可視恋線。

先行きの見えない濃霧警報

<俺と先輩の仁義なき戦争>




「選定考査の採点方式は通常とは異なる訳だ。うっすら知ってんだろうが、もっかい頭に叩き込んどけ」

今にも寝そうな顔をしてる物凄い男前が、今にも寝そうな声で呟いた。うーちゃんもかわちゃんも真っ青で今にも死にそう。羽柴は平気そうに見えるけど、やっぱり何処か緊張感があった。

「基本9教科、数学だけが200点の計1000点。これに加えて特別進学科・特別特殊科は四教科、普通科以下総合学部は二教科、選択科目受験が必須だぜ」
「つまりS・Fクラスだけ四教科、それ以外は二教科っしょ(・∀・)」

朱雀先輩と喧嘩してたオレンジ色の髪の毛の派手な先輩が、超カッコ可愛い顔で覗き込んでくる。コクコク何とか頷けば、オッケーって言いながらウィンクが飛んできた。

何かもう俺、妊娠しそう。どの角度から見てもイケメン。

「でもそれじゃあ、もし皆が満点だったら俺達不利じゃないですか?どんな頑張ったって1200点しか貰えないし…」

思った疑問を口にしたら羽柴が顔を向けてきたけど、その前に黒烏龍茶飲んでた緑色の先輩が、長い指を振りながらチチチと舌を鳴らした。

「チチチ、チッチキチー。甘ぇぜ」
「チッチキチー?」
「良いかよ、まず基本教科の総合点が重要だ。殆どこれで決まる。但し、同点の生徒が複数居た場合に、選択科目の平均点が決め手になる訳だ…あー、説明すんの面倒臭いぜ」
「ユーヤ、オメー確実にタイヨウ君から息の根止められんぞ?((((;´・ω・`)))」
「ケンゴ、オレまだ死にたくないぜ」

震える先輩方が手を取り合い、その後ろ、今や息をしてないんじゃないかってくらい顔色が悪い赤い髪の毛の先輩は、紅蓮の君とは違って髪が短かった。

「単純に考えりゃ、Sの奴らは基本教科以外に四つも他の勉強やんなきゃなんねー訳だわ(*゚∀゚*) 例えばオメーとSクラスの奴が全部の教科で一問ずつ間違えたらどうなると思う?」
「え?え?えっと…それって…どうなるんですか?」
「はー…( ノД`) 教科が、多い分、Sクラスの奴よりオメーのが総合点が上に見なされる。平均点が一緒でもな?」
「そうなんですか…?え、同じ点なのに?」
「そ。つまり、何にせよSクラスはテストじゃ贔屓して貰えねーの。もし同点同平均点の普通科がSクラス生徒と30位タイだった場合、昇格するのは普通科で、30位の進学科は降格wだからSクラスは基本的に30人しか居ない。基本的には(・∀・)」

オレンジ先輩と同じくらい背が高い赤い先輩は手作りの豚汁を鍋ごと持ってきてくれて、見た目はどう見ても不良さんだけど、優しい先輩みたい。ちっとも喋らないけど。ずっとブクブク泡吹いてるけど。

「あ、あのぅ、先輩様…?」
「あ、シロップか?(´Д`) コイツは学年39番だったからよ、タイヨウ君から何されるか判んねぇっしょ。馬鹿が移るからあんま構うなw」

39番で馬鹿ですか。
緊張と恐怖で死にそうなかわちゃんと目があって、居たたまれなくなった。だったら俺達、何なんだ。オタンコナス?それ以下?

「先輩様は何位だったんですか?」
「狙い通り朱雀と一緒w(・∀・)」
「え?狙いって…」
「賭けてたのw此処のユーヤが負けて、オメーのカテキョやってるのwざまぁ(//∀//)」

良く判んない。
にまにましてるオレンジ先輩が胸元のシャツをパタパタさせて、ちらっとタトゥーみたいなのが見えた。海外の芸能人みたい。ヤーさんなタトゥーは怖いけど、お洒落だなぁ。

「オレンジ先輩、モデルさんみたいですねっ」
「オwレwンwジw先w輩?(・∀・) 何だそれ、超受けるwおまw」
「す!すみません!お名前まだあの、その、」
「俺コーヤ、こっちユーヤ(・∀・)」

二人合わせてイケメンワンコ!
と、ビシッとポーズを取ったオレンジ先輩の腕が黒烏龍茶先輩の首に巻き付いて、ぽくっと死にそうになってる。ケラケラ笑うオレンジ先輩は悪びれてない。やっぱり恐ろしい。
それにしてもどっちがコーヤでどっちがユーヤだっけ、紛らわし!名前が紛らわし!

「あー…羽柴、だったか?面倒だぜ。プリント作ったからよ、これ見てメニョ………松原に教えてやれ」

今メニョって言った。
何処から見ても光王子様と並ぶほどイケメンな黒烏龍茶先輩が、メニョって言った。俺と目が合うとちょっと恥ずかしそうにボリボリ頭を掻いて、テーブルに伏せてニョロニョロ動いてるオレンジ先輩の頭を殴る。色男の照れ隠しきゅん。

「ふぅ。俺ちょっと萌えが判ってきたようーちゃん、イケメンって尊いね…」
「まっつん、変な扉開かないの。まっつんには朱雀の君が居るでしょ?この上、藤倉先輩も上乗せするつもり?血を見るよ」
「だって、ほんとイケメンだよ。俺の理想そのものなんだもん、うーちゃん」
「オレと朱雀は従兄弟だぜ」

先輩の手書きプリントを眺めて難しい顔をしてる羽柴を横目に、瞬いた。いとこ。いとこって、従兄弟?

「えー?!すっ、朱雀先輩の従兄弟なんですか?!え?だって名前が違う!」
「あー、オレの母親と朱雀の母親が姉妹だった、だから生まれも育ちも違う。…ま、どっちも死んだがな」

朱雀先輩のお母さんが亡くなってるのは何となく知ってたけど、藤倉先輩のお母さんも亡くなってるのか。じゃあ藤倉先輩もお父さんしか居ないのかな。あ、でも、

「藤倉先輩には紅蓮の君が居るから、寂しくないですねっ」

俺って奴は、死ななきゃ治らないみたい。
思った事を深く考えずに吐き出して、藤倉先輩の眉が寄るのを見て固まった。山田先輩がいつか紅蓮の君はカルマのお母さんなんだって言ってたけど、俺が知ったかぶりしたら不味い。絶対不味い。

「ああああの、すいませ、」
「ユウさんは余所の奥さんになっちまったもん(´・ω・`) 今カルマのおかっつぁんは、奴だぞぇ、奴。神帝陛下」
「説教長ぇユウさんよりマシだぜ。総長に母親は無理だからな、オレら犬はおカイさんで我慢するぜ」

ちっとも意味は判らないけど、ふってクールに笑う藤倉先輩はイケメンだった。豚汁ガブガブ飲んでる凄い食欲のオレンジ先輩もイケメンだった。格好良いのに可愛い、罪深いイケメンスキル。

「松原、少し良いか」
「何?」
「藤倉さんからお前に…これなんだが」

羽柴がプリントをくれたんだけど、何で難しい顔をしてるのかやっと判った。字が読めない。物凄い汚い。字が。俺も人の事言えないけど、これはちょっと酷い。

「あちゃー…」
「ん?どうしたよ、メニョ…ゴホン、後輩(//∀//)」

オレンジ先輩、わざとらしく間違えましたね?この先輩あざとい。あざといけど許せる。
カツアゲされたらお財布に入ってる200円貢いでも良い。

「うーん。えっと、コーヤ先輩、これ読めます?」
「おう、時系列順の江戸〜東京の要所だろィ?(´Д`) これがどうしたっしょ?覚えんの難しいかぇ?」

どうやらオレンジ先輩は読めるみたいだ。
羽柴と顔を見合わせてどうしたものかと腕を組むと、深い溜息を溢した赤い髪の毛の先輩が近付いてきた。

「…ユーヤさんの字が汚すぎて読めないんだよ、この子。何これ、象形文字?カルメニアは読めてもおれ、書けって言われても書けないよ」
「あんだとシロップ!ああ?!テメーバッキャロー、ユーヤの字が読めないだとゴルァ!修行が足んねーんだよタコ!・*・:≡( ε:)」
「痛い!ちょ、ケンゴさんっ、痛い!」

笑いながらシロップ先輩を絞めてるケンゴ先輩から目を逸らし、優しい勇者の冥福を祈る。俺からプリントを奪った藤倉先輩は渋い顔で、何処が読めねーの、と呟いた。
全部です、全部。とても言えないけど。

「あは。何やってんの、ユーヤ」
「重いぜハヤト」

図書館に入ってくるのは見えてたけど気付かない振りをしてたら、藤倉先輩の背中にゴスッと乗った星河の君がにんまり笑いながら、投げキッスしてくる。

「にーはお、あほ朱雀のオナペット」
「オナ…?」
「あは。間違えた、性奴?」
「せーど?」

笑顔で投げキッスの軌道から逸れたら、晴れやかな笑顔攻撃を受けました。やだ怖い。俺カルマで一番この人が苦手。垂れ目で優しそうだけど騙されませんよ、足遅いけどもう逃げ出したい。

「あは。俺カルマで一番この人が苦手、とか、思ってるよねえ?」
「ひぃ!ななな何でっ、それをっ」
「あのねえ、思ってても顔に出しちゃいけないのー。弱味はあ、簡単に見せんなあ、ばーか」
「う…は、はい…」
「高がチワワ共に泣かされてんじゃないわよ。お前、隼人君とあんな奴らどっちが怖いわけ?え?」

何で女言葉なんだろ、って考えて、にまにましてる星河の君を見た。ぱちぱち瞬いて、意味を考える。
オレンジ先輩が星河の君の上に飛び乗って、藤倉先輩はまた死にかけてます。ゴツッてテーブルに顔を打ち付けて、動かない。…息してるのかな、あれ。

ん?いびき?

「せ、星河の君の方が、怖いです…」
「んだとー、このチェリーボーイめー。つーか、明らかに朱雀の方が悪人面だろーがー」
「あ、確かに…」

確かに朱雀先輩の巻き舌は、物凄く怖い。
あれに比べたら、さっきの苛めなんて可愛い、かも。うん、前に朱雀先輩に担がれて屋上に連れてかれた時の恐怖に比べたら、俄然しょぼい。
申し訳ないけど山田先輩の恐怖政治の前には全てがしょぼい。

「お、俺!本当は山田先輩が一番怖いです!」
「だよねえ。よいよい。次からは餓鬼共に泣かされてんじゃないわよー」
「はい…」
「それでも泣きそうになったらあ、隼人君にチクるってゆったらあ?」

ペッとコーヤ先輩を投げ落とし、長い足で藤倉先輩の隣に座った星河の君が、耳を小指でほじりながら言った。チクってどうするのか。

「おーよ!苛められたらこの優しい高野先輩がやっつけてやんぜw(`・ω・´)d」

あんまりあっさり言われたから反応出来なかったけど、シロップ先輩を倒したコーヤ先輩も勢い良く右手を上げて、ビシッと親指を立てたから、俺はへにょって眉を下げた。

「隼人君はねえ、神崎隼人様ってお名前があるんだからあ、常に初詣で参る気持ちで崇める様に隼人様と呼びなさいねえ」
「良し俺が許すから馬鹿ハヤトって呼ぶっしょ(*´ω` )」

テーブルの下でかわちゃんが俺の手を掴んだ。うん、判ったよ。馬鹿な俺でも判った。

「…有難うございます」

俺は認められたんだ。
何だか良く判んないけど多分、遠野会長の試練って奴を乗り越えたんだ、多分きっと。じゃなかったら山田先輩が直々に助けてくれるなんて、考えられない。だって俺は、役員でも進学科でもない一般生なんだ。左席副会長が贔屓なんかする筈がない。

「なに、泣くの?よっわ。この子泣くの?やめてよねえ、隼人君が泣かせたみたいじゃないかー、苛めんぞこらー」
「ハヤト、初めて出来た可愛い後輩にどうしたら良いか判んなくてテンパってんのキモい(´Д`) 今日から他人って事で宜しく(・ω・ ) 」
「黙れ猿、てめーとは死ぬまで他人だボケナス」

壮絶な喧嘩に発展した隼人様先輩と、コーヤ先輩が、司書室から出てきたポッチャリな図書委員の人からお饅頭を投げ付けられて、ほのぼの笑顔で「煩いよぉ」と叱られた。
ひぃ!あの人にもSバッジが!あわあわ、静かにしなきゃ。

「あれぇ、シロ君、後輩のぉ勉強見てあげてるのぉ?偉いねぇ」
「安部河、おれAクラスだしただの馬鹿だから無理だよ。集合しないと山つんからシバかれるの」
「あぁ〜、さっき放送してたねぇ。じゃあじゃあお茶と御菓子用意するからぁ、ごゆっくり〜。はいはい、はっくん、ぉ手伝いしてねぇ。ケンちゃんと喧嘩する暇があるならぁ、出来るよねぇ?」
「あは。さっちん、隼人君はちょっと用事を思い出して…は、はい、喜んでお手伝いします。ちょー暇でした、あは、あは」

ズルズル引きずられてく隼人様を見てたら、のほほん笑顔の安部河先輩の方が怖かった。謎が深まる。

「良し、今から自習だ。頑張れ松原、オレは寝る。ぐー」

読めないプリントでどうしろと。藤倉先輩の男前な寝顔を眺めて涙目になってると、図書館が凄まじい悲鳴で包まれた。

主にかわちゃんとコーヤ先輩の。


「やァ、桜餅。みたらし団子の匂いに呼ばれてきた」
「ボスー!うっうっ、さっちんが隼人君を苛めるにょー」
「ぅふふ。俊君、御菓子が欲しければ松原君のぉ手伝ぃしてねぇ?」

拝啓、朱雀先輩。
近寄るなと言われた左席会長が裸眼でだから今日もやっぱりイケメンで、帝君の羽柴でさえ声も出ないくらい恐縮しちゃって、かわちゃんなんかキャーキャー騒いで泣いてるし、うーちゃんも写メ撮ってるし、会長のみたらし団子だけボーリングの玉くらい大きいし、



「…起きろ裕也、勉強の時間だ」


会長のエッロい声で飛び起きた真っ赤な顔の藤倉先輩がヒロナリさんだって知らなくて、ごめんなさい。敬具。


うわーん!


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