変魂-へんたま- | ナノ

『私と斉藤と髪の毛とほにゃらら』


――ぐぅ〜……


……お腹空いた。シャッシャッと落ち葉を集めるホウキの動きを止め、溜め息をつく。さすがに限界が近づいてきた。そろそろ朝食を食べに行かないと、お腹が空きすぎて気持ち悪くなる。お腹を擦ると、再びお腹が鳴った。「食べてこよ」と小さく呟く。そして、木に持っていたホウキを立てかけ、食堂へと向かった。




 ***




食堂に行くと、先程より人が混んでいた。空いている席を見つけ、受付カウンターに居る食堂のおばちゃんの元へ歩み寄る。



「あら冬ちゃん、さっきぶり。卵焼きと目玉焼き、どっちが良い?」
「んー…、じゃあ卵焼きで」
「はい、ちょっと待っててね」



おばちゃんは笑顔でそう言い、厨房の中へ入って行った。待ってる間なにもすることがないのでボーッとしていると、髪の毛が微かに動いた。現在髪の毛は結っていない為、風で髪の毛がなびいたのだろう。……と思っていたのだけれど、



「わぁ〜、髪の毛サラサラ」



後ろから声が聞こえた。浪川さんボイスの人物は、あのバナナしかいない。髪の毛を褒められたことは嬉しいけれど、どう反応すれば良いのか困る。……素直に驚いた反応を見せれば良かっただろうか。



「あ、枝毛! ちゃんとケアしてますか!?」
「え、いや、ケアというケアはしてないけど……」
「なんですと……!?」



グイッ、と髪の毛を引っ張られた。驚きと痛みで「うおっ」と声に出してしまう。ちょ、痛い痛い痛い。「斉藤痛い」と正直に言うと、「あ、すみません」と素直に私の髪の毛を放してくれた。その時、厨房の中にいたおばちゃんが此方まで歩いてきた。手には二人分の朝食を持って。私は慌てて「有難う御座います」と言いながら自分の分を受け取る。



「斉藤君も卵焼きで良かったかしら?」
「はい。ありがとう、おばちゃん」



ニッコリスマイルで自分の分を受け取る斉藤。そして、私へと視線を変えた。再びニッコリスマイル。「一緒に食べましょー?」とのんびりと可愛く語尾を伸ばす斉藤に、私の胸は何故だかキュンキュンしてしまう。私は「良いよ」と返事をする。すると、斉藤は「行きましょ」と言って先を歩いて行く。私は慌てて、おばちゃんに「じゃ、いただきますね」と言った後、斉藤を追いかけた。



「いただきます」
「いただきまーす」



空いている席に座り、手を合わせて言う私。目の前に座っている斉藤も、私同様手を合わせて言った。



「そういえば天女様、」
「”冬さん”もしくは”冬ちゃん”とお呼び」
「じゃあ冬さん、今日は髪の毛結ってないんですね」
「あー、色々とな」



斉藤の言葉に適当に返事をし、卵焼きを口に入れる。口をもぐもぐと動かし、ゴクンと卵焼きを飲みこむ。他の女性より髪の毛短いから、邪魔にはならないだろうと思ってな。でもま、若干邪魔にはなってるけど。そう言い、味噌汁を手に取り飲む。
ふと、斉藤がジッと私を見ていることに気づいた。とりあえず、味噌汁を机の上に置く。「どうした?」と聞くと、気まずそうに目線を泳がした。



「冬さんの髪の毛が短いのって、失恋して髪の毛を切ってしまったからなんですか……?」



斉藤の言葉に、何故斉藤が気まずそうにしたのか理由が分かった。私はフッと笑みを零し、斉藤を見る。



「確かに私も髪の毛長いときはあったけど、失恋はしてないよ」
「じゃあ何故?」
「んー…、邪魔だったから切ったんよ。短いほうが楽だし」
「せっかくサラサラしてるのに、勿体無い……」
「気が向いたら伸ばすよ、きっと」



そう言う私の言葉に、「本当ですか?」と疑う斉藤。自信と確信がない為、ゴホンッ、と咳払いをして目線を斜め下に落とす。私の様子に、斉藤はムスーッとした。



「でも冬さん、髪の毛おろしてたほうが可愛いですね」
「マジで? でも三郎に”違和感ある”とか言われそう」
「そんなことないですよ。鉢屋くんも褒めてくれますって」



のほほんとしながら微笑む斉藤に癒されつつも、頭では三郎の姿が浮かんでいる。「違和感ありすぎ。調子狂うからいつもの髪型にしろよ」と生意気なことを言う三郎。……伊作だったら絶対褒めてくれるもの! 「似合いますよ」って可愛く言ってくれるもの! 三郎の馬鹿野郎! その後、私はしばらくムスッとしていた。



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