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『恥ずかしがり屋先生と、とある本』


「散歩っていっても、そこら辺歩くだけなのか?」
「図書室で本とか借りたいところだけど、貸出カード作ってもらってないし」
「何か借りたい本があるんですか?」
「うん。異世界に行ける方法がのってる本」
「んな本ないだろー」
「分かんないじゃん」



廊下を歩きながら会話をする私達三人。今は授業中である為、人は全く居ない。警戒すべき人達が居ないということで、少し心が軽くなる。私の言葉に、伊作が「貸出カードが無いなら、僕のを使ってください」と言ってくれた。



「僕が借りるなら、図書委員も文句は無いでしょうし」
「わあ、助かる。ありがとう」
「どういたしまして」
「善法寺先輩、甘やかしちゃ駄目ですよ」
「私はガキか」



会話をしながらしばらく歩いていると、”図書室”と表記された板が見えた。どうやら私の部屋からあまり遠くないところに図書室があるらしい。「図書館では喋らず静かにな」と三郎に言われ、「心得た」と返事をする。そして、三郎を先頭に図書室に入る。授業中である為、図書室には人が居る気配は無い。つまり、あの図書室の番人である恐ろしい中在家長次はいないということだ。



「あれ? 松千代先生、いらっしゃったんですか」



……どうやら人は居たらしい。しかも驚くことに、恥ずかしがり屋の松千代万先生。……そういえば、松千代先生は図書委員会の顧問だったな。「っわわ! 善法寺伊作君!? は、恥ずかしい……!」と、真っ赤な顔を両手で隠し、机の下に隠れてしまう松千代先生。その姿は正に「頭隠して尻隠さず」だ。本当にこういう隠れ方なんだな。



「えっと、君はまさか、天女様?」



松千代先生は机の中から様子を伺うように私を見る。「天女様か?」という言葉に、私はなんと答えたら良いか戸惑う。その時、私の隣にいる三郎が代わりに口を開いた。



「皆はそう言いますけど、実際天女と呼べる程の女じゃありませんよ」
「何だと貴様」
「ほらね」
「えーっと? 御名前は……?」
「あ、神田冬紀と申します。”冬さん”もしくは”冬ちゃん”とお呼びください」



「うふ」と笑うと、三郎に「気持ち悪い」と言われた。何なんだコイツ、出会って一日も経ってないのに酷くね? 私の扱いだいぶ酷くね馴れ馴れしくね?
三郎を睨んでいると、探すより図書委員会顧問の松千代先生に聞いたほうが早いと思ったのだろう、「”異世界に飛べる本ってあります?」と恐る恐る聞く伊作。松千代先生は伊作の言葉に「異世界に飛べる本?」と呟いた。そして、「うーん……」と頭を捻る。あるんだろ!? あると言ってくれ、松千代先生!



「あ、そういえば、そんな感じの本があったような……」



キタァァァアア!
密かにガッツポーズをする私。松千代先生は「多分こっちに」と言い、机から出て本棚の方へと歩き出した。私達は松千代先生に着いていく。一番隅の一番奥にある古びた本を「これかな?」と言いながら手に取る松千代先生。松千代先生の後ろから、三人でその本を覗く。しかし、この時代の文字は私には読めない。



「これは、異世界に通ずる道、と読むんです」
「ほーう」



眉間に皺を寄せて首を傾げていると、伊作がそう言った。どうやら私にこの時代の文字が読めないことに気づいたらしい。ほんと伊作優しい。



「内容は異世界に行く方法が載ってるから」
「有難う御座います」
「僕の貸出カードで借りても良いですか?」
「勿論」



松千代先生から本を受け取る。伊作は、貸出カードを松千代先生に渡す。「早速部屋に戻って試してみよ」と言うと、三郎が「すぐにやんの?」と面倒くさそうに言った。ったりめーよ。古びた本を、改めて見る。少し埃がかぶっていて、白紙が少し黄ばんでいる。文字は全く読めないけど。



「松千代先生、本当に有難う御座いました」
「はっ、恥ずかしい……!」



深々と頭を下げると、松千代先生は再び顔を真っ赤になった顔を両手で隠してしゃがみ込んだ。私は思わず「ははっ」と笑ってしまう。そんなこんなで、私達は図書室を後にした…――



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