可視恋線。

秋雨前線が爆弾低気圧を呼びました

<俺と先輩の仁義なき戦争>




「わ〜、こっちはまた違う種類のハムの詰め合わせだ。朱雀先輩、はい、タグ。えーっと、クロタケさん」
「クロタケ?…ああ、玄武翁か」
「こっちは何か薬みたいなのがぎっしり入ってるよ。えーっと、エックス、ロック…グラハム?さん」
「エックスジャパンだと?日本最高峰の英雄じゃねぇか、そんな馬鹿な事があるか………ルーク=グレアム、ロックじゃねぇ、こらルークだまめこ」

俺のお尻の上に頭を乗せてる朱雀先輩に、荷物を一つ一つ開けて中身を確かめてる俺、松原瑪瑙15歳。テスト二日目を終えて開放的な気分の俺とは違って、進学科と同じテストカリキュラムの朱雀先輩は明日までテストがある。

「それはクローゼットに入れとけ」
「ルーク?あ、こんな名前のチョコあったかも」
「食いたいなら祭に持って来させろ」
「もう、すぐに人をコキ使おうとするんだから。いーよ、欲しい時は自分で買うし」

ぱらぱら教科書を捲ってる先輩はやる気みたいだよ。昨日、俺が先輩を泣かせちゃった所為で結局エッチが出来なくて、それから煩悩を祓う為に勉強を始めちゃったんだ。
今日テストが終わって久し振りに父ちゃんから掛かってきた電話で、朱雀先輩と替われって言われて、長い話をしてたんだけど。何か途中から演歌の話になってたんだけど。

最終的に、学生の内は勉強を疎かにしなければ、ある程度は目を瞑る、って事らしい。
父ちゃんを『兄者』って呼んでる朱雀先輩は神妙に頷いて、避妊はしますって呟いた。どんなに頑張っても俺、赤ちゃん産めません。

何はともあれ、いつの間にやらうちの父ちゃんと先輩のお父さんの間で、卒業したら俺が嫁ぐ的な約束が交わされてたんだけど。
ミーハー母ちゃんは朱雀先輩に落ちちゃってて、玉の輿だしイケメンだし断る理由が見当たらんわ寧ろ私が嫁ぎたいくらい、とか何とか言ってるらしい。

大人びてる次男の黒曜以外は反対してないって。…理由はどっちがウェディングドレス着るのか悩むから、らしいよ。
兄ちゃん複雑だよコー。反対されたらされたで悩むと思うけど…。

「マーナオ、これはワインだ。子供に酒はいけない、ハニートラップに引っ掛かる」
「あ、お酒はリー先輩にあげます。ジエさんと飲んで下さい」
「まめこ、李はまだ19歳だ。俺に寄越せ」
「駄目!かわちゃんにバレたら叱られちゃうよ!先輩はまだ16歳でしょ?」
「17だっつの」

だから仕方なく部屋中の荷物を開封する事にしたんだけど、先輩は中身に興味がないから好きなものをくれるって言ってくれて、昨日は食べ物を中心に山程部屋に持って帰ったら、かわちゃんが物凄く喜んでたよ。

「そう言えば…朱雀先輩って誕生日いつなの?血液型は?」
「あ?言ってなかったか?5月5日、AB型だ。まめこは大晦日のO型だろ」
「へー、子供の日じゃんか。え?てか何で俺の誕生日知ってるの?ストーカーだから?」

リー先輩が『それは愛ゆえに』ってボソッと呟いたけど、朱雀先輩は黙秘権を行使した。ま、良いけどね。梅雨前の俺だったら怒ってるけどね。

「んーと、子供の日って星座だと何座?」
「知らん」
「かわちゃんが5月28日で何だっけ…双子座?だった気がする。一緒かな?」

高級ハムとか缶詰のセットに目を輝かせたかわちゃんから、荷物が片付くまで朱雀先輩の部屋に住み込んでも良いって許可も出て、明日はテスト明けで1日休みになる俺は今日から彼氏のお部屋にお泊まりです。わーい。
でも荷物の量が半端じゃないので、真っ黒なリー先輩にも手伝って貰ってます。有難うございます。ジエさんはお仕事があるから無理だった。働いてる大学生、かっちょいい。美人なのにかっちょいい。

リー先輩は俺に中国語を教えてくれる先生でもあるんだ。明日の休みは早速お勉強。朱雀先輩はテストがあるから。

「マーナオ、5月5日は牡牛座だ。だが深夜に生まれたジュチェは、時差の関係で日本では5月6日産まれになるだろう。誕生石はアイドクレース、この石は『不屈の愛』を司っている」
「え?そうなんですか?」
「5月5日ならばレッドコーラル、『幼い心』。マーナオと出会い、幼かったジュチェは事実成長した。お似合いのアベックだと俺は考える」

リー先輩は本当に物知りさんだ。
でも自分で自分の事を馬鹿って言ってるから謙虚。顔も体も真っ黒で不審者にしか見えないけど、可愛いピンクの包みの飴とかくれるし超優しい。
顔は『不細工だから見せられない』らしいけど、性格は超イケメン。桃味の飴、甘いけど。キャラに合ってないギャップがきゅんきゅんするね。うん。

「朱雀先輩、アベックって何?」
「カップル。李、テメェの古臭い語彙を何とかしやがれ」

最近あんまり言葉を間違えない朱雀先輩の声に、リー先輩はしょぼんと肩を落とした。
リー先輩は日本産まれだけど香港育ちで、朱雀先輩は上海産まれで五歳から学園に入学するまでの2年弱、アメリカに住んでたらしい。
だから二人は幼い頃そんな接点なくて、日本語を覚えたのも入学してからなんだ。リー先輩に至っては、韓流の恋愛ものの時代劇で日本語を覚えたんだって。何だそれ。

「リー先輩は韓国語も喋れるんでしょ?俺、韓国行ってみたいんです。プルコギが食べてみたくて!」
「ジュチェはドイツ語、イタリア語、英語、韓国語を把握している。旅先には連れていけ…いや、すまない。老婆心だ。連れていくに決まっていたな」

リー先輩、どうやら俺と朱雀先輩を絶賛応援してくれてるみたいだね。有難うございます…所で朱雀先輩、不良の癖に通訳機能充実してない?何なの、Sクラスの人は皆こうなの?

「あ、お酒の箱にお手紙が入ってる。えっと、に、にーはお、ずちぇ…うぉー…うーん」
「ユエの棟梁である楼月からの書簡だ。婚約を祝う言葉が認められている。マーナオ、それはジュチェに渡せ。マーナオにはまだ早い」
「うー。リー先輩、中国語の勉強もっと教えて下さい…」
「マーナオ、熱心な勉強家は嫌いじゃない。次からクイズ方式にしよう。楽しめて一石二鳥だろう」

手紙をチラッと見ただけでぐしゃぐしゃに丸めた朱雀先輩は難しそうな古文の教科書を熟読してて、邪魔は出来ないからね。

「ふー。遠野先輩って何ヵ国喋れるんだろ…」
「ナイトか?ナイトはほぼ世界中の言葉を把握しているが、会話となると12ヶ国程度だろう。事実ナイトは博多弁を理解しているが喋れない」
「そっ、そんなに?!てか博多弁?!」
「ルークとファーストは全ての国の言葉を操れる。だがどちらも教師には向かない。マーナオ、学びたいのであれば彼らはやめておけ、会話にすらならない」
「うーん、ファーストって誰だろ…」

後で夕飯を持ってきてくれるって言ってた超美人なジエさんは、勉強してる朱雀先輩を見るなり膝から崩れちゃって、何度も俺にシェイシェイシェイシェイって言ってたよ。
朱雀先輩は今まで一度も自主勉強なんかしなかったんだって。それなのに中等部二年生まで進学科だったんだから、凄いとしか言えない。

「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし…のどけからましって何だ?」

お尻の上で朱雀先輩が呟いた。今はきっと和歌の勉強してるんだ。日本人でも難しいもん。

「長閑な気持ちで過ごせると思うのに、って意味じゃなかった?」
「解釈は載ってんだが、訳が判らん」
「えっと『この世にもしも桜がなければ、春と言う季節を長閑な気持ちで過ごせると思うのに』じゃない?」
「ふー…面倒臭ぇ詩ばっかだな、邪馬台国は。演歌を見習え演歌を…」
「邪馬台国じゃないと思うけど」

俺にしたら古文より漢文の方が絶対難しいよ。
なのに漢文はすらすら読めるんだから何なの、朱雀先輩。
レとか一とか二とか置き字とか、俺ちんぷんかんぷんだもの。助けて下さい。

「演歌かー。有名な平兼盛とかそんな感じじゃない?しのぶれど、色に出でにけり我が恋は、ものや思うと人の問うまで…って聞いた事ある?」
「良い歌だマーナオ、素晴らしい」
「ものや思うって何だ?」
「誰にも悟らせず隠してきたつもりだったが、感情が表に出ていたらしい。誰からも『恋煩いですか』と口々に問われるのだから…と言った、切ない片想いを歌った歌だ。貴様には情緒が足りんな朱雀、精進しろ」

シュッとリー先輩が何かを投げて、朱雀先輩の足の間に手裏剣が刺さった。ちょ、何て事を!

「リー先輩!朱雀先輩が勃たなくなったらどうしてくれるんですかっ。俺達まだしてないのに!」
「マーナオ、…?!そ、その手に握っているのは何だ?!」
「えっ?手作り四川ラーメンセットに付いてた麺棒?………麺棒?」

ギラッと俺の目が光った瞬間、リー先輩は瞬間移動で消えてしまった。何か遠野会長みたいな人だな〜。身長は遠野先輩より高いと思うんだけど。神帝陛下くらいありそう。

「ふー。結構片付いて来たなー。朱雀先輩、お勉強終わった?」
「もうちょい。いとおかし、は、菓子じゃねぇのは判ってきた」
「判った、お茶淹れてくる」

ご祝儀の中に入ってた中国茶セットにハマった俺は、朱雀先輩に用意して貰った茶器をいそいそと取り出して、ポットのお湯を注ぐ。
お花が入ったお茶とか、綺麗な金色の烏龍茶とか沢山あるんだよ!初めて見た奴ばっか。

冷凍飲茶セットは先輩が放置してた所為で駄目になっちゃってたけど、夕飯でジエさんが持ってきてくれるって言ってたから、超楽しみ。
肉まんも小籠包も酢豚もあるんだって!お茶請けとは思えないね。

中華大好き。
ラーメンの本場だから、日本と同じで地域ごとに色んなラーメンがあるらしい。あっさり味で幾らでも食べられるんだって。それ聞いてからお腹が鳴りっぱなし。

今日のお昼は昨日食べ損ねた村瀬さんのビックタコ入りたこ焼きで、物凄く美味しかったけど、チーズ入りも食べたしお代わりしまくったけど、お腹鳴りっぱなし。やっぱりお肉か魚肉ハムじゃないと…。成長期だもの。

「はい、先輩。高そうなハムとお茶だよー。このハムね、粒々が付いてるんだよ。何か匂いが胡椒っぽいの」
「おー、パストラミか。ハムはまめこ、お前が食え」
「良いの?!あ、こっちは焼豚だったよ!切ってる合間に摘まんで減っちゃったけど…えへへ、美味しかったよ」
「そっちもお前が…っと、終わった」

教科書を閉じた先輩が大きなベッドの上で起き上がって、ばっと腕を広げた。

「マーナオ」
「はーい」

だから小走りで飛び込んでいっぱいチューして貰って、折角美味しいハムと淹れたての温かいお茶をそのままに、ゴロゴロ、ベッドの上で転がり回る。

「先輩、お疲れ様」
「おう。じゃあまめこ、今日から本気で慣らすぞ」
「ん」
「恥ずかしくなっても泣くな、右手を上げろ」
「判った。痒い所があったら左手を上げ、んんっ」

ちょー恥ずかしかったけど、お尻触られまくってもお尻の割れ目にブラックタワーをすりすりされても、俺は右手を上げなかった。

でも、すりすりされた辺りがちょっと痒いから左手は上げても良いかな?














「かわちー、掲示板もう見た?俺、学年順位68位だったわー」
「お前は今回ケアレスミスが多かったろ。得意の英語も89点だったな。僕は化学と現国で何とか93点だったけど、他が駄目だ。クラス順位は3位、学年順位は70位だ」
「今回かなり難しかった〜。もうちょい真面目に勉強しとけば良かったかな」
「でも海陸がクラス一位だろ?」
「え?二位だよ?」

眠たい目を擦りながら、やっと終わったテスト明けの休みに、カードリーダーに学籍カードを通して掲示板の液晶モニタにかじりついてる俺、松原瑪瑙です。おはよ!
ビシッと制服を着てるかわちゃんとうーちゃんの雑談を横目に、俺は大きなグレーのパーカーと裾が長いスウェットで瞬いた。

「か、かわちゃん。うーちゃん」
「メェ?どうした」
「まっさかまっつんがクラス一位な〜んて事は、」

朱雀先輩のクローゼットから寝間着になりそうなお古を借りて、テスト最終日に出発した先輩とバイバイした直後。
今回は自分でも良く出来てる、とは、思ってたんだけど…。

「9教科…総合816点?!」
「平均90点………メェ、が、クラス一位、なんて…」
「かっ、カンニングなんかしてないよっ?!」
「判ってるよまっつん、誰のテストカンニングしたって一位にはなれないもんね…」
「メ、メェ、学年順位は何位だった?!」

興奮気味のかわちゃんが肩を掴んできて、呆然としてるうーちゃんからも見つめられつつ、俺は半泣きで呟いた。


「よ、43位、だった…」

掲示板に初めて、『選定選抜』ってマークが大きく表示されてるんですが…夢ですか?

うーちゃんが笑ったまんま倒れて、かわちゃんが貧血で倒れました。



…俺も倒れたい。


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