君とキス。
「ちーくん、ちーくん。知ってる? 今日ってキ―――」
爽やかな笑顔を浮かべて俺の隣に座った智紀さんが俺の顔を覗き込んで楽しげに言ってきた。
だから俺はその言葉を聞き終わる前に、
「……」
キスした。
ほんの数秒だけ触れて離れる。
珍しく呆気にとられてる智紀さんに口元が緩んだ。
「キスの日。でしょう? 知ってますよ」
いつもいつもこういうネタ的な日があると絡まれて、おねだりしてみろとかなにかとしつこい。
なら先手必勝。
言われる前にしてしまえばいい。
この人のペースに巻き込まれる前にとっとと終わらせればいいんだ。
してやったり、と笑いたいところを平然装って飲みかけの麦茶を飲む。
と、横から抱き寄せられた。
「まさかちーくんからキスしてもらえるなんて」
「キスの日、ですから。それくらい別に―――」
「かわいいなあ、ちーくん。今日俺に言われるだろうと思って心の準備して待ってたんだ? いつ智紀さんキスの日って言ってくるかなーなんて考えながら言われたらすぐキスしようって用意してたんだ?」
「……」
「ドキドキしながら待ってたなんて、かわいいなぁ。ちーくん」
「……」
にこにこと笑っている智紀さんに、俺は思いっきり顔をしかめた。
「……智紀さんってめげませんよね」
「俺がめげる要因がどこに? 千裕が俺とキスするタイミング伺っていたのは事実だろ?」
にや、と口角をあげる様に、俺は盛大にため息をついた。
しなけりゃしろと迫られ、先手ですればしつこく攻められ。
「智紀さん」
「なにー?」
「うざい」
ぶっちゃけ、くそ、と内心呟きながら言えばにやにやしてる智紀さんに頬へとキスされた。
「ちーくんからのキスが嬉しかったーってことだよ」
「あーそうですか」
「そうでーす」
このひとにひと泡吹かせる、なんて所詮俺には無理なことなのか?
でもいつか―――って考えてたら視界が反転した。
「なんですか」
「キスの日、なんだから。キスいっぱいしよう? 千裕」
からかいはなりを潜めて、あまったるく誘いをかけてくる智紀さんに俺は仕方なさ気にため息をついて―――目を閉じたのだった。
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