可視恋線。

腐った企みはエルニーニョの中央で

<俺と先輩の仁義なき戦争>




「く…くくく…」

がりがりと真っ白な紙に筆を走らせる男が見える。
冷え渡る漆黒の双眸を爛々と光らせ、この世のどの文字とも該当しない不思議な文字を延々と書き連ねながら、くつくつ、怪しげな笑みは絶えず。

『ふぁ…あっ、やぁん、せんぱぁい、おっぱい噛んじゃらめぇ…っ』
『んん…くちゅ…んんっ、あむっ。ふぁん。やだぁ、また大きくなった…!もう口に入らないよぅ』
『あっ、や、ぁ、…はぁ。待って、やっぱり怖いから…もっかいチューしてぇ』
『あ…っ、また赤くなった。すっごい綺麗。俺、先輩の目、大好き』

唯一の光源である巨大な液晶に鼻血が飛ぶ。
素早くティッシュを引き抜いた男は鼻を拭い、再びがりがりと紙に文字を走らせた。


「くく…。時は満ちた。平凡な子供と、己が欲に忠実に生きてきた子供。くくく…九九、801。


 …そう、不良×平凡。」



ぴたり。
筆を止めた男は誰も居ない薄暗い部屋の中、恐ろしい威圧感を讃える眼差しを歪め、唇を吊り上げる。


「これぞ虎豆アルティメットの掟!王道不良攻め!くぇーっくぇっくぇ!じゅるり。あ、涎が止まらないなりん…。
 みーちゃん、ナイスジョブ!ちょっとシカトすればやってくれると信じておりましたわょー!よもやスゥたんにお薬を投与するとわ!
 くぇーっくぇっくぇっ!待っててちょ、神経衰弱はまた今度しましょ!冬コミ明け辺りにねー!ハスハス」

しゅばっと立ち上がり、珍妙な笑い声を響かせる変態…彼こそ腐男子、遠野俊その人だった。

部屋中を書き殴った紙片やらBL漫画やらやらで埋め、額には虎豆アルティメットと刺繍を施した鉢巻きを巻き、打倒冬コミに燃えている。


然しまだ10月に入ったばかりだった。


「くっくっく…これでスゥたんが颯爽と俺を倒し、名実共にカルマの総長にまで伸し上がれば…敵は居ないも同然!山なし落ちなし意味なし敵なし!やおい!最強のやおい!ハァハァ!

 最強不良×平凡!

 ハァハァ、今度こそ…!今度こそ失敗は許されないにょ!
 十年以上懸かって仕込んできたのにタイヨーは平凡主人公どころかドSご主人公様になってしまった!

 ミッションはいつでもインポッシブル!

 油断大敵火事タイヨー!ハァハァ、今度こそ…っ、今度こそ俺は!王道不良攻めが見たい!俺様不良が欲しい!ヘタレじゃない俺様が!ワンコじゃない不良が!俺様に攻められてガタブルしちゃう受けにハァハァしたい!!!
 ハァハァハァハァハァハァ、あっ、もうハァハァしてました!何せ生まれつき腐男子ですから!ハァハァ…じゅるり」

熱い魂の叫びを聞く者は居ない。
彼はその萌えに対してのみ頗る働く頭脳を以て、瑪瑙が朱雀の足に引っ掛かった瞬間から企んできたのだ。
最近では迸る萌えパワーで動画編集ソフトもマスターし、アニメ業界からオファーが来ている。因みに山田太陽から村瀬×川田の編集の依頼も来ている。

遠野俊、やはり今年も忙しい腐男子だった。

「白燕のオジサマめ、この俺を出し抜こうとは片腹痛いなり!腐男子の眼鏡からは逃げられないにょ!メニョたんハァハァ、可愛いにょメニョたんハァハァ、喘いでるメニョたんを録音録画…ハァハァ…テスト勉強なんかやってる暇はないにょ!魂が!魂が求めています!人様のホモを!!!ハァハァ、ハァハァ!あ、ティッシュが足りないにょ」

途中、朱雀父の悪戯で瑪瑙が行方不明になったりもしたが、失踪から一時間もしない内に居場所は把握していた。
腐男子に腐可能はない。腐男子だけに。

「くくく、ふふ腐…くぇーっくぇっくぇっ。いざ!スゥたん!さァ俺を倒し帝君となった暁には、カルマの新しき総長として荒ぶる皇帝となり、ビシバシ攻めてくれ!

 今度こそ!二葉先生みたいな外見騙しのヘタレではなく!ピナタみたいな実は溺愛攻めの要素は忘れずに、メニョたんを攻めるがイイ!!!ハァハァ!
 メニョたんの可愛さでスゥたんの登校拒否は華麗に回避しました!有難うございます!ハァハァ、平凡受けは罪!可愛い平凡受けは愛!ハァハァ、川田きゅんもイイけどメニョたんもね!!!ハスハス。

 そしてたまに俺を汚いものを見る目で蔑んでくれたら…俺はー!満足だー!!!ハァハァ、ハァハァハァハァハァハァげほっごほっ、ぷはん!じゅるりらじゅるり」

山田太陽はドSを極めすぎ、今や放置しかしてくれない。たまに鞭でビシバシ攻めてくれても、それからの放置が長かった。何せ極めすぎたドS、奴には優しさなどないのだ。

「あっあっ、どうしましょ、涎が止まらないにょ。脱水症状で干からびる前にコーラZERO飲まなきゃ…ゴクゴクゴク、ぷはん、ゲフ」

ドMを放置するとどうなるか、たまには下剋上、待っていろご主人公様。腐った元主人公のクーデターに眼鏡を曇らせるがイイ。

『あっ、あぁっ、はっ、は…っ、ん!』
「あっ、今のとこもっかい巻き戻しましょ。ハァハァ、メニョたんの恥じらい顔萌えぇえええ!!!スゥたんの攻め顔萌えぇえええ!!!」

山田太陽の視力は極めて平凡な1.0だ。ゲーマーの癖に裸眼。曇る眼鏡など持っていない。
然しながらリモコンを握り締め、巻き戻したり鼻血を吹いたり慌ただしい腐男子には、山田太陽が眼鏡を掛けていない事などどうでも良かった。

今はただ、度重なる試練にめげず、今や鼻の下を伸ばして瑪瑙の全身を舐め回す朱雀に感涙しか覚えない。
その度重なる試練を企てたのは自分だが、そんな事は二の次だ。萌えて萌えて心臓が危ない。自分でも変態だと思うがオートマチック涎が止まらない。


「ふ、ふふ腐…選定考査が楽しみだねィ、スゥたん」

テラ萌える革命。
大河朱雀×松原瑪瑙と叶二葉×山田太陽でとことん腐り果てた脳味噌、悔いはない。果てしなく独り言が止まらないが気にしたら負けだ、心が砕けてしまう。

「くぇーっくぇっくぇ、ヘタレチキン腐男子に勝てないようじゃ、まだまだだょ。俺様攻めの道はとっても険しいにょ!
 作戦はガンガン征こうぜ!俺をプチっと潰しに来るがイイわ!!!このままじゃ僕だけ悪人ざますわょー!!!ぐすん。
 くぇーっくぇっくぇ!
 くぇーっくぇっくぇ!!!!!げほっごほっ。そしてあわよくば!スゥたんとお友達になってLINEのIDとか日記とか交換したいにょ!
 僕ってば、そろそろ普通の友達が欲しいにょ!ワンコでもドSでもないっ、普通のフレンズが!目指せ☆腐レンズ百人!あっ、スゥたんが腐ったら困るにょ。…もうカイちゃんみたいな失敗は出来ないにょ、僕が困るだけですけども」
「俊、夕飯の時間だ。今夜は唐揚げフィーバーらしいぞ」
「あ、はァい。カイちゃん、ご飯ですよ持ってく?多分今夜のおかずは唐揚げだけなりん、大雑把な母ちゃんの事だから」

マイペースな腐男子は迎えに来たマイペースな銀髪の手に海苔の佃煮を渡し、コーラゼロを片手に部屋を後にした。


「いかん、コンソメポテチを忘れていた」
「やだん、うす塩も忘れないでちょーだいな」

選定考査は目の前だ。


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