可視恋線。

雲間から覗く穏やかな晴れ模様

<俺と先輩の仁義なき戦争>




「まめみ〜の、た〜めな〜ら、えんやこ〜ら♪」

豪快にハンドルを捻る男は、額にネクタイを巻いている。居酒屋で見る酔っ払ったリーマンお父さんだ。

「俺の〜熱いぃ血潮〜が、よぉ〜おおう…っとくりゃ!お前泣かせ〜狂わ〜せぇるぅう」

ザ・演歌。
無愛想な美貌でハンドルと拳を握り締めた朱雀は、いつの間にか熱い男の道を突き進んでいたらしい。
小5漢字ドリルに歯が立たなかったとは思えない、渋い歌い回しとパンチの利いた歌唱力だ。オーディオから流れていたアニソンを叩き切り、以降、迸るパッションのまま熱唱している。

「荒波ぃ掻き分けりゃ〜、っと!惚れた〜女ぁの、胸恋しぃいいい♪男、男っ、男なんてぇよぉ〜、ガキのまんまさぁあ〜♪」

東へ東へとかっ飛ばすシルバーフォルム、燃える独唱を遂げ晴れやかに首筋の汗を拭う男は、タキシード姿のおっちゃんだった。アルマーニのネクタイもまさか額に巻かれるとは思わなかっただろう。
背後へ遠ざかる青空を背に、ハンドルを豪快に捻った朱雀はアクセルを目一杯踏んだ。

「あ、佐渡島が見えて来た。待ってろマーナオ、ビンビンに張り詰めたオメガウェポン改を引っ提げて…ん?何だ?…自衛隊?」

車窓の向こう、日本軍のエンブレムを掲げた小型飛行機が迫って来る。

『そこのセダン!…セダン?何でト●タ自動車が飛んでるんだ?!』
『言ってる場合か!そこの無認可船舶、速やかに止まりなさい!…いや、船じゃないのか、あれは』
「あ?避妊化蛋白だと?誰がいつ避妊なんざした、ゴルァ!今まではともかく、これからは中出し上等だハゲ!少子化に歯止めを投じる俺を舐めんじゃねぇぞ、小日本!」

怒り狂う彼に、危機感や憲法の何たるかを教えるには、遅過ぎた様だ。





まめこー!
尻洗って待っとけよぉおぅおおおぉう!



「メェ?」

拳の利いた変態の、間違った日本語の叫びは全く届かず。

「あ。まっつん、寝ちゃったね」
「仕方ないて、いっぺんに色々あったさかい」

一年中炬燵に布団を掛けていると言う、古びたアパートの一室。男子高校生の一人暮らしにしては片付いている六畳間に、育ち盛りの男子高校生六人。

「食欲なさそうに見えたけど、ごっつ食いよったな。シゲとおんなじぐらい食べたんちゃうか?」
「アップルも結構食う方やけど、うち見とるだけで胃液がこう…喉まで上がって…」
「…すいません、うちの馬鹿が迷惑掛けて」

恥ずかしげに寝転がる瑪瑙の頭を叩いた川田へ、皆が笑った。
実家の用があると言う松田だけ食事もそこそこに帰って行き、頻繁に泊まりに来ていると言う村瀬は、遠慮なくベッドに転がっている。風呂から戻った瀬田は瑪瑙を抱き上げ、襖続きの四畳半へ連れて行った。

「わ、軽々!力持ち〜」
「瀬田、このまま此処に転がしといて大丈夫だ。馬鹿だし、風邪引く時期でもない」
「気にしなや。殆ど箪笥部屋みたいなもんやけど、コイツらしょっちゅう泊まりにくるさかい、一応、客用布団もあるんよ」
「ほなワシが布団出したるわ。川田か宇野、どっちか先に風呂入りや」
「何でうちん家でテメーが仕切っとんねん、毒リンゴ」

言い合いながらも楽しげな二人に、居心地悪げな川田が身じろいだ。不可抗力で夕食まで頂き、この上風呂まで借りるのに抵抗があるのがありありと見て取れる。
そんな幼馴染みの態度に笑いながら、宇野が立ち上がった。

「俺、クタクタだから先に入って来るね〜。ゆう君、二番風呂頂きまーす」
「おー。タオルは風呂場の棚ん中やで。何か判らんかったら言うて」
「海陸!お前は遠慮って言葉をっ、」
「川田はあれやな、真面目過ぎ」

笑う村瀬に顔を染めた川田は、平和な顔で寝ている瑪瑙を襖の向こうに睨みながら、炬燵で身を縮める。

「ちゅーか、堅物?」
「…普通、初対面でこんな迷惑掛けるなんて有り得ないじゃないか」
「そんなもん?大阪じゃ、知らん奴にも普通に話し掛けるで?知らんオッサンに指鉄砲向けたら、八割方『うぉー、やられたー』言うて派手に死んでくれるし」
「マクドでスマイル一つ言うたら、店員全員キモ顔で笑うてくれよる。コンビニでアイス買うて、温めますか聞かれる事もようあるしなぁ」

真顔の村瀬と瀬田に、吹き出し掛けて口を押さえた川田は、バラエティー好きだ。瑪瑙は運動音痴の癖に、野球やサッカーと言ったスポーツ番組が好きで、宇野はマイナーアニメか特撮、他には株価速報にしか興味がない。
モノマネの様な特番は皆で見るが、毎週あるバラエティーは川田しか見ないので、夜中に何度爆笑するのを耐えたか。

「ぶ…ぶふっ」
「「…」」

目を見合わせた瀬田と村瀬が、鋭い眼差しでアイコンタクトを謀る。
フッとニヒルに笑った男前な村瀬がゆらりと立ち上がり、スタンディングスタート状態で走り出す間際のポーズを取り、横向きでキリッと顔を引き締めた。

「非常口のマーク」
「?!?」
「〜からのぉ、赤信号!」

ビシッと背を正し両手を体に添えた村瀬に、川田は涙目で目を逸らす。やり遂げた顔で瀬田の肩を叩いた村瀬は遠くを見つめ、サラサラの髪を掻き上げながら立ち上がった優しげな顔立ちの瀬田は、

「何でこの道のりは果てしなく長く見えるんや。え?童貞やから?童貞喪失までの道程は険しい。ほんま、険しい…」
「〜っ」
「君の好きな赤いカクテルを一杯、…ママの瞳に乾杯」
「あきまへん瀬田はん、あたいには心に決めた人が居りますのや…!」
「何やと?!りんりん、誰や、うちよりええ男なんか?!」
「はい、赤と白のシマシマで、あたいを見守ってくれとる御方です…」
「く、食い倒れ人形じゃないか…っ!は、はははっ、あははははは!」

村瀬に縋りついた姿の瀬田と、シナを作りオカマママを演じていた村瀬がフッと笑った。

「こない滑りネタで…」
「絶滅危惧種や」

やり遂げた。川田を爆笑させた二人は成し遂げた表情でハイタッチを交わし、風呂から出て来た宇野の目が白黒する。

「な、何事?かわちーが悶絶してるんだけど」
「気にせんでええ。どや、麦茶でも一杯」
「君の瞳に乾杯」
「は、はぁ?えっと、有難う???」
「はーっはっはっ、うわーっはっはっはっ」

麦茶を渡され困惑気味の宇野に、泣きながら畳を殴りつける川田の爆笑が突き刺さった。


「うーん…かわちゃん、笑いながらローソク振り回しちゃ、いやー」

悪夢に魘される瑪瑙の寝言は、幸か不幸か誰にも届かない。





「うひゃ!朱雀が不正入国で捜査当局に連行されたぞぇ(*´Д`) うひゃひゃ、馬鹿すぎてテラワロスw」

シガレットチョコを咥え腹を抱えるオレンジ頭に、熱い眼差しで大阪城を見つめていた長身が面倒臭そうに目を向ける。

「うっせーぜケンゴ、大阪城公園の壮大な雰囲気がブチ壊しじゃねーか。マジ殺すぜ」
「あン?ジジ臭い城巡りに付き合ってられっか(`´)」
「ジジ臭い…」

しょんぼり肩を落とす長身を華麗にスルーし、誰もが振り向くアイドル顔に妖しげな笑みを浮かべたオレンジは、胸元のタトゥーを撫でながら肩を震わせた。

「くっく。朱雀め、暫く留置場で臭い飯喰ってやがれ´∀`」
「ケンゴ、今のお前は完璧悪人面だぜ」
「今回の俺の任務がショボ過ぎて物足りねーんだよ!(`p´) リスキーダイスの野郎、もうちょい歯応えあると思ってたのに(つД`)」
「エルドラド程度には遊べたんじゃねーのかよ」
「バッキャロー!最近のアイツらはタイヨウ君の調教で磨き掛かってっしょ!どんだけボコってもゾンビ並みに起き上がるんぞぇ、キモっ(((´д`)))」

鳥肌を掻きまくる相方に、土産物屋の屋台でポストカードを大人買いしたフレッシュグリーン頭は、いつでも面倒臭げに見える覇気のない美貌で呟く。

「あー、次は姫路城に行きたいぜ」
「勝手に行きやがれ!Σ( ̄□ ̄;) 俺はお好み焼き屋を制覇するぞぇ´3`」
「明石焼きで手ぇ打っとけ。同じ粉物だろ」
「くぉら、馬鹿ユーヤ!たこ焼きとお好み焼きは似て非なるもんだっつーの(`´)」
「違いが判んねー。…あ、山田が居るぜ」
「あぁん?」

指先す先へ振り返った高野健吾は、大阪城公園で誰よりも目立ちまくる美形と、その美形に鞭を奮いまくる平凡を見た。

「何で松原君から目を離したんだい、お前さんは!このまま見つからなかったらどうするんだ、阿呆!」
「ふう。公開SMも宜しいのですが、ご安心下さい。松原瑪瑙君には、遠野会長が張り付いてらっしゃいます。死ぬ事はないですよ、多分」
「ち!俊ばっかに楽しませてなるもんか。俺は俺の目指すルートを行く。ゲーマー舐めてると火傷するよー」

ちゅどーん!
麗しい美貌に手榴弾を投げつけた平凡が、鞭を片手に炎上する大阪城公園を背に颯爽と歩いていく。

「ケフ。流石は、私の愛するアキ。情け容赦ない連続攻撃です」

言葉なく平凡を見ていたギャラリーは、煤だらけながらも晴れやかな笑みで燃える服を脱いでいる美貌に気づき、頬を染めていた。

一連のとんでもない光景を目の当たりにしたカルマ幹部、高野健吾と藤倉裕也と言えば。
刑事ドラマのダンディー俳優が如く去っていく山田太陽と、ジャケットを消し炭にされた程度でピンピンしている叶二葉を見送り、ニヒルに笑う。

「…他人の振りだな、他人の振り(´`)」
「いつも思うけどよ、あんな副会長の元で良く生きてんな、オレら」
「普通の人間じゃ、左席役員は務まんねーって事っしょ(bー`)」
「つか、総長、朱雀を引き込むつもりかも知れねーって、カナメが言ってたぜ」
「…は?(・∀・)」

屋台で箸巻きを二本買った藤倉裕也に、目を見開いた高野健吾が動きを止める。

「あー、今回のはカルマ入団テストみてーなもんて事だろ。オレらん時は、こんな生温くなったぜ」
「んー…、俺らの時は、ユウさんから一人一人タイマンでフルボッコにされた挙げ句、カルメニア語叩き込まれたもんなァ(´`)」

遠い目をしているカルマ初期からの幹部である二人は、箸巻きをもさもさ貪りながらベンチに腰掛けた。

「んじゃ、平凡受けの相手に相応しいスペックまで鍛え上げるつもりって事かよ(*´Д`) あ、これうめーなw」
「ただのヤンキー攻めは喰い飽きてっからな、総長。…ちっ、肉入ってやがったぜ」
「アジア最強マフィアの一人息子でユーヤの従兄弟ってだけでも、十分普通のヤンキーじゃねーと思うぞぃ。肉ちょーだい(=・ω・)/」
「朱雀の親父が、息子の精液で子供作ろうとしたらしいぜ。無駄な事しやがる、グレアムに不可能はねー」
「あ、白百合が試験薬の検体に志願したって言ってたっしょ?タイヨウ君に飲ませるつもりかねぇ(´`)」
「さーな。プロトタイプの効果不明瞭なもん、山田に飲ませるとは思えねーぜ」
「ええ、あれはハニーに飲ませるつもりはありませんよ」

箸巻きを貪っていた二人の間に、ぬっと現れた眼鏡が妖しく光る。無言で飛び上がった健吾に抱きつかれながら、豚肉の欠片を睨む裕也は欠伸を発てた。

「私が、ね?」
「Σ( ̄□ ̄;) ふぉ?!ふぉお」
「おい変態、山田は良いのかよ」
「ふ、あれは彼の愛情表現でしてねぇ。今回はスタンダードに最高級スイートルームを用意し、徹夜にも万全な準備を敷いています。多種多様な夜のお供を見れば、彼は私の愛を再認識するでしょう」
「結果が見えてるぜ」

どうせ山ほどゲームを用意したのだろう。確かに徹夜で楽しめそうだが、一人寂しく枕を濡らす事になるだろう叶二葉の光景が、健吾と裕也の脳内を駆け巡る。
愛とはこうも盲目にさせるのか。他人には非の打ち所がない魔王に、二人は同情した。

「で、何か用っスか(´`)」
「ええ。私は一晩中ハニーを愛でなければならないので、君達に私の仕事をお願いしようかと」
「「だが断る」」
「ふぅ。私もね、手は打ったんです。けれど、嵯峨崎君のお陰で高坂君が使い物にならないんですよねぇ…」

ボキッゴキッ。
麗しい微笑のまま拳の骨を鳴らす美しい男に、カルマは震えた。


「…判るか?俺はテメェんとこの駄犬の尻、拭わしてやるっつってんだ」

画面の前の皆さん。
これは脅迫ではありませんか…?


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