2月3日といえば?
「ちょっ、智紀さんっマジそれオヤジギャグだからっ!」
風呂からあがると捺くんが電話で喋っている。
どうやら智紀とらしい。
ソファの上で寝転がってお腹をかかえて笑ってる。
俺が戻ってきたことには気づいてないみたいで、会話中に喋りかけるのもなんだしキッチンにいってビールを取り出した。
ビールを飲みながらキッチン越しに捺くんを見る。
「いやいや、それ千裕くんそれドン引きするって! は? 俺? やだよー、そんな変態くさいの! エロっつーか変態じゃん」
捺くんと智紀は性格的に少し似ているところがあるような気がする。
たまに電話で喋ってるときはすごく盛りあがってるし。
内容はくだらない下ネタなんだろうけど。
「ベタなのもくだんねーオヤジギャグだけどさー、それはちょっとあり得ないよー。だって準備どうすんの。準備してどーやってパンツ履くんだよ、智紀さん」
楽しそうに捺くんは声を立てて笑ってる。
一体どんな下ネタ話をしているのか。ふたりは高度すぎて俺には予想がつかない。
「えー! 言いだしっぺがしなきゃ意味ねーじゃん! 俺やだよー! え? 優斗さん? だめだめ! そんなことさせられないって。はぁ?」
呆れたように言いながらも笑いつづけてる。
ビールをごくごくと一気に飲み干して、もう一本取り出すとリビングへと向かう。
「いやいやそのプランは絶対やめておいたほうがいいって! 歯立てられるよきっと! 無難にさー69とかすればいいんじゃない?」
「……」
本当になんの話をしてるんだろう。
ため息をつきながら捺くんの足元に腰を下ろした。
ハッとしたように捺くんが俺を見て顔をほころばせると座りなおして俺にもたれかかってくる。
「智紀さん、もう切るね。―――そう、そうだよ。え? やだよ。どうせロクなこと言わないだろ」
ぶつぶつ言いながら捺くんは電話を俺の耳にあててきた。
―――代らなくていいのに。
内心思いながら電話にでる。
『もしもーし、優斗?』
「なに?」
『今日節分だよ。そして恵方巻き食べる日』
「知ってる」
『いまから食べるんだろ?』
「いやもう食べたけど」
『違うってー、捺くんの恵方巻きを〜』
「……」
ふたりがずっと喋っていたのはこのことか、と気づき、本当にくだらなすぎて捺くんには悪いけどため息が出た。
「じゃあ、切るね」
『話まだ終わってないんだけど』
「智紀、あまり千裕くんに変なこと強要すると見限られるよ。気をつけて。じゃ」
『えー優…』
まだ喋る声が聞こえてきたけど、いつものことだから電話を切る。
ため息をついて電話の子機を傍らに置けば、捺くんからの視線を感じた。
目をあわせたら興味深々そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「智紀さんなんだって?」
「捺くんのが詳しく知ってるんじゃないの?」
髪を撫でながら言えば「まぁねー」って苦笑する。
「捺くん」
「なに?」
ぱっちり二重の目をしばたたかせる捺くんをソファの上に押し倒した。
きょとんとしたあと顔を輝かせる捺くん。
「優斗さん、あの、あれ? 食べちゃう?」
「……」
ため息が出そうになって寸前で飲み込んだ。
―――俺の恵方巻きとか、意味は理解できるけど、本当にオヤジギャグ過ぎるんだけど。
「……食べる、けど」
「けど?」
不思議そうな捺くんの唇を塞いで咥内を蹂躙した。
捺くんは舌を絡めようとしてくるけど、あえて絡めずに俺のしたいように咥内を犯す。
ときおり漏れる聞こえる甘い吐息に煽られてじっくり捺くんを味わった。
「……っは……ぁ」
糸引くくらいのキスを終えると捺くんは顔を真っ赤にさせて潤んだ目で俺を見つめる。
「……どうしたの?」
なんかすっげぇ激しい気がするんだけど。今日日曜日だよ?
いつもなら平日前はセーブするかららしくないってことなんだろう。
怪訝に訊いてくる捺くんにのしかかって耳朶を甘噛みした。
「捺くんが俺よりも智紀と楽しそうに喋ってるからヤキモチ」
耳元で囁きながらシャツの中に手を差し込むと捺くんは身体を震わせ、
「えっ、まじで」
なんて嬉しそうな声をだしてくる。
「まじで、だよ」
心が狭いってわかっていても、単なる下ネタトークしてただけってわかっていても、妬いてしまうものは妬いてしまう。
「捺くん、なんで喜んでるの」
「喜んでない!」
「喜んでる―――から、お仕置き」
もう一度耳朶を甘噛みすれば、熱っぽい吐息を吐きながら、「うん」と素直に頷いてくるから―――。
俺もふっと笑って捺くんの首筋に顔を埋めた。
【おわり】
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智ちーver]
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