可視恋線。

台風の目は比較的穏やかです

<俺と先輩の仁義なき戦争>




皆さんこんにちは、松原瑪瑙です。
今日はニュース風にお伝えしまふ………噛んじゃった。滑舌が悪い松原瑪瑙15歳、これと言った特技が無い高校生です。覚えてらっしゃいますか。


今日のニュースです。
某私立高校にて、何の罪もない美少年が乱暴な上級生から暴力を奮われた模様。理事会は全く関与せず、美少年の心は甚く傷付いたでしょう。
つべこべ言わず通知表をオール10にして貰いたいものです。


すいません、所々調子に乗りました。
本当は何の変哲もない俺が、美不良に追い掛け回された挙げ句教室にまで乗り込まれて逃げられなくなっただけです。


「まめ」
「ひっ」

つつ、と首筋を撫でられてビクッと震え上がる俺は、何故か目の前の変態の部屋に居た。こんなに広くて綺麗な部屋には見覚えがないのだから、百発百中朱雀…先輩の部屋だ。
モデルルームみたい。何もない変な部屋。広いけど。俺の部屋みたいに2段ベッドが並んでて、壁に机が三つ並んでるごちゃごちゃさと大違いだ。ベッドしかない。何だこの部屋。綺麗好きなかわちゃんが喜びそう。

「中々の色気の無さだ、流石だぜ俺のまめた。おまめも相変わらず小せぇな」

状況はベッドの上で襲われてる感じ。あはは!

「一口サイズだしなぁ、勃起してもあんま変わんねぇ気がする…」
「いやーっ」

なんてフランクに笑ってる場合じゃないよ!可笑しいな!さっきまで屋上に居た筈なのにね!

聞くも涙、語るも号泣の話を聞いてよ!って言ってもほんの2・3分前の話だけど。


何かスースーする気がしたんだ。
主にお尻の辺りが。何かが体を這い回ってる感覚って言うの?夏場になると増える居候みたいなさ、カサカサ這い回ってる感覚がしたから可笑しいなとは思ったんだ。
いや、俺だってゴキブリは好きじゃないけどさ。家にはわんさか居たし、夏休みになると家に帰るから良く這い回ってたりしたわけ。でもまぁ、カブトムシとか捕まえたりしてたし。ぷちっと退治する訳ですよ。一応、俺だって男だもん。


で、無意識に退治しようとした俺が寝惚けたまま右手を振り上げて、ぷちっと叩けば。


「煽るんじゃねぇよ、まめた」

聞きたくなかった声が聞こえて飛び起きたのです。勿論、超至近距離に美形不良を見付けて悲鳴を上げたのは言うまでもない。
ガバッと起き上がろうとしたけど変態が上に乗ってるから、結局また枕に逆戻りだし。でも一瞬見えた下半身が裸でビキッと硬直しちゃったりして、ベッドの端に俺が朝履いた苺トランクスが見えたりしちゃうと、もう、フリーズする以外に何が出来ただろう。

「乳首尖って来たな」
「ひゃっ」

固まってる内に、人の尻を揉みまくってた変態がおっぱいに噛み付いてきた。ポカポカ殴る事にする。効いてない。足もバタバタやってみる。…効いてない。
あんまりバタバタしたらチンコまでバタバタしちゃう!ブラブラしちゃってる!どうしようっ、何か俺が変態みたくなってきたじゃん!

「や、だぁっ!やめろっ、離してよぉ!」
「…何か無理矢理っぽくて良いな。レイププレイっつーか…」
「いやーっ!」

神様仏様お母さん、ゴキブリよりしぶとい生き物が此処にいます。

「やだっ、やだやだやだ!う、うわぁぁぁん!お母さぁん!」
「な、泣くなっ。気持ち良い事しかしてねぇだろ」
「気持ち良くないもんっ、気持ち悪いもんっ」
「マジか?!」
「うっうっ、あんなの入れたら死んじゃうよぉう!うっうっ、俺殺されちゃうんだぁ!うわぁん!」

いつか見たあのブラックタワーを思い出した。男同士のエッチの仕方なんかさ、この学園に居たら皆知ってるよ。男だもん、エッチ話するじゃん。そりゃ、興味ないかって言われたら興味津々で聞いてたけどさ。
暴れてたらお腹も鳴った。暴れてるから気付かれてないっぽい。

「うぇ、俺っ、帰らなきゃいけないのに…!今日はかわちゃんがご飯当番なのに!うっ、ご飯抜きにされちゃうよぉう!うわぁん!」
「わ、判ったから泣くな!」
「お腹空いたのに犯されちゃうんだぁ!うわぁん!今日はハンバーグだって言ってたのにっ、食べられないまんま殺されちゃうんだぁ!うわぁん、お母さぁんっ」

例え男同士でエッチが出来るとしても、いざ自分がその立場になると笑えない。
だって俺だって男だから、襲う立場でしか考えた事ないもん。報道部が何ヵ月かに一度やってる抱きたい人ランキングを見てさ、この人可愛いなぁこの人綺麗だなぁ、って想像したりするけど。実際エッチしたいとか考えた事ないもん。

「ご飯〜っ、お肉〜っ、ハンバーグぅう!!!うわぁん!」
「飯なら奢ってやっから泣くな!」
「食堂のご飯…?」

何だかあわあわしてる変態をきょとりと見れば、ベッドの上の方をごそごそ漁ってた。

「祭に言えば何でも持ってくっから、好きなもん食え。確かデリバリーメニューがこの辺に…」
「ジエさん?友達?」
「いや、あー何っつーのか、あれだ。我的管家」
「は?」

何か考え込んだ変態が真面目な顔で言った。日本語ではない発音だったから、きっと外国語だと思う。

「ウォディガンジャ」
「え?え?」
「判んねぇのか?」

ベッドを漁ってた変態が、何かが見当たらなかったのかきゅっと眉を寄せて、緑色の瞳に鋭い光を滲ませる。怖い。

「授業があんだろ、一年なら」
「授業?は、How are you?My name is、」
「Song yuan ma nao」
「何語っ?英語の授業にそんなの出て来たっけ?!」
「ちっ、後でヤフれ」

ヤフれって何?
もしかしてググれの事だろうかと首を傾げて、俺携帯持ってないしどうでも良くなった。
だって寮生活だもん。携帯なんか要らないし、他の皆みたいなお金持ちでもないしさ。うち五人兄弟なんだよ。あ、俺が長男ね。

俺が学園に入ってから二番目の弟が生まれて、本当はその弟も帝王院学園に入るつもりだったんだけど、その前に三つ子が出来ちゃってさぁ。
そっちにもお金懸かるから、お小遣い欲しいとかあんまり言えないじゃん?一応社長の父ちゃんもさ、本店に率先して入って頑張ってるの知ってるから。

あ、でも月々のお小遣いが通帳に入ってはくるんだ。学費だけで良いのにね、父ちゃん有難う。

「ご飯奢ってくれるの?…ですか?」
「食堂の飯が良いのか?」
「だって食堂のご飯高いんだもん…ですよ。前に一回だけ食べたオムライスランチ…もう一回食べたかったなぁ」

携帯を取り出して耳に当てた変態が、ちょっとだけ笑った…気がする。だって無表情なんだもん!判らないよ!
挙動不審にキョロキョロしてたら、さっき朱雀…先輩が漁ってたベッドヘッドにコンタクトレンズを入れるケースみたいなのがあった。片方だけ開いてて、中に青いレンズが入ってるのが見える。

「晩上好。我是点菜、蛋包飯午餐二イ分」

何だか中国語っぽいなぁ、と耳を澄まして聞いてたら、ポンポン頭を撫でられた。携帯を閉じてベッドにぽんっと投げた不良がまた覆いかぶさってくる。

「誘ってんのか、まめこ」
「ふわっ」

外国語が喋れるなんて凄いなーとか感心してたから反応出来なかったよ。この野郎め。

「大体、俺とエッチしたいなんて馬鹿なんじゃない…ですか」
「あ?何でだよ」
「な、何でって、俺可愛くないし美人でもないし」
「そら間違いねぇ」
「ぐ。と、とにかく!あっち行って…下さいっ」

また泣きそうになりながらシーツに包まって蓑虫みたいになれば、ちっと舌打ちした変態が物凄く渋々離れてくれた。

「あ、有難うございます」
「もうベソベソ泣くんじゃねぇぞ」

一応先輩だから敬語使ってみたけど、タメ口でも別に怒ったりしないし。変な不良。お前の所為で泣けてくるんだよ、と思いつつ起き上がれば、さっきあった筈のトランクスがなくなってた。
落ちたのかな、と下を見てもやっぱり見当たらない。

「パンツは…?」
「無くても困んねぇだろ、別に」
「困るに決まってんだろっ!」
「部屋の中まで服なんか着てんのかまめた、変わってんな」
「どっちが変わってんだよ!日本の恥っ、露出狂だろ!」

シャツ一枚で然もグシャグシャでおっぱい丸見えで下半身裸なんて逮捕ものだよ!馬鹿じゃないっ、コイツ馬鹿なんじゃない!

「あ?んな事言ってもよ、俺ぁ半分中国人だからな」
「はぁ?」
「母親がアレだ、美国と混血儿でンな目と髪、」
「ちょっと待ってっ、所々良く判んない!メイゴォって何」
「USA」
「アメリカ?つまりお母さんがアメリカの人なのっ?ハーフ!」

そう言えば最近皆が、朱雀の君とか言う先輩の噂してた気がする。どっかに留学してたとか停学処分になってたとか、あれってもしかしてこの変態の事?!
だって凄いお金持ちでSクラスだったんでしょ?まっさかー。

「親父が日本との混血儿、あー、ダブルスタンダードだからな、俺はあれだ、クォーターだ」
「ややこしい…えっと、アメリカと日本がクォーターで、中国がハーフで良いのかな」
「良いんじゃねぇか?」
「適当だなぁもうっ」
「マーナオ」

また、だ。
さっきもこの台詞を言ってた気がする。相変わらず意味不明だけど、シーツを巻き付けてた俺にのしのし近付いてくるなりほほほ、ほっぺにチューしてさ!

「ソンユェン、マーナオ」

英語っぽい発音だけど、多分中国語だと思う。だからほっぺにチューするのやめて!耳触るのやめて!あっ、ちょっと!

「好可愛的瑪瑙(可愛いなぁ、まめた)」
「だから何語なのっ?!」
「好吃的清香(旨そうな匂いさせやがって)」

かぷり、と。
変態が首に噛み付いてきたから、ブラブラを覚悟して右足を振り上げた。
ら、素早く離れた。畜生っ、喧嘩慣れしてやがる!そりゃそうか、不良だもんね。聞いた話じゃ総長らしいもんね。

「全くっ、油断も隙もない変態!」
「お前こそちったぁ油断して隙見せろ、まめっくす。…まぁ良い、我的燎原之勢、鼓励(獲物はちったぁ元気な方が燃えるからな)」
「難しい言葉使わないでよ!」
「中国語くらい喋れんだろ、中等部じゃ必須科目だろーが」

ぶちぶち文句を言いながら、ドシドシ歩いていった背中を見てやっぱり進学科だったんだな、と思った。
普通科の偏差値って大体50〜60の間なんだよ。で、俺らBクラスは50前後ね。悪い方じゃないんだけどさ、進学科は次元が違うから。偏差値80とか言う勢いだから。化け物ばっかなんだよね、山田先輩もSクラスって知った時は親近感湧いたけども。

うちの学園で人気がある人は大体中央委員会に入ってて、何年も同じ人が生徒会長なんだけど。神帝陛下の事。近くで見た事は勿論ないけど。
イギリス人らしい副会長なんか俺が見ても凄い男前だなぁって惚れ惚れしちゃうし、次期会長なのに嫌がって書記やってる紅蓮の君なんかビジュアル系ロックバンドの人みたいに派手だし、風紀委員長もやってる会計の白百合様は様を付けて呼びたくなるくらい美人だし…言葉遣い悪かったけど。皆物凄い美形ばっかなのに、皆Sクラス。神は二物を与えるんだよ。羨ましいなぁ、頭悪くても変態でも良いから、俺もイケメンな顔が良かったなぁ。

あ、遠野先輩はもうとんでもなく格好良いから許せる。


「おい、飯来たぞ」

そろっと朱雀(この際心の中だけ呼び捨てにしよう)が出ていった扉から覗くと、ベッドがある部屋と同じくらい広いリビングにオムライスが見えた。

「それっ、前に食べた奴だ!」
「この時間にランチメニューっつーのもアレだからな、他にも適当に運ばせたぜ」

確かに何か他にもおかずがいっぱいある。何かワインまで見えたけど無視して、無駄に大きなシーツをズルズル引き摺りながらソファーに近付いた。

「これでも着とけ。お前コンクリの上で寝やがったから、制服汚れちまってたぜ」

ぽんっと大きなTシャツを投げられて、ソファーの裏側に隠れながら着替える。大きいからパンツ履いてなくても見えそうにない。
うん、ブラブラするけど。

「た、大河先輩って…意外と良い人?」
「ジュチェ」

ひょこっと頭を覗かせると、グシャグシャに丸めたシーツを俺の部屋にもあるダストシュートに投げ込んだ朱雀が短く呟きながら睨んできた。
ヨジヨジ背凭れからソファーに登ってた俺はビクッと震えて、ゆっくりソファーから降りる。


と。
無表情で固まってた変態が口元に手を当ててバシバシテーブルを叩いた。何やってんの、この人。変態なんじゃない?いや、変態か。

「可愛過ぎ」
「は?うわっ」

凄い早さで近付いてきた変態がぎゅむっ、と抱き締めてきた。思わず飛び跳ねても、ぎゅむぎゅむ抱き締められて逃げられない。
オムライスのいい匂いがするのに!またお腹が鳴った。今度は完璧に聞かれたと思う。…恥ずかし過ぎる。

「很喜双、って言え」
「はい?」
「很喜双(大好き)だ」
「何かいやっ」
「じゃ、愛老虎油(愛してる)で良い」
「さっきより難しくなってるし!ねぇ、オムライス食べちゃ駄目なの?」

仕方ねぇな、と溜め息を吐いた朱雀が俺のほっぺを撫でて、何だか優しい目をした。

「マーナオ」

やっと離れた、と思えばソファーにのしのし乗り上がって、俺の背中の後ろに無理矢理座る。ぎゅむっと後ろから抱き締められて、Fクラスでさえなかったら逃げたのにな、と溜め息一つ。

「頂きまぁす」

目の前には美味しそうなご飯もあるし、今日くらい諦めようかな、とか、思ったり。






どうしよう。
これ、知ってる気がするんだけど。


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