2月3日ですよーん。


「オヤジギャグでいいんじゃない。たまにはさ。年一度のことだし」

風呂からあがると智紀さんは電話で喋っていた。
楽しそうに笑いながら喋ってるから邪魔しないようにキッチンへと行く。
智紀さんは俺に気づいてるのか気づいてないのかわからない。
冷蔵庫から静かにミネラルウォーター取り出していたら「捺くん」って名前が聞こえてきて電話の相手がわかった。

「面白そうじゃない? 恵方巻きに見立ててさー、酢飯と海苔をアソコに巻いて、あーんって食べる」

……おい、一体何の話だ。
わかるけどわかりたくない。
っていうか頭痛くなってきた。

「引いた顔見るのも楽しいかもね。準備……は確かに間抜けかもしれないね。とりあえず捺くんたちでしてみてよ。俺はさすがにそこまで出来ないからさ」

……捺くんたちだって出来るわけないだろ。
なんだよ、それ……もう本当やだこの人。

「69? お互いの恵方巻きを食べるねぇ。無難だなー」

……捺くん、なになんの提案してんだよ。
俺いやだ、したくない。

「んー? あ、優斗戻った? ね、代ってよ。大丈夫だってそんなに変なこと言わないから」

……いや言うだろ。言う気満々だろ。
捺くん代らなくてもいいよ、って思うけど、どうやら代ったらしいことが続く言葉でわかった。

「もしもーし、優斗? ―――今日節分だよ。そして恵方巻き食べる日」

智紀さんの代りに優斗さんに心のなかで謝罪する。

「いまから食べるんだろ? ―――違うってー、捺くんの恵方巻きを」

……本当にごめんなさい、優斗さん。
きっと優斗さん困ってるだろうな。
捺くんは……下ネタ結構好きだから……この人と盛りあがれるんだろうけど。

「話まだ終わってないんだけど」

えー、という声が聞こえてきて、ああきっと優斗さんに電話切られたんだろうなってわかった。
そして電話を置いた智紀さんが―――俺のほうを見た。
にっこり、一見すれば爽やかでしかない笑みで俺を見つめて、

「ビールとってくれる?」

って言ってくる。
―――気づいてたのか。
内心少し驚きながらもやっぱりって言う気持ちもあって、「はい」って頷きながらビールをとって智紀さんのもとに向かった。
そして近づいた途端、手を引っ張られて脚の上に股がされる。

「ちーくん」
「なんですか」
「電話、聞いてた?」
「……」
「ちーくんはどんなふうに食べたい? 恵方巻き」
「……夕食に食べましたけど」
「うん。いまはこっちの恵方巻き」
「……っ。ちょ、セクハラ……っていうかオヤジすぎ」

いきなり股間を握ってくる智紀さんに顔をひきつらせれば、智紀さんは声をたてて笑いながら俺にキスしてきた。

「しょーがないよ。だって俺ちーくん食いたいもん」
「……」

もんってなんだよ、もんって。
内心悪態つきながらも妖しく動く智紀さんの指に馬鹿な俺の下半身はあっさり反応し始める。

「……ごはんで巻くとかしませんから」

俺が悔し紛れに言うと大きく吹きだして俺の首筋に顔をうずめた。

「もちろん。そんなのなくても美味しくいただきます」
「……別にそんな美味しくないですから」
「おいしいよ、千裕は」
「……」

―――ほんっとうに……この人は。
変態くさいのに、なんかズルイ。
俺は結局いつものようにため息も全部智紀さんに飲み込まれていったのだった。


【おわり】


[優捺ver]

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