可視恋線。

真っ暗な空模様にまたもや暗雲到来!

<俺と先輩の仁義なき戦争>




立ち入り禁止の古びた立て札。
びゅうびゅう風が吹き込むボロボロの建物。
何故かレッドカーペットが敷かれた廊下の先、明らかに普通じゃない人達がズラッと並んで、

「お帰りなさいっす!」
「おー、最近この辺荒らしとる奴ら居ったやんか。仲間っぽい雑魚捕まえて来たわ」
「適当にしばいて吐かせときぃ」
「ジュース持って来い、お客さん連れて来たで、騒ぐんやないで」
「そやで、総長の後輩やねん。無礼働いたら死ぬでほんま」

グルグル巻きにされたスキンヘッドの不良さん達が、厳つい人達に連れて行かれる。青冷めた不良さん達の悲鳴が遠くなって、俵抱きにされた俺、松原瑪瑙がポイッと放り出された先は、

「えー?何ぃ、この汚いのぉ」
「こない汚い餓鬼が朱雀の相手て、冗談キツいわ」
「あたしは結構可愛いんちゃうか思うけど?襲ったら泣きそうやんか、可愛いぃ」

ボンキュッボフンなお姉様方がエロい格好で佇んでる、漫画に出て来る様な『アジト』っぽいとこだった。
ジロジロと化粧と香水の匂いをまき散らす美女達に観察されて、投げ出された姿のまま、尻餅ついて小さくなる俺、超雑魚。女の人にも馬鹿にされてるのがすっごい判る。

「アンタ、朱雀とどう言う関係なん?ほんまはただの後輩やろ?」
「あかんでぇ?ミナもあたしも諦めとるけど、リサは朱雀君にまだ惚れとるからぁ、下手なこと言うたら…」
「リサはほんま怖い女やねん。あたしが慰めたるよ?ほら、おいで坊や」

キツい美女はリサさんで、ショートカットの美女がミナさん?もう一人は判んないけど、全員、おっぱいに赤い鳥のタトゥーが入ってて、零れそうなおっぱいをこれでもかと晒してる。
ミナさんに見つめられて真っ赤になりながら、尻で後退ると、さっき不良をボッコボコにしてた金髪さんにぶつかった。

「可哀想に、あんまビビらせんとき。三人共、総長に飽きられとるんや。しつこい女はキモいで」
「かーっ、幾らほんまの事でも、あかん!そら、あかん!特にリサは長い事あの人と付き合っとったんやで?」
「ワシは幾ら美人でもリサは抱けへんなぁ。サトミやったらいつでもええよ?」

好き勝手言いまくる金髪さん達に、顔を真っ赤にしたリサさんだけが怒ってどっかに行っちゃった。
ケラケラ笑ってる皆は誰も追い掛けないみたいで、特に残った二人の女性は、満面の笑みだ。

「精々した。リサ、最近なんやかんやヒステリー起こして八つ当たりしてくるんやもん、大概にして欲しいわ」
「ケントが総長に会った言うてから、リサ期待しとったもんなぁ。せやのに、やっと見つけた手掛かりが坊や一人やなんて、頭に来たんやない?」

どうやら、美女三人衆は多分、朱雀先輩の彼女だったっぽい。今も付き合ってる様には見えないけど、リサさんは一番長く朱雀先輩の彼女だったんだろうね。
ムカついてきた。物凄くムカついてきた。

「ケントが言ってた、朱雀が勃たなくなるほど惚れた美女って誰やねん?大阪中探しても見つからへんなら、東京ちゃうん?」
「あの朱雀が萎えた言うから楽しみにしとったのに、ユート、ええ加減見つけて来てよ」
「仕方あらへんやろ、うちかて頑張っとるんやで。何処探しても総長居らんのやもん!夏休みくらい帰って来とる思たのに」

不良さんをボッコボコにした人はユートって名前みたい。何か、さっきから連れてこられた俺、超スルーされてるんですけど。
そりゃ、大阪に来たらリスキーダイスってチーム見つけて、朱雀先輩の手掛かり掴もうって思ってたよ?でもさ、これって、全く意味ないじゃん。

「…う」
「あん?チビ、何か言った?」
「畜生っ、ずちぇの浮気者ぉおおお!!!」

叫んだら、皆ビックリした表情で黙った。
あんまり頭に来てたから、朱雀を『ずちぇ』って言ってしまったけど、怒り心頭の俺は気付いてない。

「スマホ買ってくれたって繋がらなかったら意味ないじゃん!何だよっ、散々スケベな事しておいて居なくなるなんて…!どうせなら最後までヤってから消えろよっ、ずちぇの馬鹿ぁあああああ!!!」
「ちょ、ちょい、」
「お、落ち着きなはれや?チビはんっ」
「ジュチェて、アンタ、総長の名前呼び捨てにするほど親しいの?!今までどんなセフレにも許さんかったんやで?!」

べそべそ泣きじゃくる俺に、金髪さん達がハラハラした様に窺ってくる。でも何か開き直ってた俺は、不良が怖くなくなってて、最強な気分でした。怖いね、開き直りって。

「知らないよ!朱雀が呼び捨てにしろって言ったんだもん!俺の事はマーナオとか言ってっ、俺の名前は瑪瑙、松原瑪瑙だっ!畜生っ、日本に居るなら日本語使えってんだ、スケベ変態浮気者バカ朱雀ーっ!」

持ってたリュックサックを振り回したら、中から色んなものが飛び出す。
ブドウパンツとか、チェリー柄の歯磨きセットとか、朱雀先輩に貰ったゴツい時計とか、何か色々。時計以外には名前書いてるから物凄い恥ずかしい筈なんだけど、錯乱しててやっぱり気付かない。

「一年Aクラス…ま、松原瑪瑙…」
「そ、そのオメガ…!」

俺のパンツを痙き攣った表情で眺めてる金髪さんと、先輩から貰った時計をビックリした表情で拾い上げたユートさんが、素早く正座した。

「すんませんでしたー!」
「チビ…いやいや、まさか貴方様が松原瑪瑙様とは露知らずっ、ご無礼お許し下さいーっ!」
「えっ、まさかほんまにこの餓鬼が松原瑪瑙やの?!ケントが言ってた、総長のスマホの未送信フォルダに詰まってた?!」
「ええーっ、恥ずかしいポエムがぎっしり保存されてたっつー、あの?!」

何やら騒がしい金髪さんを見てたら、バサバサっと金髪が床に落ちて来たんだよ。全員カツラだったらしいヤンキーさん達が、正座のまま深々頭を下げてくるので、ミナさんから貰ったティッシュでズビッと鼻を咬んだ俺は、パチパチ瞬くしか出来ない。

「あ、あの?」
「ほんまあかん、じゃあこの間のメチャクチャ強かったカルマの奴ら、嘘ネタ吹き込んでたん?!」
「ああ、物凄い可愛い言うてた!こっちに来る言うてたからバイトサボってまで探しとったのに、とんでもない失態や!」
「殺されてまう…!総長があんな恥ずかしい恋文したためた相手やろ?!なんぼ命あっても足らへんッ」
「え?えっ?恥ずかしい恋文って何ですか?!」
「「「すいませんでしたー!」」」

ガツンとコンクリートに頭を叩きつけた、元金髪さん達がそのままグリグリ頭を地面に擦り付けてる。
ビビったのと、朱雀先輩のスマホに保存されてたらしいメールでテンパった俺は、転がってる自分のスマホを掴む。

「えっと、確か、メール画面は…」

実は俺、メールがまだ出来ない。
短いメールは届いた瞬間表示されるから、わざわざ開かなくても良いわけで。フォルダに溜まりまくった朱雀先輩からのメールは、まだ読んでないんだ。
先輩もそれ知ってからは、一行で判るメールしかしてこなかったし。

屋上に来い。とか。
舐めたい。とか。
今からイく。とか。…何処にでも行け!


「あ」

四苦八苦しながら、何とか開いたメール。間違いだらけの漢字が豊富に並んだ画面は、愛の言葉でいっぱいだった。
一番古い、スマホを貰った日の日付のメールは、

「『まめこへ。俺はもう二俣はしない。血痕するまでタバコもやめる。好きだ。早く抱きたい。』」

二股、結婚、かな?
真っ赤になった俺がうっかり口に出して読んでると、ガンッと凄い音がした。


「冗談やない…!何で?!何でこんな餓鬼、何でやの?!私かて本気や!朱雀が言う事やったら何でもしてきたやんかぁ!」

リサさん、だ。
ドアをハイヒールで殴りつけたらしい片っぽだけ裸足の彼女は、ボロボロ泣きながら睨んできた。
茶髪や黒髪だった不良さん達が立ち上がってリサさんを囲んだけど、暴れ出したリサさんが靴を投げてきて、ぼーっとしてた俺の頭に当たる。

「あ痛っ」
「きゃあ!あかん、血ぃ出てるよ?!」

鋭いヒールが目に当たって、反射的に目を覆うと、ひやりとした感触がほっぺを伝った。
慌てるサトミさんとミナさんが、ティッシュを握って俺の目とかほっぺとか拭いてくれて、お礼を言ってたら、リサさんの悲鳴を聞いたんだ。

「ユート離してよ!痛い、痛いぃ!」
「ええ加減にしときや、リサ!チビが総長の大切な人や判ってやったんやろ?!」
「テメェのは度が過ぎとる。ワシらリスキーダイスは総長を馬鹿にする奴は許さへんのや。知っとるな、テメェも」
「おい、全員でこのアマ剥いてぶち込んだれ!済んだらヤクザに売ったらええ!」

何だよそれ!
リサさんを無視して手当てしてくれる女子二人に、あんまり痛くないから大丈夫ですと叫んで慌てて立ち上がった俺は、リサさんを連れて行こうとしてる不良に飛びついた。

「ちょ、何してんですか!女の人ですよ?!ぶ、ぶち込むとか、ヤクザとか!冗談ですよね?!」
「姐さん、離して下さい。こん餓鬼は許されん無礼を働きました。処分は当然でっせ」
「姐さんって…じゃなくて!処分、処分?!えっ、無礼って、俺がぼーっとしてたから?!」
「あかんてチビたん、邪魔せんといてや?」

優しい顔立ちのユートさんに肩を掴まれて、青ざめたリサさんを掴んでる厳つい不良さんに頭を下げられた。

「リサさんをどうするの?!酷い事したら駄目だよっ」
「総長は絶対や。その総長の大切な人やったら、うちらには守る義務がある」
「だからって…!」
「アイツは調子に乗りすぎた。ま、殺しはせんから。あ、殺して欲しいんなら話は別、おわっ!」

ユートさんの股間を蹴り上げて、握ってたスマホを厳つい不良の頭に投げる。
いつもは当たらないけど、今日は最高潮みたいだ。狙い通り当たったから、ね。

「な、何晒しとるん、餓鬼ぃ!」
「姐さんかて許さへんぞ、ゴルァ!」
「…っ。許さなかったらどうすんの?!女の子に手を上げる男の風上にも置けない不良の癖にっ、俺みたいな弱い奴ボコボコにしたいならすれば良いじゃん!バーカ!」

強気な癖に号泣してるチキンな俺、馬鹿はお前だよ、本当。

ああ。スマホ壊れたかな?
朱雀先輩、誤字ばっかだったけど、好きって文字は間違えじゃないよね?

「朱雀なんか怖くないんだよ!何がリスキーダイスだ、何が関西最強だぁ!カルマの方が格好いいもんっ、紅蓮の君の方が朱雀より強かった!星河の君の方が性格悪いし!遠野先輩の方がずーーーっと凄いんだからぁ!」
「やべ、格好良いって言われた俺」
「あは。何で隼人君だけ性格悪いわけえ?意味判んないんですけどお」

ブチ切れてた厳つい不良さんが、凄い勢いで吹き飛んでって。
ユートさん達が、長い足の下で唸ってた。

「え」
「ふん、たこ焼きばっか喰ってっからンな弱ぇんだな。図体ばっかで、蹴った感触がねぇぜ」
「あは、筋肉ばっか付けてどうすんの?体重増えて喜んでんの、アンタだけー」

へらへら笑いながら、起き上がったユートさんを見もせず殴り倒した金髪は、間違いない、帝王院学園で最も性格が悪いと俺が思ってる、神崎先輩だ。とんでもないオシャレな私服で、雑誌から飛び出てきたみたいに見える。現役モデルだもんね、うん、格好いいのは格好いい。

「紅蓮の君、だぁ」
「おう、久し振りだな松原。嵯峨崎佑壱先輩だ、讃えろ」
「あがり症の癖に調子乗んなあ」

紅蓮の君の真っ赤な髪がサラッサラで、神崎先輩はユートさん以上に優しげな垂れ目な癖に偉そうで、リサさんは座り込んだまま顔を赤くしてた。

「きゃー!何やのっ、あの二人!」
「朱雀なんか目やあらへんっ、イケメンー!」

盛り上がる女性軍はともかく、ユートさん達は今にも死にそうな顔で紅蓮の君を見上げてる。

「さ、嵯峨崎佑壱やて?!」
「お、お宅ら、この間の来たカルマの…」
「副総長の名前…!マジでケルベロスかいな?!」
「あー、この間はうちの馬鹿が迷惑掛けたな」
「あは、ケンゴ一人に負けたって?弱すぎてウケるー」

俺の後ろに関西不良が張り付いてきた。
そんなに怖いのかな、カルマって…。


「やァ、メニョたん。なんて酷い怪我だ」

世界が凍った気がする。


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