不安、と言うものは気付いた時には既に、深層心理の底にしっかりと根付いている。
少しばかり離れただけで、気が狂うほどに。
『情けない男だね』
『いつまで寝てるんだ』
怪我はしていないか。
泣いていないか。
気弱そうな見た目に反し、案外気が強い癖に泣き虫な彼は、
『起来愚蠢(起きろ馬鹿息子)』
今、何をしているのだろう。
「痛、ぇ」
見上げた天井の格子窓の向こう、オーロラと言えば聞こえが良い大気汚染の闇空に赤い月。
「あー…何か、懐かしい夢見たな。………あっちは、梅雨明けした頃か…」
此処は空気が悪い。
此処は酷く埃臭い。
此処には、彼が居ない。
「クソ、脱獄したら片っ端からぶっ殺してやる」
人の心は移ろい易い。
酷く脆い感情に翻弄されている、それが人間。
愚蠢、馬鹿な動物。
楽園と思っていたこの場所を今や地獄と思う様に、願わくば。
「…畜生、腹減った」
彼が自分を忘れない様に。
(この胸に渦巻く、愛おしい気持ちが消えてしまわない様に)
「まめ」