・なぜかサッチ視点
・お兄ちゃんたちは末っ子が可愛くて仕方がない。
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「エース、手紙だよい」
マルコに手渡された手紙を受け取って、訝しげに見ていたエースが、宛名を確認した途端に目を見開く。どうしてか慌てたように封を切ったその顔は、嬉しさを堪えきれないのか、少しにやけていた。
「なんだ、女からかよ」
「違う。あ、でも恋人からだ」
…なるほど、男か。からかってみたところ、思わぬ返しにちょっとびっくりだ。まあ、海賊には良くあることだけど。照れくさそうに頬をかくエースは、文面を辿って嬉しそうに目を細めた。
「なにニヤけてんだよい」
「だってフィン、会いに来るって!」
うわ嬉しい、と子供みたいな笑顔を浮かべたエースに、思わずマルコと顔を見合わせる。どうやら、その『フィン』というのは相当大切な相手らしい。
どんな奴なんだ、とからかってやろうと思ったけど、エースはオヤジに許可とってくる!と言い残して行ってしまったから、諦めるしかなさそうだ。しかし、まあ。
「あーんなに可愛い顔しちゃって」
「よっぽど、その『フィン』ってのが好きなんだろうよい」
ま、いい事じゃねぇか、とマルコが中々おっさんっぽいことを言う。俺も同じ事考えてたから指摘しねぇけど。
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「フィン!」
「エース!!」
会いたかった! と大きな声をあげたエースを抱きとめた男は中々の美丈夫だった。加えて、エースが愛おしいと全力で主張するような優しげな笑みを浮かべている。なるほど、そりゃ惚れるわけだ。
「エース、元気そうでよかった」
「フィンもな。でも、どうしたんだよ急に」
「お前に会いたくて」
ちょうど近くにいたし、と照れ隠しのように口にした男は、フィンという名前の旅の商人らしい。立ち寄った島で運命的な恋をした、なんてエースが話していた。まあ、海賊の恋人になるくらいだから、ただの男じゃねぇんだろうけど。
「そっか。あ、オヤジにお前のこと紹介してぇんだ。だから、こっち!」
「ああ。俺も挨拶しねぇと。他の奴らも後で紹介してくれよ」
ちらり、と向けられた視線に軽く手をあげて答えておく。ま、なんにせよエースが楽しそうで何よりだ。
エースは人を見る目があるから、フィンはきっといい奴なんだろう。もしかしたら、オヤジが船に乗れなんて言い出すかもしれない。それはそれで面白いからいいけど。
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「あと、ここで最後」
甲板でフィンを歓迎するための宴の準備をしていたら、エースがフィンを連れて来た。船の案内でもしてたのか。
「おう、エース。宴の準備してるとこだから中行ってろよ」
まさか客に手伝わせるわけにもいかない。だったら二人で仲良くしてろ、なんて意味を含ませた言葉にエースは首を振った。願ったり叶ったりだろうに、どうしたってんだよ。
「だってフィンが…」
「そう照れるなよ、だってエースが前よりいい顔してるから、気になったんだ」
エースは拗ねたみてぇに口を引き結んでるけど、あれは照れてる時の顔だ。対してフィンは楽しそうに笑ってる。
一体何の話だよ。気になったって何が。そんな疑問が顔に出ていたのか、フィンは悪りぃと手をあげてから、答えをくれた。
「エースに頼んだんだよ。『お前が愛したものを見せて欲しい』って」
好きな奴らが一緒だから、前より幸せそうなんだと思ってさ、とフィンは平然と口にしてみせる。
『愛したものを見せてほしい』なんて言われて、クルーの集まる甲板に連れてきたのかよ、エース。しかも、ここで最後ってことは船内の奴らにも会ってきたってことじゃねぇか。うわ、こっちまで照れる。
「いやこれは、ちがっ……く、ねぇ、けど」
エースは慌てたように言い訳を口にしようとして失敗した。なんだよもう、末っ子が可愛い。
そこにフィンがにやにやと笑って追い打ちをかけた。
「しかも、こいつ『鏡見るところから始めろ』とか言い出したから可愛すぎる。天使かよ。よし、ちゅーしてやろう」
「余計なこと言うなフィンのバカ!」
顔を真っ赤にさせて怒るエースを引き寄せたフィンが、その頬にちゅ、と音を立てて口付ける。正直言って、ご馳走様って感じだ。
でも、まあ、幸せそうでなにより。
君が愛した人
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