変魂-へんたま- | ナノ

『さあ、のんびりしてる場合じゃなくってよ』


「――いやあ、本当ありがとねえ」



眉をハの字にし、でも「はっはっはっ」と笑いながら言う私。しかし、目の前には顔や腕などに猫の引っ掻き傷がついている伊作達の姿。私だけ無傷。



「一人だけ隅に行ってたくせに」
「ドヤ」



無事、野良猫を外に追い出すことができた。しかし、あの野良猫は結構凶暴で……、捕まえようとすると爪で引っ掻いてきやがったのだ。ずっと隅に居た私は無事だが。それにしても、あの野良猫は何故私の部屋の中で暴れまわっていたのだろう。ただイタズラしたかっただけだろうけれど。



「あの、天女様の御名前伺っても良いですか……?」



控えめに聞いたくるのは、多分皆本金吾だろう。



「ああ、うん。名前は神田冬紀。”冬さん”もしくは”冬ちゃん”と呼んでくださいまし」



そう言って、軽く頭を下げる。すると、何故か一年は組から拍手が起きた。何故。内心戸惑っていると、一年は組が一斉に手を挙げた。そして全員同時に話しだすものだから「お願い一人ずつ喋って」と言うと、ピタリ、と口を開くのをやめる一年は組。すると、一年は組の学級委員長である庄左ヱ門が少し手を挙げて口を開いた。



「冬さんは、前の天女様と同じように僕達の事を知っているんですか?」
「うん、知ってるよ。大好きだからね」



次に伊助。



「今までの天女様みたいに術を使わないんですか?」
「一般人だから術なんて使えないんだよ」



次に金吾。



「でも、天女様なんですよね?」
「チッチッチッ。天女様ではなく死神様です」



次にしんベヱ。



「ええっ!? 死神!? ってことは、冬さんは僕達を殺すんですか!?」
「っいや冗談ですゥゥウ! 普通の人間ですゥゥウ! 死んだのは事実だけど!」



次に喜三太。



「し、死んだ……!? もしかして幽霊!?」
「んー、多分それも違うかな。足もあるし体も透けてないし」



次に乱太郎。



「じゃあ、冬さんは何者なんですか?」
「うーん、自分でも分からんなァ……」



次に団蔵。



「自分の事なのに? だっせー」
「おいコラ、初対面に向かってなんだその口のきき方は」



次に三治郎。



「冬さんって好きな人いるんですか?」
「え、聞いちゃう? それ聞いちゃう? どうしよっかな〜、教えよっかな〜?」



ニヤニヤとわざと勿体ぶっていると、虎若、兵太夫、きり丸の三人が失礼なことを言ってきた。



「いいから早く言ってくださいよ」
「勿体ぶったところで時間の無駄ですよ」
「でも聞いたところで得しないよな」
「何コイツ等失礼なんですけど」



忍たまの夢主って下級生からは「お姉ちゃんみたい」って愛されるものじゃないの? 私なんでこんな暴言吐かれてんの? なんで8歳も年下のガキ共に貶されてんの? もしかして私は夢主じゃなくて始末される天女様なの? なんか滅茶苦茶なんですけどォォオオオ!



「どうしたんですか天女サマ? あ、見た目からしても死神サマか。てへっ」
「こんのクソガキィィイ! 泣かすぞコノヤロー!」
「ギャァァア! 冬さん落ち着いてェェエ!」



きり丸の言葉を聞き立ち上がった瞬間、伊作に体を抑えられてしまった。
おい夢小説によく居る可愛いきり丸はどこにいった。私の前だと可愛いきり丸も憎たらしいガキになるのかアァン?



「で、冬さんの好きな男って誰なんだ? 私、結構興味あるんだけど」



マジで。三郎の言葉に、私は姿勢を正す。そして、ゴホンッ、とわざとらしく咳払いをする。顔は恥ずかしいので少し俯かせる。私の好きな人は……、



「さ、坂田銀時、ですっ」
「「「え、誰」」」



コイツ等、恥ずかしい思いで言った名前に「誰」と即答しがやった。しかし、三郎は思い当たる節があるようで「あ、まさか」と声に出した。それにより、皆の視線が三郎へと行く。「坂田銀時って、この本の主人公か?」と言って持ってきたのは、三郎が読んでいた銀魂の一巻。私はそれを見て「うん」と頷く。



「え、でも、本の登場人物ですよね?」
「愛にそんなこと関係ないのよ。それに、本の登場人物である伊作達が存在してるんだから、銀さんも存在してるはず!」



私の言葉に、三郎が溜め息をついた。ギッ、と睨むと「ハッ」と鼻で笑われた。



「こんな良い男が目の前に居るっていうのに、他の男に目移りたァね」
「だって三郎を良い男とは思ってないし」
「え、マジで? ちょ、本気で? 私結構モテるんだけど?」
「銀さん以上に良い男がどこに居るってんだ」



私がそう言うと、三郎が明らかに傷ついた顔で庄左ヱ門に泣きついた。庄左ヱ門は「よしよし」と三郎の頭を優しく撫でて宥めようとする。お前等、年齢逆のほうが良かったんじゃないか。
「皆は好きな女の子いないの?」と、ふとした疑問を口に出すと、きり丸が「出会いがねえからなー……」と溜め息をついた。お前精神年齢いくつだよ。



「くのたまの子達とかいるじゃん」
「ええ!? くのたま!? 絶対有り得ない!」
「なんでよ、団蔵? 可愛い子たくさんいるのに」
「くのたまはイタズラばっかするんですよ? とても好きになれません」



乱太郎の言葉に、「うんうん」と頷く一同。「嫌よ嫌よも好きのうち」ということわざを知らないのかコイツ等。本当は気づいてないだけで好きなんだろ? そうなんだろ? そう思っていると、「でも僕はおシゲちゃんがいまーす!」と元気良く手を挙げて言うしんベヱ。ああ、そっか。しんベヱにはおシゲちゃんがいたな。



「おシゲちゃんは家庭的で良いよなァ」
「はい! いっつも鼻水をチーンしてくれるんですぅ〜!」
「うん、お似合いだよ。将来良い夫婦になりそうだ」
「えへへ。夫婦はまだ早いですよ〜」



照れ笑いをするしんベヱが可愛らしく、私は頭を優しく撫でる。



「しんベヱの結婚より冬さんの結婚の方が先じゃないですか?」
「でもアレが結婚できると思うか?」
「え、何? ぶっ殺されたいの?」



兵太夫の言葉に、私は再びキレそうになる。さっきから何故かツンツンしてくるんだけど。しんベヱはあんなに素直で可愛いというのに……! 隣で伊作が「まあまあ」と苦笑しながら私を宥める。



「そういえば授業の方は良いのかい? 僕は今日授業が無いからここに居るけど」
「ちなみに私は監視役である為授業は無し」
「「「あーっ! しまったーっ!」」」



一年は組は一斉にそう大声を上げると、バタバタと部屋を出て行ってしまった。しかし、庄左ヱ門だけは「失礼しました!」と礼儀正しく頭を下げて部屋を出て行った。さすが一年は組の学級委員長!



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