短編 | ナノ


・このネタから


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「…もう本当、嫌になっちゃう」

 やれやれとため息をついたソフィアに同意してエースはこくりと頷いた。絡んできた海賊からこの人を守らなきゃならない。それが、今日のエースの仕事だ。いくらナース長とはいえ、目の前の男たちに彼女が勝てるとは思えない。

「ねえさん、下がって」

「なんでよ。エースこそ、これ持って下がってなさい」

 ひょい、と手にした荷物を押し付けられて、ただでさえ両手に荷物を抱えていたエースは危ういバランスをどうにか支えた。
 ねえさん、と静止の声を上げたが、彼女は全く聞く耳を持たない。それどころか、まあちょっと見てなさいよ、と綺麗に微笑んでみせた。

「ねぇ、エース。隊長格には実力と地位の上下はないって知ってるでしょう?」

 ふわりと吹いた風に長い黒髪が揺れる。彼女が一歩を踏み出せば、ピンヒールがかつりと音を立てた。

「隊長ではなく、わざわざ隊長「格」というからにはそれ相応の意味がある」

 その言葉の真意がつかめなくて、エースは首を傾げた。それは、目の前の海賊たちも同じこと。
 ソフィアはそれを気にした様子もなくマイペースに言葉を続ける。

「「格」とは同等の地位を持つ者。つまり隊長格とは白ひげ海賊団において小隊を統べる立場にある人間のこと」

 何の前触れもなく、たっ、と地面を蹴ったソフィアの蹴りが鮮やかに決まる。大男が吹っ飛ぶほどの威力に、エースは目を疑った。その華奢で美しい脚のどこにそんな力があるのか、彼女は次々に男たちを蹴りで沈めていく。そうかと思えば、細腕で相手を投げ飛ばして見せるのだから、足技だけではないらしい。
 エースが言葉もなく見ている間に、ソフィアはあっさりと海賊たちを全滅させてしまった。

「私、ナース達を統べる立場にあるの」

「う、うん。ナース長、だもんな」

 最後に倒したリーダーらしい男を踏みつけながら、ソフィアはそう言った。さらり、と乱れた黒髪をかきあげて、彼女は魅力的な美しい笑みをうかべると、真っ赤な唇を開く。

「だから、私も隊長「格」の一人なのよ」

 よく覚えておいてね、という彼女がとても恐ろしく思えて、エースは反射的に頷いていた。そういえば、みんなが口を揃えて『ソフィアには逆らうな』と言っていたのを思い出す。
 隊長格には実力の上下がないなんて言うけど、もしかしたらこの人が一番強いのかもしれない、と思ったエースは間違っていないはずだ。

隊長「格」という言葉


 ナースが弱いなんて誰が言ったの?



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