんぞ」

「総悟行けるか」

「へい。名前さん、耳の外しときなせェよ」

「うん、行ってらっしゃい気を付けね」

「行ってきやーす」


再び真っ白な部屋に戻って行った二人を見送りピアスを外そうと試みるけど、これ外し方が分からないんだよね。


「鏡無いかな、これ外し方良く分からない」

「貸してみ」


顔を上げるとカチッの耳元で音が聞こえすんなり外れた、と、思ったけど、……壊したの? 指で? 今の壊れた音なの?
銀さんの手の平にある水晶が赤く光っているピアスはリングのような留め金だったらしく、真っ二つに割れている。


「っ、……」


……何で踏んだの? 手の平から滑り落ち、床に落ちた瞬間に銀さんによって踏み潰された。粉々に粉砕されたピアス、これは探知機とかあったら困るから? それとも怒ってる? 怒りの表れなの? いや、でも、……そんなに? こんな粉々に砕き潰す程怒ってるの?


「取り敢えず会場は大丈夫そうだ、お前には話聞く事になるから着替えて待ってろよ。」

「…………ぁ、ま、待って下さい土方さん、着替え後にす「名前」…………」


これ怒ってる方だ。身体が逃げようと会場から戻って来た土方さんの方に踏み出したら、低く私を呼ぶ声が後ろから聞こえた。

何怒ってるんだろう。

身に覚えは、……まぁ無い事も無いね。


床に散らばる砕けたピアスを眺めながら、お酒とフルーツ勿体無かったなと、脳が勝手に現実逃避し始めた。







甘い記憶を呼び戻す為に



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