可視恋線。

記録的短時間スーパー豪雨情報

<俺と先輩の仁義なき戦争>




真っ暗な部屋の中央、床に敷き詰められていたLEDパネルから光が放たれた。



「先の下院審査会で可決された案件について、定例の最終認否を行う。下院総括部、上院審議部、それぞれのマスターは議長席へ」

広い部屋の中央、床照明を囲むような円卓には複数の人影が見える。
円卓より数段高い位置にある議長席へ二人の男が腰掛けると、カン、と裁判長が打ち鳴らす鐘が聞こえた。円卓の上に不気味な数字が浮かび上がり、座している人間達がどうやら12人居ることを表した。

「議長、発言の許可を」
『ナンバー12、区画保全部の発言を認めます』

12の表示がある薄暗い席に一筋のスポットライトが当たる。そこに座っていた明らかに日本人ではない男が挙げていた手を下ろし、携えていた報告書を開く。

「下院審査会を通過したセントラル緑化計画、並びに『農業体験♪一人に一羽、鶏を飼おう』は着実に進んでおります。愛らしいひよこの姿に騙され数匹飼育する者が後を絶たず、可視恋線しか読んでいない画面の向こうの某には何のこっちゃでしょうが、いずれナイト=ノアがセントラルへ永住なさる日までに、邸内自給自足の働きを強めて参る次第です」

ざわざわと俄かにざわめいた円卓、カンと打ち鳴らされた鐘でスポットライトが消え、12番の数字表示がチカチカ点滅した。

『区画保全部の経過報告により、以降の継続を承認する場合はコンソメポテチを、承認しない場合はうす塩ポテチを円卓中央に投げて下さい。ポテチは大変壊れ易いので、投入する際はくれぐれも袋を揉んだり叩きつけたりしないで下さい』

ひょいひょい、それぞれの席からお菓子の袋が飛んでくる。中でも特に威圧感を放つビックバックサイズの袋にまたも円卓はざわめき、12番の席に座っていた男が闇の中で拳を握る。ポテチは全部で12個あった。発言者に投げ入れるポテチやタンメンはない。と、言う事は一つ多いらしいかった。

『カイザーマジェスティ・ルークより格別の賞与がありました。12枢投票結果はコンソメが9、…ん?カラムーチョ?あれはカラムーチョでは…?』
『うーむ…、残念ながらカラムーチョとカールを投げ入れた枢機卿が確認された。議会へのおやつの持ち込みは音の邪魔にならないメントスか、隠れて持ってくるなら唾液を口いっぱいに溜めてふやかしながらこっそり食べて貰いたい』
「俺ぁ自作のマフィンを持ってきてる。それは俺のおやつじゃねぇ、俺の気持ちを表したカラムーチョだ」

議長席から掛かる厳かな声に、薄暗い円卓からにゅっと部屋の中央に現れた男の顔。燃えるような髪を三つ編みにしたおさげ男は挙手をしていないが、下から降り注ぐ光に顔を当てて中々ホラーな光景だったので、議長ふたりは顔を見合わせる。

『ナンバー1、コード:ファーストの発言を認めます』
「テメーら、中央勤務の全社員が何人居るか知らねぇがよ、総長を養うのに鶏の一万匹や二万匹程度で足りると思ってんのか?タラとニシンの稚魚を大量に仕入れるのも忘れんな、最近進めてる新規開発地区があったな。掘削した地盤から地下水だの海水だの湧き出て住居地区には向かないとか何とか」
「あ、はい。仰る通り、フェニックス南方、グランドキャニオンより200km離れた辺りで地層が粘土質に変わり、地下水が湧き出しています」
「そこをちょいちょい改装して、養殖場になんねぇのか?わいわい稚魚を泳がせて、タラコと明太子を量産しろ。あと自動生産米の味がまだまだしょぼい。技術班と相談して、…これは特別機動部の管轄だったか?何でも良いが、グレアムの名に於いて手抜きは許さん。悔しかったら俺に研がせたいと思わせる米を作れ、日本の農家で体験農業して来い」

ざわめく円卓、感動に震えた12番目の男が回収されてきたポテチを受け取りながら一番席のスポットライトに照らされた男を見つめ、自分の投入用コンソメポテチを優しく投げた。

「マスターファースト、暖かい叱咤激励心から感謝します…!魚介の養殖にはとんと気付きませんでした。早速水質検査班を調査に向かわせ、恐らく地下水では養殖に適しないと思われますので増える乾燥プランクトンちゃんを投入し、『アメリカ大陸の地下に海つくっちゃいました計画』として再度審査会に申し入れたいと思いますっ」
「あ?最近は乾燥プランクトンなんかあんのか?」
「品質向上は中央情報部と相談し、対空官制部の協力を得て米の本場である新潟県よりお米マイスターを派遣したいと思います」

パチパチ惜しみない拍手が響き渡り、ポポポポイと食べきりサイズのコンソメポテチが方々から投げ込まれた。彼はおやつに困らないと深々頭を下げる。

にゅっと、光の渦へ白い手袋が伸びてきた。

『ナンバー2、コード:ディアブロの発言を認めます』
「カールは歯応えサクッと軽やか、青少年に優しいお菓子です。カールおじさんに謝って下さい」
『これは失礼しました、我々もカールを嫌っている訳ではないのです』
『カールおじさん申し訳ありません、カールは口の中でちょっと頑張れば音を発てずに溶ける画期的なスナックでした』
「宜しい。それで議題とは全く関係ないんですが、猊下が今回珍しく試験中に寝落ちなさったとか」

ざわざわと暗い円卓がざわめいた。

「基本9教科に加え二学年選択科目4教科、全13教科中、実に11教科で爆睡なさったとか」
「それでは猊下は…?!」
「Aクラスに落ちてしまうのか!否!よもや、」
「ナイト=ノアがFクラスに…?!」
「いかん、戦争が起きるぞ!」
「ナイト=ノアがFクラスに所属するとなれば、恐るべきアクエリアスが鞭を手にしょっちゅう乱入するは必至!」
「スヌーピー部隊の大半が卒業した今、最早防ぐ手立てはない!アクエリアスが世界を滅ぼすぞ…!組織内調査部!どうにかならんのか?!」
「やー、無理ですわ。うちの前マスターもう逃げました、枢機卿代理なのに。ダッシュで温泉旅行に行きました」

ざわめきが深まる円卓で、それを掻き消したのはゴツンと凄まじい音。

「静まりやがれ!総長は確かに熟睡してた(監視カメラ確認済)がなぁ、今回はちょっと裏に書けなかっただけで設問は全問正解だ!山田より点数は高い筈だ!…だが世界を滅ぼす件は否めない、叶を犠牲にして逃げろ…!」
「ええ、ファースト…嵯峨崎君の言う通り、残念ですが2教科のテスト裏に書き込まれた漫画は主線がぶれぶれ、学園改革案は涎で読めない始末、とどめにテスト用紙連載小説は冒頭のみで落ち無し」

ざわざわ。
世界を救う生け贄に決定した美貌の言葉でまた、ざわめく。

「残念ながら、今回は13教科1300点と言う面白味のない点数でらっしゃいました」

何だ満点じゃん、と、皆がほっと一息。
議長の閉会の合図で明るくなった円卓では、早速ポテチの数を自慢したり食べたりリーマンズトークに花を咲かせている。
これが世界最高峰の企業会議なのか。

「どうなされました陛下?ポテチが進んでらっしゃらない様ですが…」
「…セカンド、これを見よ。意図的なものを感じないか」
「おや?珍しく朱雀の国語の点数が良いみたいですねぇ………ん?おや?おやおやおや?」
「俊は大河朱雀に試練を課した。長き不登校を更正すべく、松原瑪瑙との対面を期に進学科へ引き戻す試練を」
「…ええ、不健全な恋愛をさせるついでに、でしょう?今年こそ不良攻め、極めて平凡な受けを味わうとな何とか…ふぅ、ハニーが少々平凡の枠から逸脱なさいましたからねぇ、ふぅ」
「あれの成績は申し分ない。選定後にはなるが、昇格を希望するならばそれも良かろう」
「然し、これが間違いではないとすれば、変動は二年だけの問題では…」

白百合の眼鏡が怪しく曇り、無表情でポテチの袋をバリッと開けた男は艶やかな銀髪の下、深紅の眼差しを眇める。





「随分、面映ゆい展開になると見える」


神々しい美貌に染み渡る笑みは大層、密やかに。


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