変魂-へんたま- | ナノ

『何もない部屋の中でする事など無い』


あー、駄目だ。外に出たい。外に出てかわゆい動物達と戯れたい。川で魚を鷲掴みにして「獲ったどォオオ!」って言いたい。女の子達を眺めてニヤニヤしたい。とにかく、私が何を言いたいかというと…――、



「暇」



一日中部屋の中で何をしろというんだ。この部屋にはスマホと銀魂の単行本しかないというのに。スマホはインターネットには繋がるが、コレといってやりたいことは無い。銀魂を読み返すにしても、先週読み返したから気が引ける。何もすることが無いので、ゴロゴロと寝転がる。あー、暇だー。



「こればっかりは僕達にも何もできませんから、我慢してくださいね」
「無理だよぉーう。我慢できねぇよぉーう」
「んー、何か遊べるものさえあれば……」



顎に手をあて「うーん、うーん……」と考える伊作。「お前は不破雷蔵か」と言いたいけど、私の為に悩んでくれているから言えない。
伊作優しいなー、モテるんだろうなー。でも不運だからなー……。南無。神様どうか伊作をモテるようにしてあげてください。やっぱ外に出ちゃ駄目だよねー…。外に出てはいけない。それは分かってるんだけど、胸がムズムズしてて気持ち悪い。あー、外に出たい。



「ふー、読んだ読んだ。冬さん、続きある?」



項垂れていると、三郎が背伸びをしながらそう聞いてきた。人が苦しんでいる時に、なんて呑気な。とりあえず、銀魂十巻を三郎に渡す。三郎は読むのが早いようで、既に九巻まで読んでしまったのだ。と、その時、部屋の障子が開いた。驚いて其方を見ると、ヘムヘムが二足で立っていた。



「ヘム! ヘムヘム!」
「え、何、なんだって?」
「冬さん良かったですね! 部屋から出ても良い許可が出ましたよ!」
「マジでかァア!」



ああ、なんと喜ばしいことだろうか。先程の黒く渦巻いた感情が消え去って行く。それと入れ替わるかのように、スゥーッと清々しい気持ちが芽生えてきた。
「よっしゃ!」と言って立ち上がる。そして、障子へ手をかけて部屋から出る。ワオ、景色が綺麗ー……。目の前にある庭は木や草がたくさん育っており、大きな池は太陽の光でキラキラしている。イイネ! この和な感じイイネ!



「ヘムヘムありがとう! 記念に肉球触らせて」
「ヘムゥ!?」



シュバッ、としゃがみ込んでヘムヘムの肉球をプニプニと触る。
た、たまらぬ……! この肉球、いつまでも触っていたいくらいだ……! 今ならヅラの気持ちが痛い程分かる……、くぅう……!



「冬さん、せっかくですから散歩しませんか?」
「良いの?」
「はい。僕と監視役の鉢屋が居れば大丈夫だと思います」
「うん。じゃあ、そうしよ。三郎、行くよ」
「えー、私まだ読んでるのに」
「読み始めたばっかだから良いでしょ」



私がそう言うと、三郎はムスッとした表情で「仕方ないな」と立ち上がった。それを見た伊作も、微笑みながら立ち上がる。三郎もなんだかんだ言って優しい。「ヘムヘムもどう?」と聞くけれど、「ヘム」と私では分からない返答が返ってきた。



「学園長先生の所に戻らなきゃいけないらしいぞ」
「ぬ、残念だな」
「まあ、仕方ないですよ」



私が口を尖らせると、ヘムヘムは苦笑した。そして、私達に手を振って行ってしまった。ヘムヘム賢すぎる。欲しいな。……あ、駄目だ、太陽熱い溶ける死んじゃう。



13/96

しおりを挟む
戻るTOP


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -