変魂-へんたま- | ナノ

『いけいけどんどんにムギュッ! っておいコラ』


――…この世界に来て、一週間ほど過ぎた。たくさんの人に監視され続けてきた。一日目は伊作、二日目は三郎、三日目は食満。四日目は竹谷、五日目は久々知、六日目は中在家、七日目は尾浜。そして、今日の監視役は…――、



「今日は私が監視役だ! 天女様、宜しくな!」
「おいコイツ自分から監視役って言ったぞ」



そう、今日の監視役は暴君で知れ渡っている七松小平太。果たして私は生き延びることができるだろうか。この男にバレーボール代わりにされて地面にめり込んだまま死にはしないだろうか。



「まあまあ、細かいことは気にするな!」



いや無理でしょ。全然細かくねえし重要だし。
溜め息をつきたくなる衝動を堪え、「まあ良いや」と呟く。それにしても、今日の訪問者は珍しい。伊作と三郎は暇な時があれば毎日私の元へ訪れてくれる。しかし、いつもと違い、今日は食満も来ている。



「天女様は人気なんだなー! もう伊作達を手駒にしたのか!」
「うるさっ。何なのコイツ」
「確かに天女様は可愛いもんな!」
「ちょ、声のボリューム下げてお願い」
「なんだ照れてるのか? なははっ! 可愛いお人だ!」



こんなにも会話のキャッチボールが豪快にできない奴は初めてだ。頭をガシガシと掻いて、眉間に皺を寄せる。後ろで事の成り行きを見ている三郎が、「冬さん、マトモに相手をしたら疲れるぞ」と言ってきた。確かにその通りかもしれない。呆れている時だった――…、



――ムニッ
「おお! 天女様、見た目によらず胸が結構あるんだな!」



七松に胸を鷲掴みにされた。は? マジで何なのコイツ。



「っ!? こ、小平太、何してんの!?」
「ウワァ……」



後ろで伊作達が驚いているのが分かる。この男、私に恥をかかせやがった。許さない。絶対に許さない。銀さんにも触られたことないのにっ……!



――ムニッ
「あ、ほんとだー。結構胸あるんだなー、オホホホホ」



お返しに私も七松の胸を鷲掴みにしてやった。意外とちょっと膨らんでいる。私のしたことに、七松は目を丸くして驚いている。伊作達の反応は此処からじゃ見えないけれど、きっと驚いているだろう。



「人様の胸を容易く触るたァ、いただけねえな」
「いだっ! いだだだだっ! 爪喰い込んでる!」
「私まだ好きな人にすら胸触られてねえんだけど? それを何故お前に触られなきゃなんないの? え?」
「ちょ、タンマ! 爪結構喰い込んでるから!」
「知るかボケ。お前の痛みより私の心の痛みの方が辛いんだぞ」



ぬぐぐぐぐ、と更に力を入れる。七松は「いだいいだいいだい!」と叫び、やっと私の胸から手を離した。それを合図に、私も七松の胸から手を離す。
「こ、小平太、もう二度とやらないようにね?」と苦笑する伊作に、「うん、そうする……」と涙目の七松。フン、私の胸を易々と触るからそうなるのだ。爪をたてられた胸を擦る七松を横目で見て、三郎の隣に胡坐で座る。



「ほい、どら焼き」
「ん、ありがと」



三郎から皿に出されているうちのひとつのどら焼きを受け取る。一口かじって食べる。うん、美味しい。



「あれ? 食満はどら焼き食べないの?」
「え? た、食べても良かったんですか……?」
「当たり前じゃん。伊作も三郎も食べてるんだし」
「えっと、では、いただきます」
「はい、どうぞ」



どら焼きを手に取り、口に含む食満。その顔には笑顔が浮かび、美味しそうにどら焼きを食べている。うんうん、良かった。そういえば食満、監視の日から少し穏やかになった気がする。監視の日は、あんなにピリピリしていたのに。
ふと、「良いなァ、どら焼き」と七松がそんなことを呟いた。私はどら焼きを食べるのをやめ、七松に顔を向ける。



「……食べたい?」
「食べたい!」
「そういえば残りひとつだもんなー」
「それを私にくれ!」
「うん、良いよ」



私は残りひとつのどら焼きを手に取り、掌に乗せる。そして…――、



「パイオツの恨みじゃボケェェェイ!」
グシャァッ!
「ぐぼふッ……!」



思いっきりに七松の顔面へどら焼きを叩きつけてやった。どら焼きは形を崩し、中身のあんこが大量に出てきてしまっている。七松はいきなりの事に対処できず、後方に倒れてしまった。「な、ななな何やってんですかァァア!」と伊作が声を上げる。



「パイオツ、すなわち胸の恨みだ」
「やりすぎです! さっき小平太の胸に爪喰い込ませてたじゃないですか!」
「馬鹿野郎、パイオツもろ触られてんだぞ。銀さんにも触られたことない私のパイオツが」
「ああ、冬さんの好きな人って銀さんだもんな」



呑気に納得する三郎。そんな三郎に、伊作がすかさず「納得してる場合か!」とツッコミを入れる。さすが伊作、ツッコミをマスターしてやがる。新八ィ、お前のツッコミ王の座は私が守ってやるからな……!



18/96

しおりを挟む
戻るTOP


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -