可視恋線。

爽やかな朝から暴風雨

<俺と先輩の仁義なき戦争>




朝です。
松原瑪瑙、寝起きは悪くないです。



「メェが寝過ごした所為でまたインスタントラーメンだよ」
「しょーがないよかわちー、まっつんの特技なんてラーメンならインスタントでも超美味しいくらいじゃん」
「ラーメン屋の息子だからね」

嘘です。
かわちゃんの蹴りで目覚めました。俺達三人は同室なんだ。

「あーあ、今日はメェが朝当番なのに。昨日の僕はお味噌汁まで作ったんだよ!」
「お出汁が利いてなくて、お年寄り向けの味だったよねー、かわちー」

ガミガミ煩い川田有利、俺はかわちゃんって呼んでる彼は、何だか最近不良に憧れてるらしくて黒髪をツンツン立ててる。染めないのはやっぱ平凡故のビビり心だろう。
とにかくかわちゃんは口煩い。ラーメンは醤油しか食べないし、暴力的だし。三人の中では一番偉そうだ。でも暗い所が苦手なんだって。ちょっと格好良い分、何だか可愛いよね。

「うっさいよ、嫌なら食べなきゃ良いだろ」
「だから残したじゃん。昨日はお腹ペコペコで授業受けたんだよ、俺」
「メェのラーメンは完食した癖に!」
「インスタントラーメンは失敗しないから良いよねー。かわちーもこれからはインスタント使いなよ」

俺の隣に座ってる宇野海陸、こっちはうーちゃん。俺達と違うのはちょっとモテるとこ。黙ってればかわちゃんも充分モテそうだけど、性格がね。
それに引き替えうーちゃんは身長も高めだし、ニコニコしてるし、天然なのか毒舌なとこあるけど。素直に格好良いと思う。美人さんだ。
料理も上手だしスポーツも得意。頭も良いのに何故だかいつもBクラス。もっと頑張ればSクラスだって夢じゃないと思うんだけどなぁ。

「インスタントなんか好んで食べるか!体に悪いっ」
「まっつん、ほっぺにご飯付いてるよ」
「あ、ありがと」
「海陸、いちいちメェを甘やかすな」
「かわちー、そんないちいち目くじら立ててたら折角のヘアスタイルが残念になるよ。まるで鬼の角だよ」
「ぶふ!」

ニコニコかわちゃん相手に毒舌しちゃううーちゃんに吹き出せば、テーブルの下でかわちゃんの蹴り。かなり痛い。

「とっとと行くよ!僕はノロマが嫌いだ。早く鞄持って」
「「はーい」」

俺より大きい二人は、揃ってたら見栄えが良いと評判だ。かわちゃんは格好良い、うーちゃんは美人寄りの格好良い。
なのに性格はかわちゃんの方が女王様みたいだ。

「かわちー、足早いなぁ」
「今日は何の授業だっけ」

ずんずん歩いていくかわちゃんの背中を追い掛けながら、生徒手帳のカードを取り出す。隣をゆっくり歩くうーちゃんを見上げて、カードの小さなボタンを押した。

「確か地理だったよーな」
「あ、授業変更連絡が来てるよ。一時間目は化学に変わるんだって」
「本当だ。おーい、かわちー。一時間目は化学だってさー」

生徒手帳のカードは学校の中で買い物する時とか、学校内のゲートを通る時、行事連絡の時に使ったりする。

「って事は実験室?」
「化学って事は、HRもやるんじゃない?」
「うちの副担任、面倒臭がりだからね」

カードの側面に付いてるボタンを押せば、廊下に必ず設置してある学校案内の電子掲示板に知りたい情報が表示される訳だ。
だからうーちゃんの声で振り返ったかわちゃんも俺達が見てるモニタを見て、くるっと方向転換。またスタスタ歩いていった。

「かわちー、ちょっとはゆっくり行こうよー。実験室近いんだしー」
「そーだよ、朝からしゃきしゃきし過ぎだよかわちゃんは」
「授業準備があるだろ。ぼさっとするなら置いてくよ!」

沢山の塔を繋いだ様な巨大な校舎は、普通科のクラスが離れの校舎にある。特別教室は大抵別の離れの校舎にあって、一番大きい校舎にはSクラスと大学の教室があるらしい。
だから遠い教室から化学の実験室に行くのは、幾ら先生達でも嫌なんだろうね。学食から教室に行くまでに10分は懸かるんだもん。職員棟からだと更に10分。広過ぎると面倒臭いもんね。

「あ、そうだ。ね、うーちゃん。昨日さ、山田先輩って人に制服借りたんだけどさー」
「山田先輩?また平凡な名字だね。下の名前は?」
「知らない。その時に俺の制服クリーニングしてくれるって言ってたんだけどさ、やっぱ改めてお礼に行った方が良いよね」
「あー、昨日転んだ時にお世話になったんだ?」
「うん、冷たい麦茶も貰った」

不良から殴られたり植え込みに突っ込んだ時に出来た傷を見て、仕返しに行くと暴れ出したかわちゃんを宥める為に、俺は転んだだけだと言った。まぁ確かに不良の足に躓いてスッ転んだ訳だけど。
流石に向こう見ずなかわちゃんも、Fクラス相手にはビビるだろうからさ。言えないよ。もし二人に何かあったら泣いちゃうからね。虐げられてるけど、毎日。

「ちょこっと怖そうだったけど、優しかったんだぁ」
「うーん、山田、山田かぁ。時の君も確か山田だった様な気がするけど、まさかねぇ」
「時の君って、左席副会長のこと?」
「そうだよ、時の君が山田太陽先輩、天皇猊下が遠野俊先輩。ま、あのお二人を名前で呼ぶ奴なんか居ないけどさぁ」
「天皇猊下は遠野俊先輩って言うんだ!へー」

かわちゃんは遠野先輩の超大ファンだ。遠野先輩はカルマって言う不良グループの総長なんだって。去年その話で帝王院は持ちきりだったんだ。

「まっつんは無頓着だなぁ、このくらい初等科の生徒でも知ってるよ」
「遠野先輩、うわぁ、何だか名前まで格好良いよ!」
「かわちーと同じ事言ってる」

俺達中等部の生徒には噂くらいしか流れて来なかったんだけどね、不良グループと帝王院の頂点に立ってる中央委員会の会長、皆は神帝陛下って呼んでる先輩と一悶着あったとかなかったとか。

神帝陛下に逆らったら退学ものなのに、天皇猊下は未だに左席委員会の生徒会長。凄い、超格好良い。だから俺も大ファンなんだ。
身長なんかうーちゃんより高いし、凛々しいお顔も素敵だし、喧嘩も超強いし。始業式典の時は皆の黄色い悲鳴が凄かった。



特に不良さんの叫び声がとんでもなかった。抱いてくれー、とか、犬にしてくれー、とか。

俺が今まで見た男の中で一番の美人さんだと思う中央委員会会計の叶先輩が、


「黙れ煩い俺のハニーが喋ってんだろーが雑魚共殺すぞ」

ってマイク越しに叫んだから皆静かになったんだ。白百合閣下って呼ばれてる眼鏡美人さんなのに、めっちゃ恐かった。敬語キャラを想像してたよ、俺。


で、いつの間にか左席副会長さんの短過ぎる話が終わってて、



「………ん?」
「どしたの、まっつん?」


まぁ皆、適当に頑張ってねー。


そんなヤル気の無い演説を思い出した。叶先輩が怖くて皆が震えてる中、たった一人DS片手に壇上に上がってた人。

「まっつん?」
「………うそ」

あれ、山田先輩じゃなかったっけ?左席副会長の山田先輩じゃなかったっけ?
そんな人に麦茶貰って制服借りたなんて、まさか、嘘でしょ?

「ま、さか」
「まっつん、」

バレたら退学ものじゃないか!
左席副会長に近付いたら殺されるって皆が言ってたよ!鬼から刺されるって!

「ま、」
「うわぁあああ!!!うーちゃん!どうしよう!俺、大変な事をしでかしちゃったよ!」
「大変って、何が?」

いつの間にか早足なかわちゃんの姿が見えなくなってるけどそれ所じゃない。
生徒理事会の中央委員会、その中央委員会を取り締まる公安役の左席委員会。その副会長にっ、この俺様は何をやってんですかって話ですよ!

「どどどどーしよう!俺、退学になるかもー!」
「何で?」
「鬼から殺されちゃうよー!」
「落ち着いてよまっつん、」
「俺がブッ殺してやろーかぁ」

俺より大きいうーちゃんのシャツを掴んでガシガシ揺すりまくれば、そのうーちゃんよりデカイ何かがうーちゃんの後ろに見えた。

「鬼退治なんざ関西制覇より楽そうだしなぁ、マイスイート」

青冷めた俺が硬直し、目が回ったらしいうーちゃんが後ろを振り返りピシリと固まる。ああ、此処にかわちゃんが居たら泣いてたかも知れない。

「よう、今日も泣きそうな面してんなマイスイート。一発ヤらせろ」
「アアア、貴方は昨日の変態不良…!」
「あん?」

無愛想なイケメンが首を傾げながらうーちゃんを睨み、痙き攣ったうーちゃんがギギギっと音がしそうな動きで俺を見る。

「ま、まっつん?何で朱雀の君がまっつんに話し掛けて、」
「おいテメェ、人のモンに話し掛けてんじゃねぇよ」
「わっ」
「うーちゃん!」

ガシッとうーちゃんの頭を鷲掴みにした金髪不良が、ぺっ、と、うーちゃんを投げ捨てた。怖過ぎる。

「邪魔臭ぇな、殴るぞ」
「すすす朱雀の君、って、」
「おうマイスイート。そっか、事故紹介がまだだったか」

…。
今とんでもない日本語を聞いた気がするのは俺だけだろうか。自己紹介が事故紹介に聞こえたのは俺だけだろうか。

気の所為だよな。うん。

「大河朱雀、今日からお前のダーリンだ。喜べマイスイート」

ダージリンは紅茶だよな。うん。

「いや、探したぜ。何でか部屋の前に果たし状があっから、見てみれば化学実験室の近くに来いって書いてあっし」
「………」
「ま、お陰でお前に会えたから喧嘩は中止だ。恋人の前で痴態を山積みにするのは野蛮だろ」
「………死体?」
「毎朝毎晩抜かずの三発以上で極限に満足させてやるぜ。オメガウェポンも臨戦態勢だかんな、安心しろ」

たいがすざく。
コイツの名前。うん、それは判った。そんで昨日の仕返しに来たんだね。うん、やっぱ許してくれないよねFクラス。

で、何だって?


「で、そっちの名前は何、」
「まっつん、行こう!」
「え、わっ!」

そう言えば居た(忘れてた)うーちゃんに手を掴まれて、ダダダっと走り出す。自慢じゃないけどあんま運動神経が宜しくない俺はスッ転びそうになりながら、見えてきた化学実験室に飛び込もうとして、


「只今通行止めですにょ。中には入れませんなり」
「一年Bクラス宇野海陸のみ、入室を許可する。同年Bクラス松原瑪瑙はその場に待機せよ」

実験室の扉の前で腕を組む眼鏡二人組に阻まれた。昨日のオタクさんじゃないかと目を見開けば、背後から抱き寄せられる。

「捕まえた。じゃ、とりあえずどっかで一発済ませっか」
「わ、わわわっ」
「まっつん!」
「ウニョ君、授業が始まりますにょ。早く教室に入って白衣を着なさいハァハァ、メニョたんは行ってらっしゃいませご主人公様!」
「一年Bクラス宇野海陸、速やかにこの白衣を着用しフラスコやメスシリンダー等のありとあらゆる道具で攻めよ」

うーちゃんは両脇を捕まえられてズルズル実験室に連れていかれた。最後までまっつんと叫びながら、因みに俺はうーちゃんと叫びながら、まるでタイタニック。

「他の男を呼ぶなマイスイート。まさかあれが前の男か?」
「は?!」
「セフレなら許してやっけど、体力保てばの話だな。俺は絶倫だ」
「は?!」

意気揚々(に見える)不良野郎にちょっとムカついて来たので、憧れの遠野先輩を見本に掴まれた手を払い落としてみる。

びくともしない。

「手を離せこの変態野郎!意味不明な事ばっか言いやがって、授業に遅刻したらアンタの所為だぞ!」
「だから変態じゃなくて大河朱雀だっつってんだろ。お前なら呼び捨てでも許してやっから、覚えろ」
「誰がお前だ!俺は松原瑪瑙だ、変態野郎っ」


そして俺は名乗った事を後悔する事になる。


「まつばらめのー?まつばら、めのー。豆。………成程」

何か勝手に頷いた不良が無愛想な顔でニヤリと笑った。格好良いけど、気色悪い。




「まめ、か。だからチンコも豆サイズだったんだな、おまめ」
「う」


予鈴響く廊下に、股間握られた俺の悲鳴が轟いた。


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