可視恋線。

荒れ狂う大海原に稲妻が落ちます

<俺と先輩の仁義なき戦争>




「テメェ、覚悟は出来てんだろうなぁ」
「ええ、全ての責任を自覚しています」
「良い度胸じゃねぇか!」

派手に殴られた長身が吹き飛び、見ていた全員が目を逸らした。

「ううう、うがー!!!むぐっ、がぁ!ぐるる…!」

拳を握り締め、ぶるぶる体を震わせている黒装束の男は、凄まじく暴れ回った果てに猿轡を噛まされ縛られて尚、諦めていない。

「はわわわ、スゥたんスゥたん、それ以上の暴力は良くないにょ!まっつんが死んじゃうなりん、少女漫画をこよなく愛する繊細な李先輩がケダモノに!あわあわ」
「テメェは黙ってろ糞オタク!何ならテメェも殺すぞ、ゴルァ!」
「…あ?何かほざきやがったか大河ぁ、テメー如きが総長に何だと?やんのかコラァ、上等だ!この俺がぶっ殺してやんよ糞餓鬼!」
「ぷにょ!お止めなさいませイチ先輩っ!」
「ユウさん退いて!てんめー、馬鹿朱雀!この俺が殺してやるよお!」
「ハヤト、貴様の手など必要ない。俺がヤります…」
「きゃー!いやん、何でうちのワンコ達はこんなに短気なんですかっ?誰か止めてー!カイちゃんカイちゃんっ、」

サラッサラな銀髪を靡かせ朱雀の胸倉を掴んでいる無表情な美貌を認め、オタクは眼鏡を吹き飛ばした。

「カイカイ…何してらっしゃるにょ、スゥたんに俺様攻めだなんて…!」
「どうした俊、そなたに危害を与える者は私が速やかに消してやろう。案じるな」
「バカン!手を離しなさいっ、この腐れ神帝バ会長がァ!ああ、もう!メニョたんが居なくなって大変な時にっ、…イイ加減にしやがれコラァ!」

ぶちキレたオタクが凄まじい眼光でカルマ幹部を蹴り倒し、無表情な銀髪の胸倉を掴む。

「俺を舐めてんのかァ、テメェさんよォ?調子に乗るのも大概にしとけゴラァ、ああ?全身の骨ェ、外傷なく引っこ抜いてよォ、全員ゼリー人間にしてやろうかァ?」
「「「「スいませんでした」」」」

チビったカルマ幹部と無表情の銀髪が素早く正座し、恐怖で凍り付いたギャラリーに構わず、極道顔で朱雀へ張り付いた男は、

「大河、俺はお前の味方だからな。俺は友達を必ず助ける腐男子だからっ、どうか落ち着いて欲しい!ふぇ、暴力反対ですにょ!うっうっ」

鋭い殺人犯的眼差しで嘆いた男の前、チビり掛けていた朱雀は顔色が悪い。外傷なく全員の骨を引き抜けるカルマ総長に、誰もが震えている。暴れていた黒装束すら、だ。

「ナイト様、此度の一件は吾の監督不行き届きが原因で相違なき事。ジュチェの咎めは正当なものです…。どうぞ、お心を痛めないで下さい」
「まっつん…!うっうっ、元はと言えば僕が迸る萌心でスゥたんに意地悪した所為なりん。悪いのは僕ょ!腐り果てた僕の脳味噌が悪いにょ!うぇぇぇん、鞭でボンレスハムみたいにグルグル巻きにされてコンクリに叩き付けられなきゃ、死に切れないのでございますん!」
「よし来たっ!はいよー」

きゅぴんと目を光らせた山田太陽が恐ろしい速さで鞭を振り上げ、光の速さで極悪面をグルグル巻きにした挙げ句、バッチンバッチン、あっちこっちのコンクリートに叩き付けた。
凄まじい光景に誰もが反応出来ない中、デコに光る汗を軽やかに拭った平凡は、流血しながらビクンビクン痙攣しているオタクを踏みつける。

「どうだい俊、イったかい」
「は、はふ、ハフハフ…。ご、ご主人公様ァ、お代わりィ!」
「ふ、この腐った豚め!鞭は一ヶ月に一回だ!来月まで待つんだねー」
「ハァハァ、そ、そんな、放置プレイだなんて…!じゅるりらじゅるり」

変態しか居ない。
朱雀など可愛いばかりの、恐るべき変態が二人。

「…結局、メェはどうなったの?」
「手分けして夜更けまで探したにも関わらず見つからず、朱雀の君ブチギレ、猊下が鞭で悦んで、今に至る…かな?」
「我慢の限界だ」
「か、かわちー?」
「海陸、この空気に流されたら駄目だ。また有耶無耶のまま、支離滅裂になってしまう」
「だよね〜。俺らがパンクしてる間に、支離滅裂なのに物事進めてく人達から、いつの間にか乗っ取られてばっかだし」
「説明を求めたってどうせ教えて貰えそうにないんだ、僕らは僕らで行動しないと…!」

燃えている川田は開き直ったらしい。あらゆる意味で、開き直った彼は最強なのだ。宇野しか知らないが。

「っ、天の君!恐れ多くも左席委員会会長猊下と知りながら、敢えて帝君として接しさせて頂きます!宜しいですね!」
「はふん。は、はい、遠野俊と申しますっ」
「存じていますとも!自分は川田有利っ、生涯川の流れが如く有利に生きる、読んで字の如く普通科一年Bクラス所属っ、5月28日生まれ双子座の16歳っ。お見知り置きを!」
「ひ、ひゃい!宜しくお願いしますっ」
「時の君!」
「ははは、はい?!えっ、俺?!」

ギラッと山田太陽へ顔を向けた川田は、凍える眼差しに恐ろしい笑みを浮かべ、正に女王様だった。ビクビク様子を伺うオタクを余所に、痙き攣った山田太陽は鞭を落とす。

「左席委員会の副会長閣下と存じた上で、貴方々に物申します」
「おっほい?!な、何かなー?」
「アンタら良い加減にしろよ、馬鹿野郎!」

ガッと足でコンクリートを蹴りつけた川田に、宇野以外は呆然一色。
村瀬に至っては何度も目を擦り、意味もなく辺りを見回している。

「僕らはアンタらの玩具じゃない!人間だ!少しばかり成績優秀だからって、人を見下すのも良い加減にしな!これが裁判だったら僕は悩まずこう言うよ!」

松原瑪瑙が世界一恐ろしいと言う、鬼の表情で牙を剥いた川田に、オタクと平凡は腰を抜かした。

「擦り潰しの上、火炙りの刑だ!」
「「ヒィ」」
「先輩だからって容赦しない…!今すぐ真面目にメェを探さなければ、年上だろうが極道だろうが何だろうが、ミンチにしてハンバーグにしてやる…!」

ごりごり、靴の裏でコンクリートを擦り潰しながら死んだ魚の目で全員を見回した川田は、死んだ魚の目のまま『まずは下半身から潰す』と呟いたのだ。
これには全ての男達が股間を押さえ、打ち合わせた様に川田から目を逸らす。川田のマジ切れを久し振りに身震いしながら見ていた宇野は、

「えーっと、川田君は冗談っぽく言ってるけど、昔、俺を襲おうとした工業科のヤンキーの大事な所を、ミキサーに掛けようとした事がありま〜す」
「「「「「!!!!!」」」」」
「然も、思い通りにならないと癇癪起こす一人っ子のA型だから、追い詰めれば冗談じゃなく爆発するかもです。皆のバナナが、グチャっと」

笑顔の宇野に、フッと笑みを浮かべた全ての男達は跪いた。

「やる気がない人はミキサールームにどうぞ〜。宇野海陸15歳、やる気で漲ってます!」
「不肖ワタクシ遠野俊16歳、ちんちんに懸けて川田きゅんに従いますん!」
「同じく山田太陽16歳、オカマにはなりたくないです!」
「帝王院神威19歳、仰せのままに」
「嵯峨崎佑壱18歳、全力で松原を探すっス、はい、コイツも頑張ります」
「阿呆らし。…ちっ、判った、判ったから抓るな馬鹿犬!」
「神崎隼人16歳、チンコの為に頑張りまあす、あは」
「錦織要16歳、僭越ながら尽力します」
「祭美月18歳、吾も尽力致しますとも」
「ぐるる…。ぷはっ。李上香19歳、王に従い俺も尽力しよう」
「おや、ではハニーの大事な所を守るべく私も仲間に入りましょうかねぇ?叶二葉18歳、乙女座のB型です。こんばんは」

一人だけ、今まで居なかった男が混じっていた。
にこにこ愛想笑いも麗しく、優雅に眼鏡を押し上げながら、某平凡の股間を揉んでいる。公然猥褻だ。

「…ふん、これから少しでも巫山戯けたら、容赦なく擦り潰すから。…特に朱雀の君!アンタもだよ!」
「んだと…?調子ぶっこいてっとマジで殺、」
「はん、調子が何だって?僕はメェにミキサー持たせるつもりだが?」
「…大河朱雀17歳、一生懸命頑張ります」

完勝だ。
ガクリと朱雀がうなだれた瞬間、リスキーダイス総勢が咽び泣き、今此処に、最強女王様親衛隊が誕生した。

「ゆりりん…!ワシはゆりりんの為なら死ねる!うぉーっ、村瀬凛悟17歳っ、ゆりりんの為なら擦り潰されても構へんでー!ぐふっ」

女王様に抱きつこうとした勇者は股間を容赦なく蹴り上げられ、崩れ落ちた所を情け容赦なくゴリゴリされる。
言わずもがな、大事な部分だ。

目を逸らした女王様親衛隊達は、村瀬凛悟と言う勇者の名を強く胸に刻み込む。
幸せな表情で涙している勇者は、女王様から無表情でゴリゴリされながら、やはり幸せそうだ。

新たな最強ドM候補が誕生した。

「村瀬きゅん、チミには腐男子の才能があるにょ…!是非とも左席に欲しいっ」
「あの打たれ強さ、カルマに欲しいぜ…ゴクッ」

眼鏡を光らせるオタクと紅い双眸を光らせるワンコに、川田は冷ややかな眼差しを眇める。素早く口を閉ざした二匹は股間を隠し、ぷるぷる頭を振った。
雑談はミンチへのプレリュード。

「もう一度、初めから全部教えて下さい。僕と海陸にも判る様に、最初から!今回の件に天の君が関わってる事は判ってるんです」
「ほぇ」
「僕らだけ何も知らずに…本当は、先輩方が敢えて僕らに知られない様になさっているのは、判っています!でもっ」
「え、えっと、それは…。最初からって言われても、僕ちん根暗地味平凡ウジ虫馬鹿腐男子なので…」
「………合い挽き…」
「ヒィ」
「炒めよーおー、ミンチー、しーお胡椒でー」
「ヒィイイイ、キ●レツ大百科?!生まれる前のアニメを知ってるなんて…!」
「俊、確実にお前さんのチンコが最初の犠牲者やないか〜い」
「何で関西弁やねーん」
「「ルネッサーンス!」」
「ヒィッ」
「すいませんでした!」

ハイタッチを決めた左席会長&副会長は深々土下座し、青筋を立てた川田は宇野から宥められている。

「ふぇ、うぇ、じゃあ最初から最後まで曇りなき眼鏡でお話しします…、ひっく」

怯えながら語り始めたオタクの話で、風雲急を告げる今年の最大規模のタイフーンは、漸く豆粒ほどの姿を見せたのだ。








それは目には見えない、まるで一陣の風。


春風の様に貴方は現れた。
そして竜巻が如く全てを呑み込んで、今。


確かに俺の心へ、強く根を張りました。




「本当に此処で良いのかな?」
「はいっ。見ず知らずの俺に親切にして下さって有難うございました!」
「なーに、旅先で出会った可愛い後輩の為だ。だがまた迷子になっても、次はヒッチハイクはやめなさい」
「…お恥ずかしい限りです」
「じゃ、またね」
「はいっ、お気をつけて!リンちゃんランちゃんにも宜しくお伝え下さい!」



不可視だったそれを可視した瞬間、荒れ狂う嵐は息吹を収め、穏やかな日差しと共に全身へ流れ込んで来たのです。

豪雨で氾濫した河川敷の様になすがまま、台風で薙ぎ払われた雑木林の様に流されるがまま、抵抗する間もなく気付けば、俺は貴方でいっぱいになった。



目を逸らしても意味はないんだ。
梅雨前線が日本を包み込む様に、だから当たり前の様に、貴方は俺を包み込んだけ。
叩き付ける雨を災害と嫌うか、恵みの雨と受け入れるか、どちらにしても遠ざければカラカラに渇き切ってしまう。

穏やかな風は燃やし尽くす灼熱を以て、ひたすら、あるがまま、傲慢に、力強く。




「誰だい、こんな時間に…」
「俺だよっ、瑪瑙だよっ、祖父ちゃん!開けてー、瑪瑙だよぉ、うっ、祖父ちゃぁん」
「…瑪瑙?!おぉう、こんな時間にどうしたんだ?友達と旅行中だと…ああ、こんな所で話す事じゃない。ほれほれ、中に入りなさい」
「ひっく、祖父ちゃん、祖父ちゃぁん」
「何があったか知らんが、酷い顔だ。また母さんに叱られたか?腹は減っとらんか?そうだ、風呂に入るか?…大きくなっても泣き虫は変わっとらんなぁ」



まるで春風の様に現れ。
吹き荒ぶ嵐の様に去っていった、それは灼熱の朱い風。



これ以上の熱を、知る必要はない。




「メェを探さなきゃ!多分きっと、あそこだ…!」


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