可視恋線。

残暑の凪いだ風で休みましょう

<俺と先輩の仁義なき戦争>




季節と言うものは中々オツなんもんで、まだまだクーラーが手放せない有様でございますん。いかがお過ごしでしょうか?

夏コミでは多忙にかこつけ、腐男子らしからぬ手抜きコピ本の量産と相成りました事、先にスライディング土下座にてお詫び申し上げます。


【拡散希望】
虎豆アルティメットOVA化 決定☆


今春からの全力取材で実現した、シリーズ第一作を映像化!我々アルティメストはこれからも、生温い吐息で虎豆を見守り続けます!

ハァハァ




「社長、少々トラブルが起きました」

ドデカいスクリーンが存在感を示す、シネマルームに籠もっている男へ、ドア越しに電話を掛けた。想像通り鼻の下が伸びた声音で応対した相手はすぐに声を低くし、不機嫌だ。

『我は虎豆アルティメット鑑賞で忙しいと言いおいたろう。何処ぞで負債でも出たか』
「経営は頗る順調です。少々の債権処理は、吾にお任せ下さいませ」
『うむ。ならばこれ以上邪魔をするでない。次に下らん理由で我を妨げた時は、貴様とて容赦せぬぞ』

勝手な雇い主に通話を切られ、どうしたものかと隣の長身を見上げる。と言っても、目線は大差ない。どちらも2メートルに届かんばかりの長身だ。

「どうしました?顔色が青を通り越して白いですよ。ふむ、汝は元々色白でしたかねぇ」
「王。非常に切迫している。よもや此処に来て放棄するとは、俺程度の頭脳では予想だにせなんだ事態だ。こうも劇的に演出しておいて、終幕を前に手を引くとは…ああ、胸が痛い」
「おやおや、困りましたねぇ。顔に似合わずロマンチストな汝は、身も心も果てしなく純粋過ぎて手に負えません」

長い黒髪を優雅に掻いた男は、その美貌に妖しい笑みを滲ませ手を伸ばす。しなやかな筋肉を黒装束で隠した男の、顔を覆う覆面を解いた。
現れたのは、金髪ダークサファイアの双眸、作り物めいた美しい相貌だ。

「おや、プリンになっていますよ。だから染めるのはやめろと言っているのに」
「駄目だ、俺は王に相応しい人間たる取り柄も容姿もない。美の最上、黒は美しき我が王の為にある。ならばせめて、白馬の王子の基本スペックの一つ、ブロンドだけは譲れないのだ」

苛立ちを微笑で覆った飼い主は、女々しい程に少女漫画気質なボディーガードの顎を鷲掴み、麗しい微笑を近付けた。

「メメメイユエ?!何の戯れだ、このままでは最悪、俺の唇と触れてしまうぞ!離れよっ、後生だ王!」
「…ちっ、箱入りに育て過ぎましたね。吾の一生の不覚」
「未遂だとは思うが、念の為ウェットティッシュで消毒しておかなければ…すまない王、俺が醜いばかりに…」
「いっそ清々しいほど馬鹿ですね、汝は」

艶やかな指先でペチンと頬をひっぱたく。パチパチ瞬いたヘタレは、ウェットティッシュを握ったまま、無表情の眼差しをうるりと潤ませた。
これが本当に、あの人格崩壊者の肉親だろうか。

「汝こそ速やかに顔を拭きなさい。何と無様な面構えか」
「ずびずび。…すまん、いずれ整形する。母上の許可が降りれば直ちに」
「そんな事は吾が許しません。所で、今夜も吾の寝室で夜を明かすつもりですか?」
「…?当然だ。俺は王を守るべくこの世に生かされた身。王の妨げにならぬ距離で、日夜問わず守り抜く使命がありんす」
「…ありんす?」

アレの兄だけはある。
根本的にストーカー気質なのだろう。こればかりは、神帝には理解出来ない感情だ。
何せ根がネガティブ気質。

「ならば吾の寝台の中でも構わぬ事。最も近くでなければ、守り抜くなど出来ようもない」
「だ、だが、それは、そんな恐れ多い事は…」

無表情で狼狽しながらスマホを光の速さで弄っているところを見るに、ツイッターだかブログだかに浮かれた書き込みをしているに違いない。


【速報】遂に寝室に誘われた(照)【瀕死】


と言う、普段からは想像も出来ない乙女な書き込みで、フォロワーの生温い励ましと祝福を浴びるのだろう。
昨日は昨日で、『彼が食べかけのトンカツを食べさせてくれた』と言う書き込みで、燃え上がる祝福が湧いたばかりだ。まさかそれが、生焼けだったから…と言う理由だと知ったら、どうなるのか。

「吾は少し休みます。汝は社長に事の次第を伝えてから来なさい。判りましたね」
「何と。俺に王から離れろと言うのか?駄目だ、一秒たりとも離れたくない」
「だったら今すぐ部屋に入り込んで伝えて来て下さい。ご褒美に、お昼寝中は汝を抱き締めて眠る事にします」

無表情で素早く消えた黒装束を見送り、腕を組んだ男は疲れた表情で、けれど微かに微笑んだ。

「全く、あれに押し倒されるのを期待していたら寿命が尽きてしまう。…ナイト様には申し訳ありませんが、吾も立派な雄なのでお許し願いましょうかねぇ」

ドアが開き、颯爽と出て来た黒装束に満足げに頷いた男は、その背後で蒼白な表情で仁王立ちしている我儘社長には一切構わず、優雅に消えていったそうだ。











「献身的に介助しとるところ難儀だが、少年よりも師君の容態の方が急を要するんだがのう」

呆れた様に何度目かの台詞を呟いた保険医に、ボサボサの黒髪に無精髭を生やした男は、虚ろな眼差しを向けた。

「ンなもん掠り傷だ。放っとけっつってんだろ」
「その台詞は聞き飽きたわ。だが師君、少年は暫し起きんぞ。察するに、明日まで眠っておろう」
「あ?何でだよ。マーナオに怪我はねぇっつってたろ」
「うむ。その件だが、こうまで起きぬ理由が判ったんじゃ」

見た目に似合わない口調で、やれやれと肩を竦めた白衣に朱雀の眉が寄った。近頃手入れをしていないらしい眉毛は若干太くなって、精悍さを増している。
きゅっと眉間に皺を寄せた朱雀は、ベッドを仕切るカーテンの向こう側を示した保険医に従う形で、渋々立ち上がった。


「よう、久し振りだな」

窓辺の椅子に腰掛ける保険医から注意を反らしたのは、想像もしていない男が佇んでいたからだ。

「高坂…」

朱雀とは違う本物のブロンド、狼かライオンの鬣かと言った風体にセットされた金髪を暫し無言で眺める。嘲笑めいた笑み一つ、ボリボリと頬を掻いた男は息を吐き、一言。

「何っつったら良いか…すまん。まず謝らせろ」
「…は?」
「うちの馬鹿共が相当迷惑掛けたな。一人残らず親父…いや、お袋から絞められてる筈だ。怒りはそれで収めて欲しい」

何の話だ、と目を細めた途端に、納得した。夏休みの一件を、彼は今頃知ったと言う事か。
怒りも何も、瑪瑙以外には興味がないので今の今まで気にも留めていなかったが、謝罪したいのであれば勝手にどうぞ、だ。今はそんな事よりも、保険医の話が聞きたい。

「…オッサン、マーナオが起きねぇ理由って何だ」
「ディアブロの話を聞かんで良いのかの?師君も間接的には当事者だろう?」
「光華会の構成員がどうあれ、過ぎた話だ。…どうせ糞親父が手ぇ回したんだろーが。自分ンとこの手下の管理が杜撰だったっつー馬鹿げた弁解なら、余所でやれ。生憎そこまで暇じゃねー」
「ちっ、可愛げのねぇ餓鬼が。…まぁ良い、お互い手に余る組織を管轄する立場だ。揉め事は早期解決に越した事はねぇ」
「は。高が日本のマフィアを、この俺が一々相手すっかよ」
「そりゃ有り難い。狭い島国の微々たる組織だ、先々も手加減願おうか」

言葉の割に面厚かましい男、二歳年上の中央委員会副会長は言葉通りの人間ではない。
世界最大組織であるグレアムを、一世紀程前に迫害し一族抹殺にまで追い詰めた公爵の血を引く、恐ろしい男だ。

何せ、あの叶二葉の従兄に当たる。余り知られていないのは、叶二葉の父が公爵でありながら出奔し、秘密裏に子を成していた事が起因しているらしい。
高坂日向の母親は、叶二葉の父親の腹違いの妹だと聞いた事があった。

「けっ。オメーが直々に来た理由は、ンな下んねぇ謝罪だけじゃねーだろ」
「セントラルルーフから見付かったもんだ。その確認に、な」

アジア最大組織とは言え、グレアムから見れば有象無象でしかない立場は理解している。高坂からの形ばかりの謝罪を受け入れておいたのは、そう言う大人の事情もあるのだ。

己の成長に遠い目をしつつ、ゴソゴソと何かを取り出した高坂副会長の左手を見た。

「ただのゴミじゃねぇか、巫山戯けてんのかオッサン」
「誰がオッサンだ、おい」

アルミ加工されたプラスチックプレート、良く見るサプリメントや薬などの包装紙だろう。校舎最上階の空中庭園は、国内には生息していない珍しい品種の植物が所狭しと植えられている。
中には既に絶滅している品種を極秘で復元したものや、品種改良で誕生した全く新しいものもあると言う噂だが、何せ立ち入り禁止なので真実は定かではない。

瑪瑙が足を滑らせた瞬間、頭が考えるより早く体が動き、守らねばと無意識で飛び降りた。
辛うじて硝子屋根を突き破る瞬間に抱き寄せ、外見は無傷で助け出す事が出来たが、保健室へ運び込むまでの記憶は曖昧だ。全身打撲の上、体中に硝子片や枝が突き刺さっていた朱雀は、瑪瑙を保険医に預けたと同時に意識を失った。

だから勿論、高坂の差し出すゴミがあの場にあったか否か、覚えていない。

「確かにゴミっちゃ、ゴミだ」
「…薬?」
「安定剤だ」
「んなもん、何で」
「凄ぇ顔色だぜ大河?確信に近い心当たりがあるなら、わざわざ俺様が説明してやる必要はあるか?後輩を追い詰めて喜ぶ趣味はない」

ゴミを俯く朱雀の頭へ放り、踵を返した長身はそのまま開き戸へ手を掛け、顔だけ振り向いた。

「俺様も、あの人も・な。これで正真正銘最後だ、精々頑張れ。一つ、良い事を教えてやろう」

自己嫌悪と憤怒で瞬きも忘れた朱雀が僅かばかり顔を上げると、唇の端に笑みを滲ませた男は戸を掴む手に額を当て、横顔だけで呟く。

「お前もチビも可愛いもんだ。ついでに言えば俺様も嵯峨崎も、テメェの嫌いな二葉もあの人のテストを死に物狂いで乗り越えたが…山田太陽ほど、酷い目に遭った人間はそうそう居ない」
「…これ以上酷ぇ目なんざ、あって堪るか。どうなってやがる、あの野郎の人間性疑うぜ」
「ま、それに関しては庇う気にもなんねぇ事実だが、あの人は嫌いな人間を苛めたりしねぇから。帝王院神威が一番の被害者だと思って、諦めろ」

満面の笑みで消えた高坂日向の言葉には、含みがあった気がする。眉を目一杯寄せれば、肩を震わせながら口元に手を当てていた保険医に気付いた。

「物は言い様だのう…くく」
「何キモイ笑い方してやがる、オッサン」
「オッサンではない。ジーサンじゃ」
「は?頭オカシーんじゃね」
「何、事実だからの。…然し一番の被害者は今回、恐らく天神じゃろう。年寄りを放っておくから、痛い目を見るんじゃ」
「おい、何ほざいてやがるテメェ」
「それは睡眠薬でも安定剤でもない」

つかつかとカーテンへ向かう白衣が靡き、シャッとカーテンを開いた保険医は眠ったままの瑪瑙を背後に、朱雀へ振り返る。

「神の調合せし秘薬『アルザーク』」
「…あ?」
「天神の企てを悉く妨げ、庶民を王子として甦らせるべく導かれた最終局面だわ」

歌う様な声音・だ、と。

「テ、メ…俺に…何、し…やがった…」
「案じる必要はない。師君は天神によって試されたが、最早全てが儚き絵空事よ」

白濁していく意識の中で、妖しげに笑う男の唇を最後に、世界は途切れた。


「いつの世も、神と名の付く生き物は気紛れだ。…そう思われんか、マスターノヴァ」
「森羅万象は有限でしかない。有限に刻まれし轍に偶然など存在せず、須く書かれた宇宙の物語だ」


カラン、と。
転がり落ちた注射器が鈍く、光る。





「それ即ち、生徒の幸福を願わぬ理事長が存在せぬ様に」
「義兄さんの場合、孫達が構ってくれないから不貞腐れてるだけだろ」
「まぁまぁ、二人共もコーヒーでも嗜まれんか」
「あ。叔父さん、俺は砂糖メガ盛りでお願いします」
「もきゅもきゅ。ジーサン、茶菓子はテラ盛りだぞ」
「師君にジーサン呼ばわりされる覚えはないのう、御隠居よ」


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