いざよふ

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 爆発から数時間。真選組が京都に到着して最初に目に入ったのは、見るも無残な二条城の姿だった。城の天守に戦闘艦が突っ込み、半ば大破している。
 様子を探らせた斥候によると、城の周囲だけではなく、大通りにも武装した天人たちが配備されているという。
 近藤と土方は地図を広げて戦況を確認した。
「こりゃ、一筋縄じゃいかねェな。援軍も来るって話だが……」
 報告を受けた近藤が渋い顔で地図を睨みつけた。
「援軍は当てにすんな。実践経験のねェ奴らの集まりなんざ、居ても邪魔になるだけだ」
 同じく、地図へと目を落としながら吐き捨てる土方の顔は、曇っていた。地図上の敵陣に赤い駒を置くと、眉間の皺は更に深くなった。
「四番隊と五番隊、それから六番隊で鳥羽街道を攻めて、七番隊と八番隊、三番隊で小枝橋を押さえる」
 土方は二条城へと通じる大路を塞ぐ敵陣の前に、青い駒を置いた。
「で、十番隊を守りに残し、残りで二条城を一気に攻める。それがさっきの軍議での決定事項だが……」
 淡々と言葉を紡ぎながらも、土方の表情は暗い。それはそうだ。相手はどこから手に入れたのか、最新鋭の武器弾薬を備えている。
 一方、こちらの戦力はほとんどが刀だ。刀と数門の大砲と、銃器が少々あるくらいだ。圧倒的に戦力が違う。
 土方は奥歯を強く噛み締めた。
「全員分の銃くらいはあるが、戦闘機やビーム砲を打たれりゃ意味はねェ」
「なぁに気弱なこと言ってんでさァ」
 突然、パシンと小気味良い音を立てて、勢い良く障子が開かれた。
「やっこさんは武器見せびらかすだけ見せびらかして、まだ攻めてこねェ。ってこたァ、どんなに武器が最新でも、使える奴がいねぇか、数に限りがあるってことじゃねェんですかィ」
 沖田が卓上の赤い駒を指で弾く。それと連なるようにして、隣の駒も倒れた。
「悩んだ所で敵さんはもう目の前にいるんですぜィ。それを今さらガタガタ言い訳して戦わねえってんですか。とんだ腰抜け野郎ですねィ。俺に副長譲って死ね土方」
 沖田の言が進むに連れて土方の額に青筋が浮かび、煙草のフィルターが噛み千切らんばかりに噛みしめられた。
 それでも言い返さないのは、土方も沖田の言葉に反論の余地が無いからだろう。
「総悟、トシだってそれぐらい分かってるさ。ただ、武器に限りがあるのはこっちも同じなんだ。その使いどころを慎重に考えなくちゃならねェ」
「そうやって考えてるうちに、敵に突っ込まれたらどうすんでィ!」
 珍しく声を荒げる沖田に、近藤と土方は目を見開いた。いつも軍議で寝こけている姿からは想像もつかない。
「今は時間がねェ。動くしかねェんでさァ! それともあんたは、俺たちじゃ勝てねェって思ってんですかィ!」
――ああ、そうか。
 土方はようやく合点がいった。
「悪ィ。おめェの――おめェらの実力を見くびってるつもりはねェし、ましてや臆したわけでもねェ。俺もちっと、頭に血が上ってたみてーだ」
 いつの間にか短くなっていた煙草をもみ消し、新しい煙草に火を着けると、それを大きく吸い込んだ。
 熱くなっていた頭が冷えていく。大局を見据えるのも必要なことだが、だからといって目の前の問題を解決しないことには先へと進めない。
「とっとと街道攻略して、城へ攻め込むぞ」
 煙草を灰皿に押し付けて、青い駒を地図上の城へと滑らす。赤い駒を蹴散らす姿は爽快だ。
「ったく、ようやくその気になりやしたかい。手間のかかる野郎でィ」
「うっし、じゃあトシもやる気になったところで、いっちょハデに行こうじゃねェか!」
 どんな逆境でも突き進む。そうでなければ真選組ではない。土方は邁進する2人の背中を見つめながら、うまそうに煙草を吸いこんだ。


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