「リーダーの力を貸してほしい」
桂は万事屋を訪ねるなり、訳の分からないことを言い出した。
京の二条城が鬼兵隊に占拠されてから数時間。江戸では見廻組や遊撃隊が警戒を強めていた。
そんな中、わざわざ坊主に変装してまで万事屋を訪ねてきてした頼みがこれだ。馬鹿ここに極まれりである。
銀時が鼻をすすりながら呆れ顔で黙っていると、やっと言動の突飛さに気づいたのか、桂は再び口を開いた。
「今朝の京のニュース、お前も見ただろう」
「ああ、高杉が馬鹿やらかした話な」
銀時は羽織りの前をかき寄せながら、眉間に皺を寄せた。
「あれの鎮圧に真選組が動いているらしい」
そういえばニュースキャスターがそんなことも言っていた気がする。
「で、それがうちの神楽と何の関係があんの」
銀時が面倒くさいのを隠さずにため息を吐くと、桂は更に小難しい顔をして声を潜めた。
「奴の狙いは、手薄になった江戸だ」
「……分かってらぁ。そんくらい」
陽動は高杉の常套手段だ。しかも真選組まで誘導している所を見ると、幕府とも繋がっているらしい。
「で、お前はこの機に便乗して幕府を倒そうってワケ?」
銀時の声は冷たい。おまけに片手は木刀の柄に添えられている。
「俺がそんな男に見えるか、銀時」
銀時の剣呑な態度に、桂は凛と姿勢を正して向き合った。ふと腰の辺りを見ると、普段差してあるはずの刀がない。
志士への警戒が厳しい中、あえて丸腰で万事屋を訪れたらしい。ここまで来ると、呆れるのを通り越して感心する。
「ま、中入れ。ここはさすがにさみィ」
銀時は木刀から手を離すと、桂に背を向けて応接室へと向かった。
「感謝する」
桂は強張っていた身体から力を抜くと、万事屋の敷居を跨いだ。