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『三人目の天女は色気の無い女』


あの三人目の天女、どうも引っかかる。
何故俺達に媚びない? 何故俺が口説こうとすると引いた顔をする? 何故俺を遠ざけようとする? 考えれば考えるほど疑問が出てきて頭が爆発しそうだ。伊作が言っていた通り、今回の天女は至って普通の女なのだろうか。天女では無い天女、もしくは、本物の天女。どちらにせよ、今は監視が必要だ。



「しんベヱ、喜三太、三人目の天女様ってどういう人なの?」
「んー、凄く面白い人、かな?」
「忍術学園には居ないような人なの!」



桶の修理をする手を止めることなく、平太達の会話を聞く。隣で同じように作業している作兵衛も、平太達の会話が気になるようだ。でも、喜三太やしんベヱの言葉からでは、良い情報は得られない。「ちゃんとした性格はまだ分からないけど、多分良い人だよ!」とニッコリ笑顔でそう言うしんベヱ。
うーん……、やはり出会って間もない内はまだ分からないか。




 ***




委員会が終わり、各自解散した。俺は、三人目の天女の部屋へと足を進める。俺がいない間に変な事をしてなければ良いんだが……。「天女様! 只今戻りました!」と障子をそれなりに勢いよく開け、部屋の中を見る。だが、三人目の天女は何処にも居ない。おいおい、マジかよ。



「……ん?」



ふと、部屋の隅の方で何かが動いたのが見えた。そちらへと目を向けると、かけ布団にくるまって寝ている三人目の天女が居た。顔以外は布団で隠れてしまっており、顔は壁の方へと向いている。……なんだ、脅かしやがって。ただ寝てるだけじゃないか。「はあ」とため息をつき、額に手を当てる。あー…、少し頭が痛くなってきた。



「――…留三郎、どうしたの?」



誰かに突然言われたその言葉。しかし、声で伊作だということが分かる。伊作が居るであろう場所へ目を向けると、伊作だけではなく鉢屋三郎もいた。



「あれ? 冬さん寝てるんだ」
「やること無さすぎて寝ちゃったんでしょうね」



部屋の中を見て、そう言う伊作と鉢屋。二人の表情は笑っている。伊作はともかく、鉢屋はいつの間に仲良くなったんだ。昨日の朝までは普通だった気がする。まさか本当に術をかけられて……。そんなことを考えている間に、伊作と鉢屋はいつの間にか部屋の中に入ってくつろいでいた。



「なあ、ちょっと良いか?」



部屋に入りながら、俺はそう言う。伊作と鉢屋はその言葉に、俺に視線を向ける。



「ずっと天女の監視をしてたんだけどよ、”委員会がある”って言ったら天女に”行け”って言われたんだ。今までの天女は”行かないで”って言ってたのに。……お前等、何でか分かるか?」
「きっと冬さんは、作兵衛達のことを考えてくれたんじゃないかな?」
「……作兵衛達の?」
「用具委員会って留三郎が抜けたら下級生だけになるだろう? だから、負担にならないように留三郎を委員会に行かせたんじゃないかな?」



……、そんな、馬鹿な。そんな事あるはずがない。今までの天女は、俺達上級生が近くに居てチヤホヤされればソレで良かった女達だ。今回の天女も、そうに決まってる。俺達がおかしいんじゃない、天女がおかしいんだ。



「食満先輩、冬さんは今までの天女と違いますよ」



鉢屋の言葉に、俺は鉢屋へ目を向ける。驚くことに、鉢屋の目は俺を鋭く睨んでいた。



「アイツのこと、ちゃんと見てあげてくれませんか。そうすれば、きっと先輩のアイツの良さに気づきます」
「……俺は、あの女にそんな魅力があるとは思えん」
「それがあるんですよ、内面的な意味で」



かつて、鉢屋にここまで言わせる女がいただろうか。俺が思いつく限りではいない、気がする。チラッ、と天女を見る。寝ている顔は見えないが、寝言で「んー、銀さーん……」と言っている。「色気」の「い」の字も無い姿。確かに、外面的な魅力は無いが……。



「あ、そろそろ冬さんの夕食取りに行かなきゃいけない時間じゃない?」
「ああ、そうだったな。じゃ、行ってくる」
「うん」
「いってらっしゃーい」



もしかしたら、信じてみる価値はあるかも……。



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