変魂-へんたま- | ナノ

『信じてみたいと思ったのは、きっといつもの勘のおかげ』


「なあ、聞いたか?」
「んー? 何をー?」



放課後。私、きり丸、しんベヱは庭で日向ぼっこをしている。眠りかけている中、きり丸が何かを思い出したかのように「あっ」と声に出した。そして、先程のようなことを聞いてきたのだ。



「三人目の天女様、伊作先輩を手駒したらしいぜ」
「え……?」
「嘘!? 伊作先輩が……!?」



きり丸の言葉に頭を何かで殴られた感覚がする。
あの伊作先輩が、天女様に手駒にされた? 誰よりも心優しく、兄のような存在である伊作先輩が?
「乱太郎、大丈夫?」と、しんベヱに顔を覗き込まれる。その表情は、心配そうな不安そうな顔をしている。自分の眉間に皺が寄っているのが分かる。目の前は歪んでいて、しっかりと見ることができない。涙を堪えようと下唇を力強く噛む。



「ど、しよ……」
「乱太郎……」
「な、泣くなよ……」
「伊作先輩、このまま委員会に来てくれなくなったら、どうしよぉっ……!」



膝を抱えて涙を流す。
一人目の天女様の時は、上級生が天女様の術にかかり全委員会が起動しなくなった。その術とは「好きなキャラに恋愛対象として好かれる」というもの。気づけば天女様は、いつの間にか消えていた。
二人目の天女様の時も、一人目の天女様と似たような状況だった。しかし、前回の事もあって上級生は警戒心を忘れなかった。それによって被害は減ったが、下級生が天女様に暴力を振るわれることが多くなった。この天女様も、気づけばいつの間にか消えていた。
ああ、恐い。三人目の天女様は一体どのような事をしてくるのだろう。また、私達の先輩を奪われるのだろうか。



「見に、行ってみないか……?」



きり丸の言葉に私は顔を上げてきり丸を見る。しんベヱも「え?」と声に出し、きり丸を見た。



「俺達の目で、しっかりと天女様の姿を見るんだ。そしたら、警戒できるだろ?」
「で、でも、見つかっちゃうんじゃ……?」
「その時は思いっきり逃げるんだ」
「なんか、面白そう!」
「し、しんベヱまで! 駄目だよ、怒られちゃうよ!?」
「だからって、このままジッとしてても始まんないだろ?」
「僕達の手で、なんとかしよ!」



二人が真剣な表情で私を見る。本当に良いのかな……。見つかって怒られて、術でもかけられたりしないかな……。……でも、確かにジッとしていられない。
――…うん、行こう。
私はそう言って、立ち上がる。二人も「よっしゃ!」と言って立ち上がった。




 ***




天女様の部屋の前へ行くと、私達三人以外の一年は組が集合していた。きり丸としんベヱと顔を見合わせ、首を傾げる。
「皆どうしたの?」と声をかけると、「天女様の部屋が騒がしいから、様子を見に来たんだ」と代表して庄ちゃんが答えてくれた。言われてみれば、確かに騒がしい。何人もの焦った声が聞こえる。庄ちゃんの言葉に、私達は天女様の部屋をそっと覗く。



「あああああ! そっち! そっち行った!」
「くっそ! 捕まんねえ!」
「うわ、コッチ来た! ぎゃふっ!」



伊作先輩と鉢屋三郎先輩、天女様と思われる女の人。……そして、野良猫。
部屋の中は野良猫の泥だらけの足跡がたくさんついていて汚い。女の人は隅で本らしきものを何冊も抱えて丸まっている。伊作先輩と鉢屋先輩は野良猫を捕まえようとしているらしい。
ちなみに、伊作先輩は先程野良猫から猫パンチを食らった。



「よもや死神であるこの私が、こんな愚弄を受けようとは……。しかし! この銀魂全巻は死守してみせる!」
「冬さん死神じゃないでしょう! そんな隅で丸まってないで猫追い出すの手伝ってください!」
「愚か者ォ! 銀魂を汚されたら私の人生終わったも同然なんだよ!」
「つか何でこの野良猫外に出ないんだ!? 何で部屋の中で暴れてんだ!?」



……え、あの女の人、本当に天女様なの?
伊作先輩も鉢屋先輩も術をかけられている様子は見受けられない。寧ろ本当の自分を保った上で女の人と一緒に居るように見える。なら、”伊作先輩が天女様の術にかかった”という話は嘘ってことに……?



「あの人が天女様、なんだよね?」
「そうなんだけど、前の天女様とは違うよね〜」
「だよなー。前は明らかに猫撫で声っていうの分かったし」
「上級生の前では可愛くしてたし」
「でも、今回の天女様は普通っぽいね」



しんベヱ、喜三太、虎若、伊助、三治郎が話している。どうしてかな。今回の天女様がいつもと違うって思ってから、なんだか天女様と話してみたくなってきた。けど、二人目の天女様に暴力を振るわれたときのことが蘇る。



「――あの、僕達も手伝いましょうか?」



気づけば、庄ちゃんが部屋の中に少し入って天女様達の声をかけていた。私達は驚いて「庄ちゃん!?」と声を揃えて言う。天女様達は庄ちゃんの声に、私達に目を向ける。



「え、何あの可愛い集団。一年は組か。ちっさいな」
「何デレデレしてるんだよ、気持ち悪い」
「小さい子供は愛でる対象なんだよ。大きい子供はお呼びじゃねえ、伊作を置いて帰りやがれ」
「贔屓かアンタ!」
「この二人は無視して良いからね。一年は組全員が手伝ってくれるなら心強いよ。お願いしても良いかな?」



「文句あんのかアァン?」「やんのかゴラ」と睨み合っている天女様と鉢屋先輩。伊作先輩はそれを見て苦笑した後、私達に顔を向けて微笑んだ。天女様が来たというのに、その光景は天女様が居ない時の雰囲気と同じ。皆で騒いで馬鹿やって喧嘩して、でも心の底から楽しんでいる時の雰囲気だ。答えなんて既に出てる。私達一年は組は顔を見合わせ、頷く。そして、伊作先輩に顔を向けて満面の笑みを見せる。



「「「――はいっ!」」」



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