可視恋線。

初めの一歩

<俺と先輩の仁義なき戦争>




「新入生を苛めるとは何事だ」



俺は会長に憧れていた。



すらりとした長身に意思の強い凛とした眼差し、他を圧倒的に凌駕する威圧感、それに並ぶ存在感。全てが男らしくて素敵だ。

平凡過ぎる外見に、どんなに頑張ったって標準圏内の学力、特別進学クラスの会長には到底手が届かない凡人イコール、俺。
でも良かった。時々の総会でその姿を見られるだけで励みになったし、中央委員会、つまり一般に言う生徒会なんだけど、その中央委員会に並ぶ権力を持つ左席委員会の会長ってだけで、俺みたいな平凡からすれば神様だ。


「この俺の眼鏡が黒い内は、愛の無い苛めは許さん」


なのに。
そんな御方が今、目の前に居る。

「─────眼鏡?」
「…君は平凡受け候補か?」
「はい?」
「いや、イイ。ようこそ帝王院へ、俺は君を歓迎しよう。眼鏡の底から」
「め、がね?え?」

高等部始業式を終えたばかりの裏庭で、明らかに不良チックな先輩達に絡まれた俺は半泣きで。
カツアゲなら素直に金を渡そうと心に誓った時だった。

「俺は春が好きだ。君も好きか?」
「え?あ、はいっ、好きですっ」
「そうか、良かった」

何処からかやってきた会長は、不良すらビビる眼光で先輩達を光の速さで倒した。

「春は恋の季節だ」
「鯉?」
「そう、正に青春の煌めき」
「へぇ…」
「君は恋を知ってるか?」
「あ、はい。去年までばぁちゃんの家に居ました、綺麗な錦鯉」
「そうか、その首を傾げる姿は最早芸術の域に達しているな」

桜吹雪の中で、始業式で見た凛とした眼差しを細めて、

「あのっ、助かりました先輩…じゃなくて、天皇猊、」
「因みに不良攻めなら総長クラスを狙うとイイ。一匹狼的な不良もオススメだ」
「えっ?えっ?」
「また会おう、平凡チワワ。俺はいつも君を見守っているよ」

登場した時同様に去っていく背中を見つめ、一言。



「かっこいい…」


この春、俺が進級した帝王院学園高等学部は男子校だ。
初等部から高等部まで男しか居ない。


「天皇猊下と、話しちゃったよ…」

俺、松原瑪瑙。まつばらめのう。
珍しいのは名前だけ。気軽に松原様と呼…すいません嘘です、調子乗りました。

「メェ!早くしないと置いてくぞ!」
「まっつん!寮はあっちだろー」

友達、品行、自他共に平凡。
この度、高校生になったばかりの平凡だ。何か文句あっても言わないで、打たれ弱いの。

「あっ、ごめんごめん、かわちゃん、うーちゃん」
「メェ、何かあったん?」
「何か嬉しそうだね、まっつん。笑顔がキモいよ!」
「失敬な。ちょっとさ、…天皇猊下を見ちゃったんだよっ」
「「マジ?!」」


少なくともこの時までは平凡だと思っていた。
かっこいい先輩に憧れる、ただの平凡だと、ね。



「さっきから、二年が騒いでるよな。星河の君がまた何かやったのかな?」
「二年って不良が一番多い学年だもんなー、でもやっぱ天皇猊下が一番強いんだろ?」
「あっ、でも何か最近すっごい人が戻って来たらしいよ。留学って言ってたけど、実際は停学だったんだって」
「ふーん?…メェ、話聞いてる?」
「駄目だコイツ、旅立ってるよ。いーな、天皇猊下見たなんてさ」



大誤算だったよ、うん。


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