可視恋線。

スカイパンチから差し込むエンジェルラダー

<俺と先輩の仁義なき戦争>




「…糞が、また増えてやがる」

久し振りにやって来た朱雀先輩の部屋は、物凄い量の箱だらけだった。

「わわ。何これ、すごっ、ちょ、えっ、どうするの?通れないよっ?」
「風呂入る」

人一人辛うじて通れそうな荷物の山の向こうに、でっかいベッドが見える。元々ベッド以外に何にもない部屋だったけど、今じゃ何かの倉庫みたいだよ。
こんだけの荷物、何処から出てきたんだろって考えて、思い出した。

「あ、そう言えば先輩、引っ越しするって…その荷物?こんなにあったの?もしかして床下収納?」
「違ぇ。どっから聞き付けたか知らねぇけどな、祝儀だ祝儀」

流石に箱やら大きな置物みたいなものとかでぎゅうぎゅうな中、俺をお姫様抱っこしたままじゃ歩けなくて、俺の手を掴んだ先輩は長い足でドカドカ荷物を蹴り飛ばしつつ、ずんずん部屋の中に入ってく。

「処分しても処分しても増えやがる。ちっ、邪魔で仕方ねぇ…」

お風呂入りたい気持ちは判るけど、一緒に入らなきゃなんないのかな?
俺の三人部屋のお風呂は超狭くて、まず俺が先に入らされて、かわちゃんとうーちゃんが交互に入ってくる事が多いんだ。しかも別々に入るとお湯が勿体ないからって、俺がチビだし、半分しか溜めてない湯船に二人が入り終わるまで浸かってなきゃなんないの。ペットボトル節約術を見てかわちゃんが思い付いたんだけど、最初は毎日逆上せっぱなしで死ぬかと思ったよ…。かわちゃん、お風呂長すぎ。

だから出来れば別々に入りたいんだけどな…広いお風呂なら別だけどさ。

「御祝儀?…え、でも、朱雀先輩はもう結婚しなくて良いんだよね?」
「何だよ、したくねぇのか?」

バスルームにまで流石に荷物はなかった。
超広い脱衣場に引き摺られて、躊躇いなくシャツを脱いでく先輩を恐る恐る見上げたら、ボタンを外さずに脱いだシャツをぽいっと放った先輩が眉間に皺を寄せる。

「したいも何も、だって、もう縁談はなくなったって!破談だって言ってたじゃん!違うの?!」
「はぁ?」

口煩いかわちゃんの躾で育った俺は先輩のシャツを拾ってボタンを外しながら、頭に来て怒鳴った。百歩譲って、先輩はダークでセレブなお家柄だからちょっとでも結婚の話が出たらお祝いが来るのは仕方ない。
だけど!勘違いじゃない、だっと俺ちゃんと確かめたのにっ。結婚するのって聞いたのに!

破談だろうな、って。
先輩のお父さんだって縁談はちゃんと断ったって、言ってた癖に!

「…う、うわーん、騙されたぁあ!!!」
「おわ!何だいきなり!」

いつの間にか俺を脱がしてお風呂場に連れ込もうとしてた朱雀先輩が目を剥いて、掴んだままの先輩のシャツでゴシゴシ涙とか鼻水とか拭いてみる。
これか。これが有名なやり逃げか。

「あーん!変態ばか朱雀ーっ!わーん!やだー!愛人なんか俺やだー!」
「おい、」
「奥さんの所に帰ってく背中なんか見たくないぃい!!!うぇーん!」
「何だその演歌の歌詞みたいな台詞は!落ち着け!泣くな!」

ぼふっと。先輩の胸に顔が埋まった。
逞しいにも程がある男らしい肌は固めの弾力、怒ってるのに胸がときめいちゃう。

「…うぇ。遊び人めぇ!ひっく、単純な俺をきゅんきゅんさせれば良いと思ってんなっ、ぐすっ」
「お前、俺が言うのもアレだろうが、日本語が可笑しいぞ。意味不明過ぎだ」
「えっ、うぇっ」

片腕で俺を抱いたままシャワーコックを捻った先輩が、ちょっと熱めのお湯を背中に掛けてくれた。
ビクッてしたけど大人しくしてたら、宥めるように襟足の辺りを撫でられる。

「まだ薄いが、痣になってんな」
「…へ?痣?」
「悪ぃ。怪我させた」

ぐしゅって先輩の鎖骨で鼻を啜って、顔を上げたら難しい顔に出会った。どんな痣が出来てるか判んないけど、折角イケメンな顔に大きなガーゼ貼りまくってる朱雀先輩より軽いに決まってる。

「二度と傷付けねぇ、っつったのに」

だって、肩にも腕にもさっき俺が飛び込んだ胸元にも、痛そうな傷と痣がいっぱい。
俺のお尻なんか舐めちゃう口元にも、朝より色が濃くなった青痣がある。前髪の生え際にも大きい切り傷があった。

だから、先輩が謝る必要なんかないのに。寧ろ俺が謝らなきゃならないんだもの。
でも、先輩はそうは思ってない。不良の癖に育ちが良過ぎな、意外とジェントルマンなんだよね。

「…くそ。俺はお前を大切にするって決めてんだ」
「俺ちっとも痛くないよ。先輩のお陰だよ」
「そんな問題じゃねぇ」
「そんな問題なの。そんな事より、朱雀先輩はもっと他の所で俺に謝らなきゃなんないんじゃない?え?」

シャワーヘッドを奪って、べりって剥がした朱雀先輩のほっぺの絆創膏、その下に隠れてた派手な擦り傷にシャーってお湯をぶっ掛ける。

「他、だと?」
「そうだよ。ちょっとでも俺の事が好きなら謝ってよ。もっとメンタル面も大切にしろ!心の傷は目に見えないもんなんだよ」
「詩人だな…。何か知らんが、すまん」
「判んないなら適当に謝んな!不誠実!最っ低!」

ほんのちょっとだけ痛そうに眉を顰めた程度の先輩は、俺からされるがまま首を傾げた。跳ねたお湯が当たってるだけなのか違うのか、何だか本気で涙目な気がしない事もない。

「考えたくねぇが、心当たりは…ない事もない」
「へー?どんな心当たり?」

ムカムカする。
幾ら咄嗟だったからって、こんなに沢山の怪我をしても俺を助けてくれた癖に、髪の毛が黒くなったらなったで益々モテるとか、元彼女の名前すら覚えてないとか、エロテクが神業過ぎてついていけないとかさ。ありなの?

俺なんかすぐにポイ捨てされて、あっという間に名前忘れられちゃうに決まってるじゃん。

「…言っておくがな、勝手に結納したのは俺じゃねぇ、糞親父だぞ。お前の意見を無視したのは悪いと思わんでもないが…今更嫌がられたらお前、流石の俺でも泣くぞマジで」
「は?何の話?また俺を騙そうとしてるでしょ、これだから元Sクラスは…っ」
「言い掛かりだマーナオ、落ち着けば判る」
「落ち着いてるよ!」

朱雀先輩の手が伸びてきて、振り払う様に腕を動かしたら持ってたシャワーヘッドが落ちた。
うねうね、あっちこっちにお湯を撒き散らす様を何となく見やれば、意識して見ない様にしてた先輩のタワーじゃないブラックタワーが視界に入る。


これ。
男は皆、これがあるから、恋をしたり浮気をしたりするんだ。だから浮気をしたら切り落としてやるなんて、言ったけど。


「うぇ、こっちは落ち着いてても、でっか!」
「あ?…お、おま、何つー事を…!」
「ね、これが入る様になったら俺を一番にしてくれる?だったら何でも言う通りにするから、今からしたいの」
「まめ、まめ、ま、まめな?!」
「先輩なんか俺にめろめろになっちゃえば良いんだよ!努力してめろめろになれよ!ちくしょー、他の人と結婚なんかさせてあげないからな!式ぶち壊してめろめろにしてやるよー!」
「待て、そんな捲し立てんな、早すぎて判らん…」
「大河朱雀はホモだから俺にしか勃起しないって、奥さんだろうが彼女だろうが他の愛人だろうが、あることないこと言い触らしてやる!ばーか!ざまあみろ!」

ぐいぐい朱雀先輩を押し倒そうとするけど、ちっとも倒れてくれない先輩はじりじり後退るばっかりで、そうしてる内に湯船の縁に引っ掛かって、二人して飛び込んだ。
オロオロしてる朱雀先輩の長い足が転んじゃうから、ぐいぐい押してた俺まで当然道連れだよ。


ざっぱーん!

って、お湯が盛大に飛び散る。超勿体ない。
でも今は、ずぶ濡れの先輩をどんな形であれ押し倒せたから、節約の事は忘れようか。


「ね、触ってもいい?良いよね、俺のは勝手に触ったもんね。えいっ」
「待っ、テメ、少しは恥じらいと言うもんがねぇのか」
「はぁ?あのね、男にそんなもの求めないでくれる?つーか朱雀先輩には言われたくないんですけど」
「コラ、擦るな、手を離せ馬鹿野郎…って、おい!何してやがるっ」
「え?何って、試しに入れてみようかと…」

ちょっと触ってる内に大きくなってきた先輩の上に乗ろうとしたら、もう声も出なくなった朱雀先輩が口をパクパクさせながら俺の肩を掴む。
ぎりぎり凄い力、ちょ、肩が砕けそう!

「…指一本でぎゃあぎゃあ喚いてた癖に入る訳ねぇだろうが!」
「あれは指がどうのじゃなくて、出したのにしつこく触るから苦しかっただけだもん」
「俺からすぐに下りろ!即下りろ!…畜生、誘い殺す気か小悪魔が…!」
「あ、先輩、アレないの?ほら、今まで何回か見せてきた奴。コンドーム。俺アレ着けてみたい」
「おま…!童貞にそんなもんは必要ない!人の我慢を無にする阿呆な暴走してんじゃねぇ、馬鹿野郎っ」
「それが初対面で裸だった人の台詞なの?我慢も何も、俺いきなり突っ込まれそうになったんだけど。何処かの誰かから」
「な」
「寝てる間に犯されそうになった事もあります」
「…」
「えーっと。確か初めて先輩に会った時、セフレさんが上に乗ってたよね」
「畜生、これが自業自得か…!」

顔を覆った先輩がぐったりして、何か呟いた。
ブラックタワーにぐいぐいお尻を擦り付けてたら、へにょんってタワーの元気がなくなっちゃって、ついつい舌打ち。

「もう、ふにゃふにゃしてたら入らないじゃんか。やっぱり舐めた方が気持ち良いよね、よし」
「ま、まめこ、マーナオ、俺が悪かった…。心から謝る、慰謝料も全額払うから、許してくれ。本気で泣くぞ、あの日あの時の俺のお陰で今の俺は泣いてるぞ!…見ろ!」

真っ赤な両目からボロボロ本気で泣いてる先輩にびっくりして、とりあえず慰めてあげる事にした。あ、青いコンタクトが湯船に浮いてる…。


ばっちり落ち着いた(どん引きとも言う)俺が、泣き止まない先輩の髪の毛をゴシゴシ洗いながら話を聞けば、とんでもない誤解が生じてました。


えっと。
後から確認すれば、山積みの荷物の宛名タグに、朱雀先輩と俺の名前がびっしり並んでました。そう言う事でした。
すいません。俺、自分相手にヤキモチ焼きまくってたみたい。てへ。



松原瑪瑙15歳、自分の性格をそろそろ改めるべきだと思いました。ばり反省。


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