可視恋線。

そして僕は嵐に巻き込まれるのです

<俺と先輩の仁義なき戦争>




ひらり、ひらひら。
舞い落ちる雪が頭と頬を撫でた。
あ、雪だ。
雪といえば雪だるま。早く帰ってかわちゃん達にも教えてあげなきゃ。
雪合戦の雪玉に石は入れちゃ駄目だよ。だって痛いんだもん。でもかまくらの中でお餅焼いても大丈夫なんだってさ。何か、雪が溶けて潰れそうな気がするんだけど。三匹の子豚の煉瓦の家だって、地震が来たら一発アウトな気がするのに。いや、かわちゃんが昔言ってたんだけど。

狼より地震が怖いよ。
日本列島地震の旅、ってね。ダーツ刺さったら地震が起きちゃう恐ろしい番組を思い出した。あれ?そんな番組あったっけ。

ま、いっか。



トンネルを抜けたら雪国でした。



「ん…?」

そんな筈はない。だってもうすぐ5月だもんね。とか言ってる場合じゃないのは間違いなかった。

「まめ」
「ひぁ?!」

目が覚めたら目の前に金髪。
怒ってるのか眠たいのか判らない無愛想な怖い顔、だけどやっぱり美形で羨ましい事この上ないヤンキーが居た。

「な、なななっ」
「やっと起きたか」

何だろう、何で見上げてるのかな俺。何だろう、何でヤンキーが馬乗り?いつからサラブレッドになったんだろ、俺。ラーメン屋のサラブレッドなんてあり?
いやいやいや、何かお尻がスースーするのはナニ?!何事なの?!

凄いデジャブ!


「何っ、何して…?!」
「あん?いや、待っても起きねぇからちょっとな。待ちくたびれたぜ?」
「え?!ここ何処?!雪国、っ痛?!」
「ぐ!…お、俺の部屋、だ」

がばっと起き上がったらヤンキーの顎と頭突きした。余りの痛さに頭を押さえると、同じく顎を押さえた朱雀親分(何かもう普通の不良じゃない気がするからこう呼ぼう)が目一杯恐ろしい表情で言う。

「何で?!さっきまで確か屋上に居たのに!」
「はぁ?夕飯食ってる途中に気絶したの覚えてねぇのか?」
「へっ?」

全く覚えてないんですけど?
確か屋上に連れてかれて…どうしたんだっけ?ジュース買って貰った記憶はあるけど、それからが何か曖昧。すっごい怖い事があった様な気もするけど…んー、覚えてないみたい。

「お、覚えてない…です。ちょ、何でパンツ履いてないのっ?俺!」
「脱がした」
「返してよ!…いや、返して下さい、すいません」

何だろう凄いデジャブ!
無意識に布団で下半身を隠せば物凄く睨まれて、ちょっとチビりそうになる。てか、え?何で貴方様は裸なんでございますか?!
あっ、…スウェット履いてた。セーフセーフ。

「ノーパンで良いじゃねぇか」
「はぁ?!…いや、良いです。せめてズボン履かせて下さいすいませんすいません」
「ちっ。仕方ねーな」

メチャクチャ渋々そうな顔でパリッと糊が利いたスラックスを返してくれた変態にビクビクしつつ、素早く足を通す。うぅ、ブラブラするよ…アレが…ぐすん。
あ、思い出した。脱がしたも何も、俺昨日コイツのシャツしか着てなかったんだっけ。


え?
オムライスどうしたんだっけ?



『お前のがよっぽど美味そうだ』

あ。

とか何とか言って、あ、アレ…噛まれたんだっけ?!
そうだ、俺の必殺キックが決まったのと同時に噛まれたんだ!凄い痛かった!死にそうなくらい痛かった!死んだひいじいちゃんが手を振ってたんだ!トンネルの向こう側で!

もうこれ以上こんな所に居たら駄目だ。痔になる上にチンコちょん切られる。


「あの、俺そろそろ帰、」
「物覚え悪いな。だから送ってかねーぞ、帰るつもりなら一人で帰れ」
「はい?だってここ、寮だよね?…じゃなくて、寮ですよね?」
「無理にケーゴ使うな。俺とお前の仲じゃねぇか、まめた」
「さようなら」
「まぁ、待て」

いや別に一人で帰れるし、変態なんかと親しくするつもりないし、と思ったのは一秒だけ。

「確かに寮だが、…俺の部屋。っつったろ」
「どう言う、─────あ。」

思い出した!Fクラスっ、まともな人が居ない、あのっ!極悪非道、特殊学科…!

「…つ、つまり、不良さんだらけ?」
「亡命中の王族から果てはマフィアまで選り取り見取り、浮気すんなよまめっくす」
「ひっ」

拝啓かわちゃん、うーちゃん。瑪瑙は生きて帰れそうな気がしません。

「あ、あの、」
「明後日帰るなら送ってってやるぞ」
「いや、あの、」

畜生!土曜日の馬鹿野郎!

「まめたのおまめが狙われねー様にな」
「ひぃ、耳の傍で囁かないでー」
「耳が弱ぇのか。…成程」
「やーっ」

拝啓、父ちゃん母ちゃん。瑪瑙はお婿に行けないかも知れません。

「道理で乳首舐めても噛んでも起きねぇ訳だ」
「そんな事したのっ?!」
「おまめ舐めても起きねぇなら突っ込むか、っつって転がした途端起きたからな、指も入れてねぇ。ちっ」

危機一髪っ!
何なのこの人!何処に指突っ込むつもりだったわけ?!
も、やだ。帰りたい。このままじゃ男としての大切な何かを無くしてしまう。力じゃまず適わないし。う、外に出たら命がなさそうだし!
…どうしよう。誰かに迎えに来て貰うにも携帯なんか持ってないし。叫んで誰かに助けて貰うなんて無理に決まってる。Fクラスのフロアは端っこにあるんだもん。Fクラスの人にしか聞こえそうにないし。

「う」
「な、泣くなよ。泣いても送ってかねーからな!」
「だって…っ、うぇ、お腹空いたよぅ、遅くなったらご飯抜きにされちゃうよぉう。今日の朝ご飯はかわちゃんが当番なのにぃっ」
「またそれか!何でも好きなもん食わせてやっから泣くな!」

俺に泣かれたら困るっぽい?
だったら嘘泣きしてやれなんて気合い入れなくても、変態と2人っきりってだけで充分泣けるし。昨日嘘泣きバレてたぽいし。
ああ、さり気なく見つめた窓の向こうが超明るいよ。うん、腕時計見たら8時回ってる。このままじゃどの道殺されちゃう。

帰っても帰らなくても俺抹殺確定。
無断外泊死刑の罪に処するって言われるね。かわちゃんに。


此処には変態しか居ない。
外に出たら命がない。
無事帰れたとしても、鬼のかわちゃんから殺されちゃう。


知ってる?
これがあれだ、四面楚歌って奴だ。こないだ授業で出たんだよねぇ、えへへ。

って、笑ってる場合じゃない。
初日はともかく、タメ口使っても怒らないし、頭突きしても怒らなかったし、ブラックタワー蹴っても殴られてないみたいだし、ちょっと慣れてきた俺。
郷に入りては郷に従えってね。有名なヒロミゴーも言ってるよ。


「学食のステーキセット食べてみたい」
「何でも良いっつってんだろ、良いか!泣いたら犯すぞテメェ!」
「勿論奢り?」
「お、おぅ。その辺の奴等に運ばせっから、好きなもん選べ」

変態が学食のメニュー表をくれたから、お腹が鳴った。ちょっと響いて恥ずかしい!

「まめた、飯も満足に食ってねぇのか…?ジエが普通科と工業科は貧乏人が多いっつってたか。…遠慮すんな、好きなだけ食え」
「うわぁ、ルームサービスみたいっ。あのねっ、9800円のサイコロステーキ頼んでも良いっ?半分こしたら4900円ずつになるよ!」

じっと見つめたら、携帯電話を開いた変態が頭を撫でてきた。むっ、自分が大きいからって子供扱いしてるっ。
ま、良いけど。奢ってくれるなら別に。4900円なんて二ヶ月分のお小遣いだもの。

「…俺だ。メニュー片っ端から運ばせろ。あ?だから手当たり次第持ってこい5分以内だ。無理だぁ?まめが餓え死にしたら全員血祭りにすんぞ。あ?だったら李に持って来させろ。大学だぁ?知った事か。ガタガタ抜かすとテメェらの大事な青蘭犯すぞ」

何かボソボソ言ってる不良を無視してキョロキョロ辺りを見回すと、やっぱり此処は俺達の部屋より広くて綺麗だった。と言うか真っ白。何も彼もが。朝だからこそ昨日より明るく見える。
俺の部屋は三人部屋だから、寝室兼勉強部屋にはベッドと机が3つ並んでて、統一性もなければプライバシーなんてあったもんじゃないじゃん?顔に似合わず大雑把なうーちゃんは脱いだ服そのまま放ってるし、掃除機掛けながら英単語帳見てるかわちゃんのスペースはいつも綺麗だし。
なのにこの部屋、すっごい広いのにベッドと、小さいソファ…あ、壁に液晶テレビがある。でもそれだけ。不自然過ぎるくらい何にもない。

「何かモデルルームみたい。何にもないの、何も彼も真っ白っ」
「ああ、入ったばっかだからな。要るもんがあんなら用意させんぞ、祭に」
「ジエさん。昨日も言ってたよね、えっと、結局何だっけ」
「俺の奴隷?」
「ど、奴隷?!」
「いや、何つーんだっけか、…ヒツジ?」
「メリーさん?!」
「不是、我的管家(違ぇ、俺の秘書)」

何語ですか?

「ステワード、あー、日本語で何っつったけな…」
「もういい。やっぱ判んな、…ぎゃー!!!」
「まめ?」

大きなシャツと制服のズボンだけで起き上がった俺の目に、窓に張りつく眼鏡が映り込んだ。
びっくりし過ぎてすっ転べば、一瞬で居なくなった眼鏡の代わりに変態が覗き込んでくる。


「いいい今そこに!オタオタオタ、」
「まめた、ちゃっかりしろ」
「しっかりしろの間違い!」
「しっかりしろおまめ、朝だからこそ気合い入れろや」
「ああ、もう!」

股間握られて反射的に平手打ちしたら、ガチャっと開いたドアの向こうに大きい人が見えた。
目が覚める様な鮮やかな緑の髪、同じく緑のカラコンぽい目をパチパチ瞬かせて、変態に平手打ちしたまま馬乗りになってる俺とニヤニヤしてる朱雀を見てる。

「んだヒロ、来るならメール寄越せ」
「ケンゴ来なかったか?」
「見りゃ判んだろ、邪魔すんなヒロ」
「そら悪かったな」

くる、っと背を向けた緑の人にヘルプミーと叫びそうだった俺が、靡くカーテンの向こう側にまた眼鏡を見付けて硬直すれば、ぐるんっと振り返った変態朱雀と緑の人がガバッと後退った。
因みに俺は変態の腕に捕まったままなので、後退った瞬間すっ転びそうになったよ。

「総長?」
「出たかカルマが…!」
「くぇーっくぇっくぇっ!」

しゅばっと飛び込んできたオタクさんにパチパチ瞬いてる間に、変態が吹き飛んだ。
一緒に吹き飛びそうだった俺はオタクさんにぎゅむっと抱き締められて、あ、Sクラスのバッジが…ほっぺたに!

「良く聞くが良かろうにょスゥたん!健全な高校生カッポォの休日と言えば腐健全なデート!」
「テメェ、授業はどうした遠野」
「ふ、この僕の萌えを妨げる者は例え俺様攻めでも許さないにょ」
「総長、このままじゃ不法侵入だぜ」
「Fクラスが怖くて腐男子がやれますか!メニョちゃんっ、ちわにちわ!」



あの。
つい興味半分だったんです。
Sクラスのバッジに見惚れちゃって、ついうっかりオタクさんの眼鏡の下が気になっちゃって、だから、本当に、悪気はなかったんです。


「俊ーっ!!!」

吹き飛んだドアの向こうから、久し振りに見る山田先輩が鬼の角を生やしていた事にも構わず。右手に黒縁眼鏡を掴んだまま、ぺちょり、と転げた俺、松原瑪瑙15歳。


「不用意に雄を煽ってはならない。君は今一度学び直す必要がある様だな、メニョちゃん」
「オタオタオタオタクさ、ん…?」
「言ったろう、俺はいつでも君を見守っているんだ」

ふわっ、と。
体が浮いた。凛々しい眼差しに見つめられたまま、オタクさん…いや違う、左席会長天皇猊下の腕にお姫様抱っこされちゃった俺、

「俊っ、会議すっぽかして何やってんだお前さんは!」
「試練だ、大河朱雀。愛する者を返して欲しくばこの俺を倒すが良かろう…タイヨーちゃんどうやってFクラス寮まで来たのか恐ろしくて聞けないにょ」

にや、と笑った山田先輩の手に鞭があった気がする。いや、山田先輩はそんな人じゃない…と思う!優しい先輩だし!きっと!

「大河君、俺が許す。あそこの馬鹿野郎を痛め付けてくれないかい」
「去死ロ巴(死ね)」
「不要見怪、阻魂不散(悪いが意志までは死なない)」
「…(今夜覚えとけ)」
(愛しているのは誰)」

ニヤニヤしている…気がする遠野先輩が、俺には判らない言葉で呟いた瞬間、変態朱雀がじっと見つめてきた。

「マーナオ」
「うぇ?え?え?」
「朱雀、悪く思うなよ」
「っ、ヒロ!テメ…!」

溜め息を零した緑の人がガシッと変態を羽交い締めにして、俺はふわっ、と。空を飛んだ。

「俊ーっ!」
「メニョ姫は頂いた!返して欲しくば怒ってるタイヨーを宥めてから宜しくお願いしますっ!」
「ぎゃああああああ助けてーっ!」
「まめっ!離せヒロ!」
「松原君っ、すぐに君の王子様が助けに行くからねー!」


あれ。
山田先輩が物凄く楽しそうに見える。

あれ。
何か、地面が近付いてきた。あはは、流石遠野先輩、西寮で一番高い4階から飛び降りたんだ。凄いなぁ!


「ぎゃー!」
「ん!メニョちゃん?あらん?メニョちゃんっ、社会の窓から明太子が見えてるにょ!ハァハァ」


誰か俺のタンスから葡萄パンツを持って来てくれないかな…切実に。


*←まめこ | 可視恋線。ずちぇ→#



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