可視恋線。

悪天候こそ荒波に揉まれて強くなれ!

<俺と先輩の仁義なき戦争>




勅命

ターゲット:大河朱雀
ミッション:真実の愛を貫く強い意志。

本日、6月6日18時06分を以てミッションを開始する。尚、以降は各班それぞれ所定の位置に待機。想定外の事態にも臨機応変に対処するよう。
ターゲットの帰国が確認され次第、本件終了とし、以降は生暖かく見守る事とする。




作戦の改編

本日、7月28日早朝、未曽有の事態に陥った。我々S部隊は、直ちに軌道から逸れたミッションの修正を執り行う。


旧ターゲット:大河朱雀、変更
新ターゲット:松原瑪瑙


可及的速やかに各班は旧ターゲットの補助を行い、ターゲットの機嫌を損ねる事がないよう全力を以て慎重に行動する事。
万一、ターゲットに知られた時は躊躇わず死を選べ。

尚、ミッションの進行具合によるフラグ発生に於いては、著しく反萌的なもの以外は回収を許可する。
総受けフラグの発生を祈る。


S部隊に幸あらん事を。



S部隊隊長:T野S










7月29日、AM9時。

「百人体制で、何の手掛かりも掴めへんとは…」
「姐さんからまだ連絡もないんやろ?」
「連絡も何も、携帯持ってへんやん。最近スマホ持ったばっかや言う話や、誰かのケー番覚えてるっちゅー線は、薄いやろな」

隈だらけの疲労困憊状態で突っ伏した、瀬田、松田、村瀬の耳に凄まじい音が割り込む。同じく隈をこさえた朱雀が、テーブル代わりのカラーボックスを蹴り飛ばした様だ。
誰よりも駆け回ってはパソコンに齧り付いていた彼は、ここ数時間、一言も発していない。

「全く何の手掛かりもない筈がない。メェが自分から出て行く理由が、必ずあるんだ。…それが判れば推理出来るのにっ」
「んー、どうしたってそこに戻るんだよね〜。ゆう君が外に出るなって言ったんなら、あのまっつんが言い付けを破るとは思えないし」

サトミとミナを侍らせた宇野が呟けば、川田の表情が苦々しく曇る。
昨日から廃ビルに籠もっている二人も、何とか不良らに溶け込みながら情報を纏めていた。

リサと言う美女を呼びつけた朱雀が何やら怒鳴っていた時は、話を聞いて川田が怒り、その凄まじい説教っ振りに不良らを怯ませた程だ。
川田の凜とした実直な物言いに感銘を受けたらしいリサは、以降、甲斐甲斐しく川田に飲み物を用意したり、肌を露出するなと怒られ、素直に清楚なワンピースへ着替えたりしている。派手な化粧も今朝はナチュラルメイクで、最早別人の様だ。

「有利君、少しは休まんと体に悪いで?あ、私さっきお弁当作って来たんや。よ、良かったら食べて?」
「え、僕に?」
「う、うん。料理、あんま得意やないねんけど…心は籠もってるからっ」
「あ、うん。わざわざ有難う。女の人から手料理振る舞ってもらうのなんて、母と海陸のお母様以外初めてだ。嬉しい」

恥ずかしげに首を傾げて笑う川田は、学園では余り見られない好青年然している。ギリギリ歯軋りしながらそれを嫉妬の目で凝視している村瀬は、下手に口を出して川田から嫌われるのを恐れ、リサと熱い火花を散らしていた。
瀬田に並ぶ美人顔の宇野は真顔で巨乳フェチを暴露し、自分の性癖を熱く語っては松田を泣かせ、全ての不良から「エロの神様」と崇められる様になる。宇野のギャップを気に入った他の女性陣は、まめまめ煩い朱雀を早々と見限り、今や宇野のハーレムと化した様だ。

乳の間に宇野の頭を挟んだサトミ、宇野の手を胸に押し当てるミナ、それに動じない宇野。姉妹に挟まれた女系家族の長男は、その程度は日常茶飯事らしい。
はしたない女達を冷めた目で一瞥するだけの川田は、宇野を理解しているので間違いはないだろうと静観していた。宇野は囂しい姉妹に挟まれた幼少期のトラウマから、本心を隠す傾向がある。一種の対人恐怖症と言うか、現実の女には欲情しないと川田には暴露していた。勿論、現実の男など論外だ。

瑪瑙は極めて平凡な上に六等身なので、男臭さがない。宇野が気を許す最大の理由、だろうか。

「もっかい、おさらいしてみよっか。何か見落としてるかも知れないよ、かわちー」
「カイリ、何処触ってんの?もう、エッチやねぇ」
「あたしも触ってや?サトミばっか狡いでっ」

最初は宇野を警戒していた不良らも、今では羨ましげに宇野を見つめている。恐ろしい威圧感を放つ朱雀から目を逸らしている、と言った方が正しいだろう。

「まず、俺とシゲ君が出掛ける時までは、まっつんは部屋に居た。ほら、俺、出掛ける前に着替えただろ?口開けて寝てるまっつんの阿呆面見たから、間違いないよ…朱雀の君、ごめんなさい」

無言で青筋を立てた朱雀から睨まれた宇野は、真顔で頭を下げた。ルームメートだ。毎晩見飽きた瑪瑙の寝顔だが、心の狭い変態不良にそんな事を言えば間違いなく殺される。
無精髭にも構わず、良く見たらプリン化している金髪を草臥れさせている大河朱雀は、過去の自信に満ちた快楽主義さが欠片もない。サトミやミナが迫ろうが、煩わしげに振り払い歯牙にも掛けないのだから驚きだ。

彼曰く、女性の誘いを断るのは三回目らしいが。

「それから僕は寝てしまって、起きたら海陸は居なかった。メェの寝顔は…確認してない」
「ワシはユートに蹴り起こされたんや。ゆりりんの寝顔見てる内に、いつの間にか寝とったんやな」
「うちがバイトに行く前、姐さんが起きて来たんや。そん時に外には出らんで言うて、…あれ?せや、総長から連絡貰て帰ってから、うち姐さん見てへん、かも…」

パイプ椅子に力無くうなだれていた瀬田が素早く起き上がり、目を見開いた。
首を捻った村瀬も何か言いかけて、口籠もる。

「そうや、ユート、お前テレビがどうの言うてたな」
「テレビ?…ああ、帰って来てテレビ付けたらチャンネルがスポーツ番組になっててん。うちのテレビ、視界センサー付いてるから、一時間以上見てないと勝手に切れるし…姐さんが付けたまんま寝たんか、切ったんやろ思て」

川田と宇野が同時に目を見開き、素早く朱雀を見つめた。

「朱雀の君がゆう君に電話したの何時?!」
「瀬田がバイトに行ったのは12時過ぎだったね?帰って来たのは何時っ?誰か、昨日の新聞持ってきて!そのスポーツ番組が何時からやってたか、今すぐ知りたいんだっ」
「ゆ、ゆりりん?どないしたん?ユートが帰って来たんは、一時半やなかったかいな…」
「メェがスポーツ番組を見ないで寝るなんて有り得ないんだよ!毎晩、10時の番組見てから寝るんだ!」

川田が怒鳴り、朱雀が漸く動く。把握し切れない他のメンバーを余所に、ネットで番組表を調べたらしいサトミが携帯を宇野へ渡した。

「昨日の夜中の番組表や。スポーツ言うたら、5チャンネルしかあらへん」

深刻な表情でそれを見つめた宇野が起き上がり、川田へ振り返る。

「ラブ西スポ、12時45分までだって!」
「だったらセンサーが切れるのは早くても1時45分以降、やっぱり…!」
「え?え?ゆりりん、どう言う事?!」
「つまり、12時から12時半までの間に靴を履く理由が出来た、っつー訳だ」

瑪瑙の荷物を漁っていた朱雀が財布を覗き込み、村瀬へ向き直った。

「まめこが出掛けたんじゃなく、靴を履いただけだったら、答えは一つしかない」
「一つ…そうか!誰かが来たんか!あんな時間にチャイム鳴ったら、ワシらの誰かやと思う筈や」
「うちのインターフォン壊れとるさかい、ノックせな聞こえへんで?」
「…ユート、今重要なんはそこやないんちゃうか?アップル達が起きた一時半よりもっと前、お前がバイトに出た後すぐに姐さんを攫っていきよった人間がおる、っちゅー話や」
「お、おぉ、そうか。シゲ、お前たまに鋭いわ」

お馬鹿な瀬田はもう黙り込み、空気を読んだらしい。腕時計、学生証のカード、瑪瑙の荷物を並べた朱雀が腕時計を掴み上げ、振りかぶりコンクリートの床へ叩き付ける。

誰もが唖然とする中、弾け飛んだ腕時計を更に足で踏みつけた朱雀は、無惨な状態の腕時計の残骸から何かを掴み上げ、目を眇めた。

「カード持ってってりゃGPS探知が出来たが、まめみの財布ん中に入ってやがった。一か八か、コイツに頼るしかねぇ」

朱雀の指先に、小さな金属の破片がある。誰もが目を凝らす中、村瀬だけが反応を見せた。

「それって…ちょ、マイクロコアやないか!アンタこんなもん姐さんに持たせとったんか?!」
「マイクロコア?」

痙き攣った村瀬の台詞に川田が首を傾げ、その仕草に涎を垂らした村瀬は頭を振り、一生懸命真面目な顔を作る。
朱雀が失踪して以来、リスキーダイスを実質指揮していた男とは思えない阿呆面に、瀬田以外は殆ど気付いていると思われた。

「あんな、フラッシュメモリとか最新式のスマホに入っとる記憶媒体で、昔のmicroSDの十倍は軽く保存出来る代物やねん。言うても、この状態ではまず見らんな」
「へー。流石は工業科。そう言えば電気屋の息子だったね。松田から聞いたけど、工業科のトップで本当は君が総長だったんだって?」
「ま、まぁな。ワシ理系には強いねん」

朗らかな性格でファッションセンスもあり頭も良く、ボクシングで鍛えているのでタイマンの喧嘩にはピカイチ強い。
そんな皆が憧れる村瀬凛悟が、堅物な優等生に鼻の下を伸ばしている。もじょもじょと恥ずかしげに俯いている村瀬に、ツンと顔を逸らした川田の頬が赤い。甘酸っぱい雰囲気だ。

「おいそこのホモ、テメェらの気色悪い恋愛なんざどうでも良い。これの中身をとっとと調べろ」
「気色悪いて!失敬な!アンタかてホモやないかっ。あ、や、バイ?」
「…メェにそんなもの持たせてたなんて、ロクな理由じゃないんだろ、どうせ!可笑しいと思ったんだ、オメガの特注って言ってたから、そんな高いものを簡単に贈るなんて確実に下心があるっ!」

ビシッと朱雀を指差した川田は、然し村瀬の背中に隠れていた。抱き締めたそうに手をわきわきさせる村瀬を、リサが汚いものを見る目で見つめている。
朱雀と出会う前、リサが村瀬と付き合っていたのは初期メンバーだけが知る所であり、まさかホモに走るとは思わなかったと言う幻滅と、相手が川田だと言う嫉妬が折り混ざっている。惚れ易いリサが気変わりするまで、この光景は集結しないだろう。

「下心だと?…んなもん、あるに決まってる。まめべすくの細腕に俺の時計を巻き付けんだぞ、考えただけでビンビンだ」
「最っ低」
「が、まぁ、理由はそれだけじゃねぇ。カルマが彷徨いてやがった。また誘拐でもされたら堪んねーからよ」

瑪瑙が攫われた事は川田も宇野も聞いている。その件があり、スマホを朱雀からプレゼントされたとも聞いていた。

「ソイツは太陽電池でバスパワー供給する。今ん所は動いてる様だが、監視映像は期待してねぇ」
「監視?!まさかっ、メェにそんなもの付けてたなんて…!」
「は、はは。だったら盗聴機能も備えてそうだな〜、なんて」

片眉を跳ねた朱雀は何も言わないが、宇野は自分の発言に確信を持った様だ。川田は最早言葉もなく怒りに震え、朱雀から金属片を預かった村瀬は苦笑いしか出来ない。

「何処まで音拾ってるか判らへんけど、これ壊すの結構勇気要ったやろ?何せ姐さんのモンやもんな」

むっつり黙り込んだ朱雀に睨まれても、楽しそうな表情の村瀬は黙らなかった。

「健気な総長の為にも、一皮脱ぎたい所やけど…。一般人がコレ扱うのんは、かなり無理あるで然し」
「ただの破片だもんね、これじゃ。どうやって中身開いたら良いのかな〜?」
「さあ、オトンに聞いてみらんと…。ワシ家に帰ってくるさかい、」
「あは。正義の味方あ、推参〜!」

村瀬の手から金属片が消え、代わりにポーズを決めた長身が灰メッシュ混じりの金髪をわざとらしく掻き上げる。朱雀の目つきが恐ろしく悪くなったが、彼は笑顔だ。

「帝王院学園二年S組万年二番、この神崎隼人様がサクッと解析してあげよお!有り難く思えー」

きゅぴん☆とポーズを決めた彼は、何故か新撰組のコスプレだった。胸元に小冊子が見える。

「左席慰安旅行…しおり、やて…」
「修学旅行かい」


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